みんな知らないところで誰かに護られてる


『“奴”を監視しろ』

 地下の遊び場の件が漸く片が付いたと思ったら、すぐにまた命令が下された。休む暇も無く、俺はある人物の監視を開始した。まったく…いくら監察担当だとはいえ、少しくらい休暇が欲しいと思う。とまあ愚痴は程々に……先に述べた通り、俺はある人物を監視しているのだが、実際は見守っているに近い。標的の過去がどんなに薄暗くても今までの標的の動きを思い返せば、到底標的が疚しいことを考えているとは思えなかった。
 そして今日も今日とて標的に動きは無い。土方さんの疑い深い性格にちょっと嫌気が差す。まあ確かにそういう“万一”のことを考えなければいけないのが真選組だが、それでも彼女を疑うのは少し心が痛む。彼女は今日も決まった時間に家を出、仕事場に向かい真剣な表情で仕事をし、帰宅する。
「…いつも無表情だけど、結構表情出すんだ」
 ここ暫く彼女を監察して分かったこと、それは彼女の無表情の中にも様々な色が存在するということだった。普段彼女を見ているようで見ていなかったのだと思い知らされるのだが、そういう新たな一面を発見する度、俺はちょっぴり喜びに似た感情を抱く。そして斎藤隊長に見せてあげたいと思うのだ。


 監察生活は二週間目を迎えようとしていた。相も変わらず動きは無く、いつも通り平穏な一日を過ごしていた。
 その日の彼女は出張でとある役所の絡繰を直しに出向ていた。彼女を見ていると本当に仕事が好きなんだという気持ちがありありと伝わってくる。そう思える仕事に就けて彼女は心底幸せなのだろう。
 出張は夕方頃に片付いた。彼女は少し疲労を滲ませながら帰路に着いていた。危なっかしい足取りだなあと思いながらも、俺は彼女の前に出ることは許されない。本当に危ない状況にならない限り俺は彼女を護ることはできないのだ。こういう時、自由な万事屋の旦那が羨ましいと思う。……そんなことをぼやいた折、俺の視界の端で不審な動きをする男が居た。こいつ、危ない。すぐに分かった。
「霧島さ…――」
 俺が彼女に危険を知らせるより早く、誰かが動いた。
 視界の端。本当に誰も捉えることもできないくらいにあっさりと。俺でさえよく理解できなかった。そいつは一瞬で不審な男を路地裏に引きずり込んで一太刀浴びせたのだ。まるで誰でもできるくらいの淡泊な動きに違和感さえ抱かなかった。暗い路地裏でよく見えなかったが、そいつは背中に何かを背負った男だということだけは分かった。
「今のは………あっ霧島さんは!?」
 慌てて視線を戻すと彼女は先程の惨状に気づくことなくふらふらとした危うい動きで歩いていた。俺は先の男が気になったが任務を放棄するわけにもいかず、取り敢えず簡潔な内容のメールを副長に送って彼女の後を追った。
prev | top | next
back