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 風が強い。
 別れは間近に迫っていた。皆は大号泣していてとても会話が通じなかった。やれやれとわざとらしく溜息をつく。
「そんなんでよくカイゾクやってるよネ」
「うっ…うるせっ…」
「マオ〜〜ッ!!!」
 マオは視線だけであの長身痩躯を探したもののこの場にはいないことを確認した。どいつもこいつも仕方のない人間だ。「…エース」息を吐きながら彼を呼ぶ。
「任せたヨ」
「…ああ」
 大きな波を乗り越えた彼は、少し大人びて見えた。
「マオ」
 己の名を呼んだペンギンに目を向ける。
「…体には気をつけて」
「オカーサンかヨ」
「お前、無茶ばっかりするから心配なんだよ」
「人のこと、言えンの?」
 そうして笑えば釣られたように彼も笑った。そしてその横で、ベポが涙に濡れた視線をひしひしと突き刺してくる。
「じゃあネ、クマおにぎり」
「ううっ…ぅ、相変わらず…意味わからない…」
 言葉もままならない。
「ねえ、シャチ」
「っんだよ…」
 涙を堪えているのか、シャチの言葉尻は震えていた。若干肩もふるふるとわなないている。彼は必死に感情を噛み殺していた。
「やつがれ、ちゃンとナカマだと思ってるヨ」
「!!!」
「じゃ、そういうコトで」
 これ以上言葉を重ねる必要はない。マオは返事も待たずに黒い穴に飛び込んだ。
 別れは簡潔に。
 穴の中は上下左右何もかも見えない。墨を垂らしたようなのっぺりとした黒が周囲を包んでいる。道は霊子を固めたものであり、ぼんやりと光り輝いていた。背後の入口は、もうとっくに閉じられた。
「良かったんですか?あんな最後で」
 少女が心配そうに訊ねてきた。
「それにキャプテンさんは……」
「良いンだヨ。アレで」
 どいうもこいつも分かっていない。ローが今、何を考えているのか。どうすれば傷が浅くなるのか。
「良いの」
 人間には、できるだけ優しくしなければ。
「こんなモンで良いの」
「……?」
「劇的である必要なんかナイの」
 ハートの海賊団の冒険は明日も続く。得体のしれない、ましてやこの世界の住人でない死神に時間を割く必要はない。
 でも。
「どこにいたってダイジョーブ」
 心を誰かに寄せることは、どこにいたってできる。