近い。昨日からアラートが妙に近くにいる気がする。気のせいかな? と思っていたけれど、カーリーも「近くないかしら?」と言っていたし、いつも一緒に騒いでいるブロードキャストが「今日は俺っちは一緒にいれない、ごっめん〜!」なんて早々と何処かへ行ってしまった。
しょっちゅう煩いと怒られているから、アラートのことがあまり得意ではないようだ。そんなにあからさまな態度は取るべきじゃないと思うけれど、ブロードキャストは怒られるのが嫌でそこまで考えていないみたい。
そんな彼のことは置いておいて、今解決すべきはアラート。昨日、それとなく距離が近くないか? と遠回しに聞いてみたが「君は気にしなくても大丈夫」なんて、やんわりと否定されてしまった。
今日聞いても同じような答えしか返ってこないかもしれない。しかし、流石に視線と違和感を抱いたままいるのは無理だ。意を決してこちらからアラートへ近づいた。
「昨日から思ってたんだけど、なんだか近くない?」
「……」
「アラート?」
「これが、君を守るための私が考えた最善策なんだ!」
何故か問いかけに答えないアラートに思わず眉を顰めてしまう。聞こえてなかったのかな? と彼の名前を呼ぶ(彼は地獄耳なのでそんな事はないだろうけど)。すると下を向いていたアラートが勢いよく顔を上げ、今まで聞いた事のない声量で叫んだ。この感じ、とてつもなく嫌な予感がする。誰かがいる時に話したら良かったと思ったが、もはや後の祭りだ。
「昨日カーリーと話してただろ。サンタクロースとかいう男が家に侵入してくるって!」
「待ってアラート! その話は……」
ああ、的中してしまった。前にもこんな事があった気がする。だけど、やれデストロンの襲撃だ、やれデストロンが悪さをしているなんて日常茶飯事で、アラートの様子がおかしくなった時なんて覚えていない。
それに、まさかサンタクロースの話がきっかけ? 彼は真面目だから、基地に侵入して来ないか心配で、私にサンタクロースの詳しい話を聞こうとしていたのだろうか? とりあえず落ち着いてもらわなければ。そんな思いで口を開いたが、アラートは止まらない。
「クリスマスと呼ばれる日の夜にいい子の部屋に来る? ナマエはもう来ないとは言っていたが、君はいい子だ。クリスマス前に来たら? 家には来ずに他のところで襲われたら? 本当は俺がずっと一緒にいるのがいいんだが、何故か司令官が許してくれない。どうしてだ? 君を危険に晒したくないのに! インフェルノだって落ち着けと言ってくる! ナマエは危険に晒されていないし、安全だって! そんな事を言って、みんなして俺からナマエを遠ざけようとしてくるんだ! 君だって俺と居たくないから、そんな事を言……」
「アラート! サンタクロースは! 親なの!」
「うんだ………親……?」
彼のマシンガントークを止めるため、心配の種であるサンタクロースの正体を明かす。途中から話がサンタクロースからズレていた気がするけれど、正体を知ったら安心するだろう。
現にアラートは口を止め、レンズを何度か開閉した。事実を咀嚼しているようだったので、今ならちゃんと話を聞いてもらえると思い、慌てて彼の心配をなくすようにと伝える。
「そう、両親がいい子にしていた子供のためにプレゼントを渡しているだけ。だから、アラートが心配しているような事は起こらないから!」
「……分かった」
何とかアラートは落ち着いてくれたようだ。どうしてあそこまで暴走してしまったかは分からないけれど、どうにかなったと胸を撫で下ろした。
「よかった! そうアラートの勘違いだったんだよ」
「分かったよナマエ。やっぱり俺の事が嫌いなんだろ!? 嫌いで一緒に居たくないから、そんな言い訳をしてくるんだ!」
「えっ、ちょっと! 聞いて!」
違う! アラートは納得なんてしていなかった。あまりに飛躍した話をする彼に少し恐怖を覚える。足が無意識のうちに後ろへ下がった。こんな態度を取れば、彼を更に刺激するのでは? とはっと気づいた時には遅かった。
アラートは後退った時の微かな音を拾っていたようで、彼の怒りは更にヒートアップしてしまう。もうどうすればいいのか、私にはアラートの怒りを収める方法もここから逃げ出す方法もない。彼を見つめることしか出来ない。
アラートは怒りからだろうか、目の辺りが普段より赤くなっていた。ただ、そんな事に気づいたところで打開策にはなり得ないのだ。
「言い訳なんて聞きたくない! 俺はこんなにもナマエを大切に思っているのに! お前は俺なんてどうでもいいんだろ!?」
「アラートのこと、大切に思ってる! だから落ち着いて!」
「……大切に? そうか、それならずっと俺と一緒に居よう、ナマエ」
私のその言葉を聞いた途端、アラートから怒りの感情は消えたようだった。アラートは先程までの様子と打って変わり、心底安心したかのように微笑んだ。穏やかな笑みを貼り付けたまま私に投げかけた言葉は……今の私にとっては逃げられない呪詛のように思えた。どう返事をしたら、彼は納得してくれるだろうか?
上手く回らない頭を必死に動かしていた時、彼から何かが爆ぜているような音が聞こえる。まるで線香花火のような音だ。ビックリして彼をじっと見ると、頭のセンサーが点滅しているだけでなくバチバチと火花を散らしていた。こんな状況なのに思わず声が出る。
「ひ、火花……!」
「話を逸らすなよ、返事は…」
「ラチェットーー! 助けて! アラートが爆発しちゃう!」
思い出した! 彼が前にこうなっていた時のことを。その時も疑心暗鬼になっていたし、それに……放っておいたら爆発してしまうと言っていたじゃないか! 自分の状況も分からないまま、私に返事を求めてくる彼を無視し、私はあらん限りの声で助けを呼んだのだった。
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「すまない、ナマエ。私は決して君を傷付けるつもりはなかった」
「分かってるよアラート」
ラチェットに文句を言われながら、治療されたアラートが恐る恐ると言った様子で私に近づいて来た。確かに少し怖かったけれど、故障していたなら仕方がない。それにいつも皆のために、基地を守っているアラートを知っている。あまりに不安そうに私の様子を伺ってくるので、少しだけ笑いが溢れてしまった。大丈夫だよ、アラート。
そのまま仕事に戻るのかな? と思ったアラートは以外にも立ち去らなかった。何かを言おうと口を開けては閉じるを繰り返している。私は彼が伝えられるまで、のんびり待とうと決めた。
数分、いやもしかしたら数秒だったかもしれないが、ようやくアラートは伝える決心をつけたようで、真っ直ぐにこちらを見ながら口を開いた。
「だが、その、私……俺が君と一緒に居たいのは本当だ。ブロードキャストばっかり構っていないで、少しは俺とも一緒に居てくれないか?」