特にすることがない私はぼんやりと外を見ていた。霧が出ていると思っていた外は、どうやら細かな雨が降っているようだ。雨にも国特有の表情があったりするのだろうか。そんな事を考えていると、私へと近づく足音が聞こえてきた。この部屋の主、ルキノさんである。
「何を見ている?」
「えーっと…何を、と言ったものは特にないんですけど、外を見ていました」
「外?」
不思議そうな表情をして、ルキノさんは窓の外へ視線をやった。特別何かを観察しようと窓辺へと寄ったわけではない。でもわざわざ椅子を持ち出して外を見ているなんて、確かに疑問を持つだろう。私は椅子に座ったまま、窓に映るルキノさんを見ていた。
身を乗り出すようにして、窓に近づき外を見るルキノさんは、一体何を探しているんだろうか。気になって椅子の上に膝立ちになり、私も彼の隣から外を見下ろした。
「なあ、誰かが来ていた……なんて事はないよな?」
「……え? そ、そんなことないですよ!」
まさかそんな事を言われるなんて。どこか拗ねたような可愛らしい嫉妬を見せるルキノさんに驚き、つい反応が遅れてしまった。そんな私にルキノさんは片眉を上げる。(彼に眉毛はないけれど!)
うーん…これは勘違いしてるなあ。前と比べてルキノさんは、嫉妬というものを見せるようになってきたけれど、少しばかり過保護な気がする。からかって機嫌を損ねられても困る。痛い目を見るのは私なんだから。
「雨が降っているなあって」
「あ? 雨……雨か…」
だから誤解を解くために私はちゃんと答えたのだ。それなのにルキノさんは私の答えに満足しなかったみたいだ。余計に疑いが増したみたいで、じとっとした目でこちらを見てくる。尻尾も軽くではあるが、床へと何度も打ちつけられていた。
「疑っているんですか?」
「まあ…そうだな」
私がそう直接聞いたのが意外だったようで、少しだけルキノさんの動きが止まる。ここで訂正しておかないとどうなるか……過去に経験済みである。基本的にルキノさんが満足する結果にはなるけれど、それはそれ。悪くないのに私が好きにされるのは面白くない。
「な、おい!!」
私は椅子の上に立って、むくれ顔のルキノさんの方へ手を伸ばす。私が立ち上がった事に慌てている彼を無視して、そのまま顔を寄せた。
「ルキノさんがいるのに浮気なんてするわけないでしょ」
いつもキスは彼からだった。それにこんな恥ずかしい台詞だって、伝えたことなんて殆どない。顔に熱が集まるのを感じる。何か、反応してほしい……。急に恥ずかしくなってきて、ルキノさんをちらと見上げる。彼はまるで銅像のように固まっていた。
「ルキノさん?」
「〜〜っ! クッソ!! 本当にナマエは可愛い、なぁ!」
「わっ! 急に抱き締めないで!」
大丈夫かな? と掛けた私の声に、ルキノさんは魔法が解かれたかのように動き出す。先程までとは異なり、尻尾は大きく左右に揺れている。それに気付いた瞬間、勢いよく彼に抱き締められた。そのまま顔をぐりぐりと私へと押しつけてくる。
今までにないような愛情表情に、どれだけ私からの言葉や……その、キスが嬉しかったのだろうと、こちらまで嬉しくなる。と同時に椅子から落ちそうで少し怖い。私の意識がそちらへと流れている事に気が付いたルキノさんは、悪かったと笑ってゆっくりと身体を支えてくれた。
「身体を冷やすといけないし、ベッドに行こうか」
「……何するんですか?」
しばらくルキノさんに抱き締められたまま雨の音を聴いていたが、ぽつりと彼が溢した言葉にびくっと身体を震わしてしまう。すりと首元にルキノさんの顔が寄せられて、彼がしたい事が嫌でも分かってしまう。
それでも、私も恥じらいを持っている女の子なのだ。わざとらしく、私はルキノさんへと訊ねる。ねえ一体どんな風に、誘ってくれるの?
「雨…雨の話をしようか」
「嘘だあ」
嘘じゃあないさ、期待しておけとルキノさんは悪戯っぽく笑った。そこまで言うのなら楽しみにしておくからね、ルキノさん。