※学パロ
「あーあ、折角の夏休みなのに!」
赤く染まった道に影が二つ。どこからか聞こえてくる蝉の鳴き声もひぐらしで、今までの聞くだけで暑くなるような蝉たちはどこへ行ってしまったのだろう。いつの間にか日も短くなったものだ。これからさらに短くなっていく、その事が少し悲しい。
マイクはどう思ってるんだろうと、チラッと隣に目を向ける。私の視線に気がついた彼は、こてんと首を傾げた。何だそのあざとい仕草は。彼の場合それが似合っているから……まあいいのかもしれない。こちらを見ながら何? と訊いてくるマイクに答えるため、口をゆっくり開く。
「補習なんかで貴重な時間を使っちゃうなんて……」
「それはナマエが赤点なんて採るからじゃんか!」
けらけらと笑いながら、マイクは楽しそうに指摘する。それはごもっとも、だけど少し愚痴るくらいいいじゃない。来年は受験で忙しくて、青春を謳歌できる高校生最後の夏かもしれないのに。彼の返答に納得出来なくて、思わずジト目で見てしまう。
「マイクだって赤点でしょ?」
マイクの言葉に納得できなかったのは、これのせいだ。マイクだって補習を受けているんだから、私と同じく赤点を採っているはず。それにもかかわらず、私だけ採ったみたいに言っちゃって! 私の言葉にマイクは少し考える素振りを見せた。
「ん〜? 僕は違うよ!」
「嘘でしょ? ……えっ、本当?」
「本当本当」
冗談! 僕も赤点だったよ。そう悪戯っ子みたいに笑うと思ったのに、マイクはネタばらしをする気配がない。もしかして、本当に私だけ赤点?
勘違いして愚痴っていたのが恥ずかしい。マイクも仲間だと思っていたのに、結局私一人が馬鹿だったって事か……。でも赤点でもないのにどうしてマイクは補習に参加していたのだろうか。マイクとの付き合いは長いけれど、時折彼の考えが分からない事があった。
こういう時は直接聞くのに限る。時にははぐらかされる時もあるけれど、大抵の疑問には答えてくれるから。
「じゃあどうして?」
「にしし、ヒミツ!!」
「教えてくれてもいいのに!」
今回もその大抵に当てはまると思っていたのに当てが外れた。秘密なんて言われたら余計に気になってしまう。そこまで秘密にするなんて、もしかしたら補習に参加している人の中に気になる子でもいるのかもしれない。それなら秘密にするのは分かるけど、それだと少し寂しい。まるで置いて行かれたような……そんな気がする。
考え事をしていたせいか私の歩みは遅くなっていたようで、気づけば隣を歩いていたはずのマイクが随分と先にいる。彼とのその距離が、近い将来変わっていく私たちの関係を表しているみたいだ。いつまでも一緒なんてありえないのに、どうしてこんなにも胸が痛いのだろうか。マイク……私のこの痛みに気づいて、お願い。
「そんな事よりさ! 青春、したいんでしょ?」
私の思いが届いたのかと思った。マイクは足を止めるとくるりと此方を向く。歩みを止めてしまった私に届くように、いつもより大きく声を上げる。彼は子供っぽい笑みを浮かべながら、ゆっくりとした歩調で開いてしまった距離を一歩一歩詰める。
「……したいけど、」
あと数歩、もう少しで手が届く距離。マイクはピタリと歩みを止めた。青春……ただ漠然と、今しかないこの瞬間を無駄に消費するのが嫌だった。明確に何をしたいなんて考えていなかったけれど。私はマイクと、そう他の誰でもない彼とこの短い青春時代を謳歌したいのだ。
「今日、神社でお祭り……あるよね」
「……うん」
マイクは先程までの笑みを消して、恐る恐るといった様子で言葉を紡ぐ。私の表情を窺うように上目遣いで見る彼は、どこか期待を込めているみたいだった。もしかしてマイクも、私と同じで……。
ひぐらしの声が響いていたはずなのに、今は自分の鼓動しか聞こえない。マイクの顔が赤く見えるのは夕陽を映しているからだろうか。
「僕と青春しようよ! ね?」
マイクから差し出された手をそっと握り返す。ああ、私の夏は今から始まるのだ。