彼白衣

「何をしているのかね?」

そう声を掛けてきたルキノさんは、吊り上がった口角を隠す事なく此方へ歩み寄る。まるで弄り甲斐のある玩具を見つけたと言わんばかりの表情だ。

「な、何も…」
「何も? 私には君が着ているその白衣……見覚えがあるのだが」

バレている。私が彼の着ていた白衣を見つけ、魔が差した結果着てしまったのが。分かっているのであれば、私に問いただせばいいのに。ルキノさんは顎に手を当てて、悩んでいるかのように首を傾げた。しかし、彼の目はキュッと細められ、鋭い色で私の様子を見ている。逃さないと、そう訴える瞳。
ルキノさんが私から目を逸らさないように、私も彼から逸らさなかった。というより、彼の視線から逃れられなかった。ルキノさんはただ此方へ歩いて来ているだけなのに、冷や汗が出てくるように感じる。思わず着ていた白衣をぎゅっと握った瞬間、彼は耐えられないというようにくつくつと喉を鳴らして笑った。そして、彼が手を伸ばすのが見て、反射で目を閉じる。

「ごめんなさいっ!」
「私の方こそ揶揄い過ぎた。すまない」

ぽんと頭に軽い重さを感じて、私はゆっくりと目を開ける。ルキノさんの瞳からは先程までの鋭い光は消え、表情を緩めていた。急に変わった雰囲気に驚き、何も言えない私にルキノさんは困ったように笑う。

「ナマエが、あまりにも可愛い事をするから」
「かわ……ありがとう、でも、ここは」
「そうだ、此処は書室だ。誰が来るか分からない、いいね?」
「え? はい」

誰かが来るといけないと思ったのは私も同じだったが、どうやら私の言葉はルキノさんが望んだものではなかったようだ。目を伏せ、分かっていないとぶつぶつ呟くルキノさんを見ていたら、いくら私でも分かる。

「勝手に着てしまい、ごめんなさい。誰かに見られる前に返します」
「君は…」
「あ、洗った方がいいですか?」

私が白衣を着ているのを見られて、後からからかわれるのはルキノさんだ。だから早く返した方がいい、そう思っての言葉だったがそれも彼にとっては不服だったようで、深いため息を吐いて天を仰いだ。

「ルキノさん?」
「そう、そうだ。此処は誰でも来れる書室だ! それなのに、君はそんなに愛らしい姿を見せて!」
「ん?」
「まったく! 誰かがナマエに惚れてもしたらどうする気だ?」

それとも私を嫉妬させる気か? 強い力でルキノさんの方へ引かれ、私はいつの間にか彼の腕へ閉じ込められていた。状況を理解した瞬間、身体中の血液が沸騰したのではないかと錯覚するほど熱くなる。

「るき、」
「はあ、君にそのつもりがないのは重々承知だ。どうして私の白衣を着ていたかは知らないが、本人は此処にいるんだ」
「つまり…」
「恋人が目の前にいるのに白衣で満足するなんて、君は随分と慎ましくなったものだ」
「……意地悪」

そして狡い男。自分が白衣に嫉妬していたのを棚に上げて、私を責めるなんて! ただその言葉を聞いて、心拍数が上がる私も似たようなものだ。
きっとルキノさんも私の思いに気付いたはずだ。頬に軽くキスを落とし、名残惜しそうに身を引く。そして仰々しく一礼し、此方に手を差し出す。

「続きは私の部屋で。さあ行こうか」