恋はいつも突然に

※学パロ

 名前も知らない女の子が僕を好きだと言う。それに対して誰? そう聞いただけで酷い奴だなんて。何回もあると面倒だよね、そう目の前の友人に溢した。

「そんなに面倒なら付き合えばいいんじゃねえの?」
「確かにね」

 友人……ナワーブは飲んでいた紙パックを凹ませ、ため息を一つ。贅沢な悩みだと言いながら、一応は悩みに付き合ってくれるらしかった。僕は自分でもいい性格をしていると思う。だからこそ、そんな僕と友人でいてくれるって事が嬉しい。まあ、言わないけどね。

「好きな奴いんの?」
「いないよ。でも僕の事を好きの子は沢山いるでしょ」
「は?」

 僕の言葉をナワーブは理解出来なかったようだ。間抜けそうに口を開いたまま固まっている。折角ナワーブのアドバイスを聞いてやろうと思ったのに。付き合うってなると面倒だけど、毎度知らない女の子に告白されて泣かれるのも面倒だから。
 ようやく僕の言葉を飲み込めたナワーブが何か言っているけれど、気にせずに目的の子へと足を進める。昼休みが終わるまで、まだ時間もあるし大丈夫だろう。

「ねえ、ちょっといいかな」

*

 僕が声を掛けたのは同じクラスの……なんだっけ? 大人しそうな、でも僕の事の方によく視線を向けている女の子だ。今まで告白に縁がなさそうなこの子でも、わざわざ人がいない所に呼び出されたらどういう事か分かるだろう。僕に惚れている子なら、付き合えたらきっと僕の気持ちを汲んでくれるだろ?

「僕と付き合ってよ」
「……嫌」
「よろし……え?」

 まさか、まさか断られるなんて思ってもみなかった僕は、彼女の返答に固まる。僕の貼り付けた笑みが随分と間抜けに見える事だろう。僕の勘違いで、彼女は別に僕を好んでいなかったのかもしれない。きっと僕を馬鹿にした目で見ているだろうと、彼女の顔を見ると真顔……いや、怒っている。

「ノートンくん、私の事好きじゃないでしょ? それに私の名前すら分からないんでしょう」
「それは……」
「私のこと、押しに弱いって思ってた?」

 彼女は僕が彼女に興味を持っていない事を知っていた。その上で彼女を利用しようとしていた事も気付いていた。彼女からの指摘の言葉は全て図星で、僕は何も答えられない。つ、と冷や汗が伝う。僕の失態を知られてしまった。彼女が言いふらしたら……今後の僕の学園生活は今以上に面倒な事になってしまう。どうしようか、顔から表情が失せていくのを自分でも感じる。この事を知っているのは、僕と彼女だけだ。
 恐ろしく長く感じた沈黙を破ったのは彼女だった。真顔で僕を見ていた彼女は、ふっと力を抜き困ったように眉を下げる。

「あのねノートンくん。私は、貴方が好き」
「それなら!」

 それなら、どうして断ったんだ?僕を責めて、主導権を自分の物にしようとしたのか? そんな事を彼女は思ってはいない、そう分かってはいても悪い方に考えてしまう。
 思わず身を乗り出して彼女の肩を両手で掴む。力が入ってしまったようで、彼女は一瞬顔を顰めた。取り乱す僕に、彼女はゆっくりと手を伸ばし、ぽんと頭を撫でる。酷い事をされて、肩も痛いはずの彼女は優しげな瞳で僕を見ていて……心が落ち着いていく。ごめん、僕はそっと手を離した。

「でも、今の貴方とは付き合わない。ちゃんと私に惚れさせてから、ね?」

 真っ直ぐ僕を見据えた彼女がそう答える。寧ろ私に惚れたノートンくんが、どうしても私の心が欲しいって強請るかも。彼女は悪戯っぽく笑って、そんな彼女に目を奪われる僕の横を通り過ぎた。
 慌てて名前を訊ねる僕に、仕方ないなあと名を告げる。名前を聞いただけなのに、どうしてか宝物を貰ったみたいに気分が高揚する。ナマエ、ナマエ。忘れないように、彼女の名前を何度も呟いた。

*

「おい、いつまでここで突っ立ってんだよ」

 もうすぐ授業始まるぞ。いつの間にか隣に立っていたナワーブがそう伝える。それでも動かない僕に、ナワーブは身を屈ませ顔を覗き込んできた。僕はそちらに少しだけ視線をやり、すぐに思考に戻る。彼はムッとした表情をした気がするけれど、今はそれより考える事があるんだ。

「気になる子にアタックする方法、何がいいかな」
「何で俺に……」

 どうにも考えが纏まらなくてナワーブに助言を求める。面倒な事を言うなと不満を垂れる彼に、君が覗いてたの知っているんだからと教えてやる。その言葉を聞いたナワーブは露骨に顔を顰めた。知ってたらなら言えよ! 今言ったじゃないか。

「ノートンが最低だってのは見てて分かってるけど、本当にあれであの子の事気になったのかよ!?」

 バレていたからいいか、そう思ったのか僕と彼女のやり取りを前提にナワーブは話し出す。最低だなんて酷いなあ。わざとらしく拗ねた顔をしてみると、ナワーブは慌てて人の趣味もそれぞれだもんな!と口にする。否定せずに受け入れてくれるあたり、流石僕の友人だよ。
 まさかノートンが……そうぶつぶつ言う彼と教室に戻りながら、明日からナマエにどうアタックするか考えた。こんなところから始まる恋も、僕らしくていいんじゃないかな。