パチパチと炎が爆ぜる音、ペラリ…ペラリと紙を捲る音を聴きながら、ナマエは大きなソファーに身を預けていた。この部屋の主に合わせたソファーは彼女には大きく、身体が深く沈み込んでいる。彼女はぼんやりと床で気持ち良さそうに寝息を立てる”小さな彼”を見ていた。
暖炉の暖かな空気にナマエの頭が船を漕ぎ始めた時、「くしゅん!」可愛らしい音が部屋に響く。
「あれ? 寒くて起きちゃった?」
ナマエはソファーから身を起こすと、寒さで震える小さな彼を抱き上げた。小さな彼は暖を求めるように、ナマエの胸元へすり…っと顔を寄せる。
「よしよし……少しでも暖かくなればいいんだけど」
落ちていたブランケットで優しく包み、そっと背中を撫でる。暫くするとナマエの腕の中で、再びすぴすぴと寝息を立て始めた。彼女がどうしようかと思案していると、後ろから小さく咳払いが聞こえる。そして、先程まで聴こえていた紙を捲る音が止まっている事に気が付いた。
「どうしたんですか?」
腕の中の彼を起こさないように、ゆっくりとナマエは振り返る。彼女が問いかけても、部屋の主は何も話そうとしない。少しばかり沈黙の空気が流れ、それに困ったナマエが口を開こうとした時、漸くしかめっ面の彼は声を発した。
「私も、寒いのは…苦手だ」
そう言ったきり、再び口を閉じる。そして少し気まずそうに目を逸らした。ナマエが何かを返す前に机へと向かい直し、また本へと手を伸ばす。
部屋には暖炉の炎が爆ぜる音、そして紙を捲る音が戻った。
今まで聴いた事もない、嫉妬と取れる彼の我が儘。ナマエは小さく息を吐くと、彼に背を向け歩き出す。机に向かう後ろの気配が少し揺らぐのを感じる。ちらりと腕の中の小さな彼を見つめ、ナマエは大きなベッドへと下ろした。
小さな彼はもう大丈夫、次は大きな彼だ。ナマエはそう心の中で呟くと、部屋の主へと視線を向ける。大きな背中が微かに震えているように見えた。ナマエはそおっと彼に近づく。座っていても自分より大きい彼の背中へと、彼女は背を伸ばし抱きついた。
「ルキノさん、暖かい?」
部屋の主…ルキノは、彼女に言葉を返す代わりに、尻尾でゆるりと彼女の背を撫でた。ナマエの熱がルキノに移っていく。
「ナマエ、君も冷えてしまう」
ルキノは器用に尻尾を動かすと、ナマエを自らの膝元へと抱き寄せる。急に抱き上げられた彼女は目を軽く見開いた。そして、ふんわりと微笑むと、小さな彼がしたようにルキノの胸元へと顔を寄せた。
「暖かい、ですね」
その声にルキノは一瞬硬直する。何かを言いかけ口を閉じるを繰り返し数回、彼は絞るように声を出した。
「ああ、本当に暖かい」
部屋には、パチパチと暖炉の炎が爆ぜる音だけが響いている。