食べてしまいたい

「さあ、此方へおいで」

恥ずかしそうに、そしてどこか期待の色を秘めたナマエは私の声に控えめに頷くと、ソファに座っている私の隣に腰掛けた。距離を開けて座り、視線が泳いでいる彼女を少し強引に引き寄せる。
私はナマエの顎をそっと掬い上げた。彼女の頬は仄かに色づき、今から私にされる事を待ち望んでいるようだ。無意識なのか小さな舌で自身の唇を舐めた彼女に、思わず声が漏れるところだった。なんて愛らしい。私はそのままナマエへと顔を寄せる。

「あ…」
「目は閉じない方がお好みかね?」
「っ!」

触れるようなキスを一度送り、ナマエから離れる。彼女の様子を伺うと、熱が篭った目で私を見つめていた。そんなナマエを見ていると加虐心が僅かに芽生えてくる。もっと私に乱されてほしい。私は自身の欲望を抑える事はせず、意図的に羞恥心を煽る様な言葉を投げ掛けた。
私の意地悪な質問に、ナマエは目に見えて慌て出した。何処を見たらよいのか分からないといった様子で、また視線を巡らせている。私から逃げないでくれ、その思いのまま彼女に口付けた。

「ん…」

僅かに開いた唇を割って、舌を入れる。びくりと身体を震わせ、ナマエは身体を引こうとする。私はナマエに手を回し、逃げないように深く息を飲み込んだ。舌先が触れ合った瞬間、ナマエはまた逃げようとしたが、逃すまいと彼女のそれを絡め取った。息が上手く出来ないようで、ふるふると震えながらナマエは私の好きにさせていた。

「は、……っん…はぁ…」
「大丈夫か?」
「ぅ…は、い」

一度口を離し、ナマエが空気を取り込んで息を整えるのを見ていた。落ち着いた、そう判断した私は、再びナマエの唇を塞ぐ。ちろちろと彼女の唇を舐めると、一瞬の戸惑いがあったもののおずおずと口を開いた。随分と素直になってくれたものだ。ナマエに誘われるように、舌を食んだ。逃げてしまわぬようにか、いつの間にか私の服をナマエが掴んでいた。何と健気な事か。
暫く緩々とナマエの口内をなぞっていたが、それだけでは物足りなくなった私は、わざとらしく音を立てて、彼女の舌を吸い上げる。音を出す度に、彼女の身体は面白いくらい跳ねた。欲望のままナマエを堪能していた私だが、これ以上やると彼女が持たない。名残惜しいがそっと口を離す。その瞬間、つっと唾液が糸になり下に落ちた。

「る、き…」
「ふふ、可愛らしいな君は」

いつもより息が上がり、目に涙を浮かべるナマエ。私によって乱されてしまったナマエを見ていると、征服欲が満たされていくようだ。ナマエの頬を手の甲でスリ…と撫でると、彼女も摺り寄せ返した。

「何かいつもより…」
「“これ”だよ」

熱が抜けぬまま呟くナマエに、私は舌を出してみせた。舌を見た彼女は、先程までの行為を思い出したのか、ただでさえ赤い頬を更に高揚させる。このままだと湯気でも出てしまうのではないだろうか。

「え? 舌が…切れて…?」
「スプリットタン」
「スプ……?」

舌を出しておくのが少し疲れてきた頃、ようやく私の舌の特徴を見たらしいナマエの目が開かれる。人と違う舌。いや、少し前の私とも異なる舌だ。名称を告げてみたが、きっと彼女はそれだけでは理解していないだろう。

「ナマエがもっと気持ち良くなれる舌さ」
「え、あ…その」
「ふふ、冗談だ。進化の過程、ある種の贈り物だ」

この状況で講釈を垂れても意味がない。その代わり、私はナマエが“分かりやすい”言葉を使った…つもりだ。我ながらいい性格をしていると思うが、私の言葉に揺れ動かされているナマエを見るのは気分が良い。冗談だと告げた言葉も安心させる為だけのものだと、彼女は気付いていない筈だ。

「さあ、もう一度。目を閉じて」
「ルキノさん…」

こんなに純粋で、私の事を信頼しているナマエ。少しずつ甘い毒を送り、私の元を離れられないようにしてしまいたい。きっとそうなったとしても、彼女は何も知らぬまま私を頼りにし、依存していくのだろう。

「ああ、本当に愛らしくて……食べてしまいたくなる」

ナマエの困惑の声ごと、私は飲み込んだ。いっそこのまま食べてしまおうか。