ニュースの時間

※監禁描写、非合意 何でも大丈夫な方向けです

仕事の都合でテーブルシティに寄ったアオキは、当たり障りのない料理屋に入った。カウンター席というものがどうやら存在しない店のようで、どこに座ろうかと決めかねていると店員がやって来て奥の席へと案内する。隣の席には女性客二人が座っており、アオキは少しばかりの居心地の悪さを感じて背を正した。とはいえ此処は食事処。飯が運ばれて来たらそれにそれも気にならない。アオキは湯気立つ食事を前に軽く手を合わせて、飯へと箸を伸ばした。

「ねえ、知ってる?」
「何、急に?」

食事を進めている中で隣の女性客の声が耳に入った。特に聞こうと思った訳ではないが、どうしても耳に入ってくる会話をBGMに箸を進める。

「なんかさあ、チャンプルタウンで女性が行方不明になったらしいよ」
「えっ、本当? 事件ってこと?」
「分かんないけど怖いよね。やっぱり若い女性っていうし、私達も気を付けないと……」

自身がジムリーダーを行う街が話題に上がり、一瞬箸の動きが止まる。それと同時にアオキの脳裏にはとある女の姿が浮かんでいた。彼女は外に出ないから大丈夫だが、まさかテーブルタウンにまでニュースが流れているなんて。目の前の皿を平らげたアオキは水を飲み干して会計へと向かう。今日はまだリーグでの仕事がある。さっさと帰りたいと独り言ち、リーグへ向かうべくタクシー乗り場へと足を進めた。

*
帰社後机の上に積み重なっていた仕事をどうにか捌き、ようやく帰路へと着いた。昼間の女性の話が少し気になったアオキはスマホロトムでニュースを検索する。すると確かに地域のニュースとして簡単な記事が見つかった。あの女性はこんな記事をよく見つけたものだ。常日頃から危機管理がしっかりとしているのかもしれない。ああ、彼女とは大違いだ。
アオキはニュースページを閉じて、スマホロトムを懐にしまう。家にいる彼女の為にも早く帰らなければ。昨日までの元気は成りを潜め、自宅を出る前に側にいてほしいと口にした彼女の事を思うと自然と足が速くなった。自宅マンションに着いたアオキはドアに付けた三つの鍵を手早く解錠し、素早い動きで玄関に身体を滑り込ませた。鍵周りに異常がないだけを確認して、薄暗い廊下を進む。
そんな暗い廊下に漏れ出す光の場所でアオキは立ち止まった。それは中の様子が見えない部屋で、そこにすぐ入るのではなく前に立って様子を窺う。微かだが物音がする事に満足したアオキはゆっくりとドアを押し開いた。

「ただいま帰りました」

静かな室内にアオキの声が響く。確かに気配はするもののそれに返事はない。手に持っていた鞄を床に置き、再度アオキは言い放った。

「ただいま、帰りました」
「お、おかえり……なさい」

どこか威圧的に感じる言葉に、弱弱しい女の声が返答した。その声に気を良くしたのかアオキは頷くとその声の元へと歩いていく。声の主はシーツを纏い、身体を微かに震わせながらアオキを見上げていた。

「いい子にしていましたか?」
「して、ました」
「そんなに怯えんでも大丈夫です。いい子にしていたんでしょう?」

彼女が座っているベッドへと腰掛ける。二人の重みでベッドが軋んだ音を出した。泣き腫らして赤くなった目で見つめながら、彼女はアオキの言葉に今にも消えてしまいそうな声で返す。可哀想になる程震える彼女の様子をアオキは舐めるように射貫いた。彼女のシーツから見える白い躯体には、アオキが今日までに付けた様々な愛の跡が見受けられた。ああ、自分の愛の証が視覚化されているのは、これ程まで気分が高ぶるのか。全身にも及ぶそれにアオキの支配欲は満たされていく。

「ナマエさんもそろそろ慣れてきましたか。そんなに豪勢な部屋でもありませんが、あなたの為に用意したんです」
「わ、たしのために……あ、ありがとう、ございます」

瞳を滲ませて呟く彼女の喉元をなぞる。そこにも勿論愛の痕跡が散りばめられていた。

「今日は何をしていましたか?」
「なにも、して……ません」
「本当に?」
「……はい」

一通り彼女を確かめた後、アオキは瞳を覗くように問い掛ける。射すくめるかのようなそれから逃れる事が出来ない彼女は、震える唇でアオキの望む言葉を紡ぐ。

「そうですか。そういえば今日とあるニュースを見まして。どうやらチャンプルタウンで女性が行方不明になったようだ」
「……!」
「今、何を考えましたか?」

彼女の目が見開かれ、声にならない音が漏れたのをアオキは聞き逃さなかった。本当に彼女は分かりやすい。だからこそ手元に置いておかなければ。

「そ、それは……! ひっ、酷い事はしな、いで!」
「しませんよ。あなたにそんな事を自分がする筈もない」

アオキから逃げるように後退った彼女であったが、所詮はベッドの上。背が壁に着き、すぐに退路は消えてなくなる。感情的になる彼女とは対照的に、アオキは泰然とした様子で彼女に詰め寄る。激しく動いた重みによりスプリングが嫌な音を立てた。

「それなら……家に帰して!」
「家? ナマエさんの家は此処でしょう。どうしてそんなに怯えた目でこっちを見るんです。何にも不自由等ない此処で何を求めるんですか?」

嫌だ、帰してと譫言のように繰り返す彼女を、アオキは理解出来ないといった様子で眺める。家に帰してほしいとは?此処が家だと何度も説明した筈だ。それに昨日彼女が眠りに落ちる前に、彼女自身此処が家だと口にしていた筈ではないか。

「何って……私の日常を返してよ……」
「……? これが望んでいた事でしょう。言っていたではないですか、ずっと何もせずに家に居たいって。それが叶ったのにあなたは随分と強欲な人だ」
「言った、かもしれない。けど、貴方には言ってない! 一体貴方は誰なの!?」

今まで同様というものを一切見せてこなかったアオキの動きが止まる。それも一瞬の事、アオキは彼女の肩を掴むとベッドに引き倒した。壁に着いていた背をベッドに着けた彼女は、衝撃からか詰まった声を溢す。そんな彼女を気に留める事なく、アオキは彼女に馬乗りになると顔を近づけた。

「ああ、またそれか。アオキです、何度言えば覚えるんだ。また昨日のように愛してあげましょうか」
「ぅ、あ……ごめ、ごめんなさい」
「いいんです。大丈夫です、もう一度しっかりと教えて差し上げますよ。ねえ、ナマエさん」

きっとまた彼女も素直になってくれるに違いない。自身のネクタイに手を掛けながら、アオキは微笑んだ。




チャンプルタウンのXX歳女性が行方不明 2日夜・勤務先を出たまま 情報提供求める

女性(XX)はチャンプルタウンの勤務先を出たあと行方不明となり、警察は行方を調べるとともに情報提供を呼びかけている。
女性の勤務先から6日に「無断欠勤が3日続き、自宅へと様子を見に行ったが返事がなかった。事件に巻き込まれていないか心配だ」と110番通報があった。
同日、警察はチャンプルタウンの路地で女性のものと見られるスマホロトムを発見。20時58分に通信履歴が残っており、それ以降に事故もしくは事件に巻き込まれたものと見て調査している。
女性の特徴は………………………………………