11月11日

「ハニー! 今日は何の日か分かるか?」

至急オレの家に来てくれ! とカラ松から連絡を受け、松野家にお邪魔した私はソファーに座り、大袈裟な身振りでそう尋ねたカラ松を冷めた目で見ていた。

「電池の日」
「そう! ……いや、ちっがーう! 今日はポッキーの日! 分かるだろ、ナマエ!」

勿論わざと、カラ松が欲しい回答から外して答えた。若干大人げない言動であることは否めないが、万が一と慌ててきた私の事も考えてほしい。松野家に着いた途端、あれよあれよという間に手を引かれ二階に連れてこられ、これである。

「まあ、分かるよ」
「それなら話は早い! なんと偶然にもここにポッキーが」
「私を呼んで、何の日かっていう話をして偶然ねえ」

私が趣旨を理解していたのが嬉しいのか、カラ松の頬が緩む。それを慌てて引き上げ、決め顔へとパッと変える様子が少し可愛い。幾ら格好つけようとしても、嬉しさを隠しきれていない。
家に居るくせに何故か着ていた革ジャンの中から、カラ松は勿体付けたようにポッキーを取り出した。体温で溶けているかと思ったけれど、袋を開けて確認して頷いているカラ松を見るに、きっとポッキーは無事だったんだろう。

「ハニーのまるで蕾のように可愛らしい唇に、オレは誘われるように……」
「あーー! イタイ!」
「なっ、大丈夫か!?」

想像を軽く超えるヤバイ台詞に思わず声が……! というわけではなく、こう言うとカラ松は心配して止まってくれるのでそれが目的だった。あまり必要ではないライフハックだ。
案の定私の声にカラ松は、オレはどうしたらいいんだ!? とおろおろし始める。困り顔のカラ松を見ていてもよかったが、生憎私は虐めて喜ぶといった趣味は持ち合わせていない。私はふっと肩の力を抜き、緩やかに笑みを浮かべつつカラ松に問い掛ける。

「大丈夫。それでカラ松はどうしたいの?」
「えっ……? あ、ゴホン。なあハニー、オレと甘美な恋のゲームを…」
「普通に言って」
「はい、ごめんなさい」

そうだった。カラ松はかっこいいと思って言っているのだから、そのまま続けようとするに決まっていた。彼の台詞に被せてしまった私の言葉に、カラ松の肩がビクッと跳ね上がる。そして、流れるような謝罪に思わずふふっと息が零れた。

「……このオレとポッキーゲームをしてくれ、ナマエ!」
「いいよ」
「どうしてダメな……へ?」

片手にポッキーの袋を持ったままカラ松は固まる。きっと、いつものように私が断ると思ったんだろう。あれだけハニーと呼び、私の事を構いに来ていたくせに私の気持ちに気が付いていないなんて、カラ松は何を見てきたんだろう。
ちなみに私も冷静なように見えて内心ハラハラしている。もし、カラ松が本気ではなくて、今まで通りの温く心地の良い関係を続けたいだけならどうしよう。カラ松にも聞こえるんじゃないかって程、激しく心臓が音を立てている。その音に負けないように、再び口を開く。

「カラ松となら、いいよ」
「ほ、本当に…いいんだな?」
「う、ん」

いつの間にかカラ松に両肩を掴まれていて、このままキスが出来てしまいそうな距離に彼がいる。私の返事に、ごくりとカラ松の喉が動く。可哀想な事に主役だったはずのポッキーは、カラ松によって砕かれてしまった。
あと少し、といったところでガタッと音がしてカラ松の動きが止まる。どこか一点を見つめ震え出した彼の視線を辿ってみると……色とりどりの彼ら、松野家兄弟全員が集合していた。

「おい! ブラザーたち!」

パッと私の肩から手を放し、カラ松は覗こうとして倒れてしまった彼らに詰め寄っていった。語気を荒立てるカラ松はなかなかにレアだ。

「げっ、ばれた」
「お前が前に出過ぎたからだろ!」
「はあ!? 俺のせいかよ」

逃げようとしてお互いに罪を擦り付け合う彼らをぼんやりと見ていると、隣に誰かの気配を感じる。そちらへ視線を向けると、ピンクが似合う彼らの末っ子がいた。

「ねえ、ナマエちゃん。本当にカラ松兄さんでいいの?」
「うん。カラ松“が”いいの」
「そっか……。コラァ! お前ら大人しくしろ!」

私の言葉にニコッと笑うと、トド松は騒ぎの中に突っ込んでいく。カラ松を私の方へと放り投げ、他の兄弟を蹴飛ばしながら、ごゆっくり〜と部屋から消えていった。実に鮮やかな手腕。
再び二人っきりになった部屋で、お互いソファーに腰掛けながら暫く沈黙を貫く。何か言わないと、そう思い顔を上げるとカラ松も同じタイミングで顔を上げた。それが何だか可笑しくて、顔を見合わせたまま一頻り笑いあった。

「なあハニー……いや、ナマエ。改めて、オレの気持ちを伝えようと思う」
「……うん」
「オレ、ナマエの事、好きだ」
「私もカラ松が、大好き」

キスをするのに、甘いお菓子なんて必要なかった。