キラキラした、とても可愛くてかっこいい衣装。みんなが着て楽しそうにしているのがずっと羨ましかった。
そんな私にもようやく可愛らしい衣装がナイチンゲールから手渡された。ふんわりとしたワンピースを履くのは少し恥ずかしかったけれど、念願の衣装! 恥ずかしかったのは着る前だけで、袖を通したらそんな考えなんて頭から消し飛んでしまった。キャンディみたいな可愛い石が付いていて、トレイシーとお揃いだねと笑い合った。
その衣装についていた石が一つ足りない。部屋に戻って気づいた。私はワンピースを着たままのまま、今まで来た道を戻った。どうか館内に落ちていますように。来た道を辿ったけれど、見つからない。折角の衣装なのにどうしよう。ここにあるはずと訪れた談話室のソファに座り、もう一度行動を思い出した。
「探し物はこれか?」
「ナワーブ? ありがとう!」
ふいに声が掛けられ、私は思考の海から浮上する。声の方に視線を遣ると、そこにはナワーブが立っていた。彼の手には私が探していた石が乗せられている。わざわざ探して持ってきてくれたのだろうか? 正直、意外だ。今までナワーブに話し掛けても、二言三言話すと視線を逸らして何処かに行ってしまう事が多かったのに。私はナワーブの事を誤解していたのかもしれない。
私はナワーブに礼を伝え、その後ゆっくりと手を伸ばした。しかし、ナワーブは渡してくれる気配がない。どうしたのかと思っていると、ナワーブの口がまるで三日月のように弧を描いた。
「あの…」
「新しい衣装に夢中で、今日の試合でヘマをしたのか?」
「っ!」
ナワーブは手に持った石を私に見せつけるように揺らす。彼は私のために探してくれたのではなかった。ただ浮かれている私に嫌味を言いに来たのだ! 言葉に詰まってしまい、何も返せなくなった私に、ナワーブは呆れ顔のまま告げる。
「衣装にはしゃぐのはいいが考えろよ」
「ヘマしたのは謝るけど、衣装のせいじゃない!」
ナワーブの意地悪な物言いに、思わず大きな声が出る。確かにヘマをしてしまったけれど、それは決して衣装のせいじゃなかった。抑えようとしていた涙が勝手に溢れ落ちた。
私が初めて貰った可愛い衣装。キラキラしていたのに、それが燻んで見える。ナワーブにとったら、衣装にはしゃぐ馬鹿な女が図星を突かれて泣いているように見えるかもしれない。彼にどう思われてもいい。でも、私にとってこの衣装は特別なものだったのだ。
「……!」
「ごめん、返して」
ナワーブが僅かに息を飲んだ。その隙に私は彼の手から石を奪い返す。そしてそのままナワーブの横を通り過ぎ、部屋から出ようとした。
ドアノブに手を掛けようとした瞬間、ナワーブの手が私の真横に立てられた。ダンと音がして、ドアが微かに揺れる。私の身体はビクッと跳ね、急な彼の行動に固まってしまった。ドアとナワーブに挟まれて動けない。
「な、もういいでしょ!」
「悪かった」
その言葉が聞こえたと思った瞬間、ぐいと引っ張られ私はナワーブと向き合う事になった。抵抗する間もなく引かれた事、そしてナワーブの口から謝罪が出た事に私の思考は混乱の渦に巻き込まれた。起こっている事に私の頭が追いつかない。
「え?」
「意地の悪い言葉を掛けて悪かった。その衣装が原因じゃない事くらい理解している。だが……ナマエがその衣装を着て、他の奴らとはしゃいでいるのが気に食わなかった」
「やっぱりこの衣装のせいって事でしょう?」
私にとって初めての…大切な衣装だったのに。私の問いにナワーブは視線を逸らす。結局それが正解だったって事じゃない。試合での出来事どころか私の行動自体が気に入らなかったの? 今までのナワーブの私への応対も、私の事が嫌いだったと考えれば辻褄が合う。
好かれてはいないと思っていたけれど、嫌われているとは思っていなかった。話す事は少なくても、いつも試合でみんなを助ける姿に憧れていたのに。私の胸中は悲しみと怒りでごちゃ混ぜになる。
「違う…」
「違うって何が!?」
「俺が苛ついたのは、お前が他の奴と笑っていたからで」
「は」
「クソッ! 俺自身が感情をコントロール出来なかったせいだ……情けない」
いつの間にかナワーブの手は下げられていた。私の心に巣食っていた暗い考えも、珍しく感情的になっているナワーブを見ていると吹き飛んでしまった。私に勢いよく告げた彼は、眉間に皺を寄せ顔を逸らす。情けない? それはいい、でもナワーブが苛ついた理由は…。
彼の言葉を何とか咀嚼しようと、私は止まっていた思考をフルに動かした。もし、私の事が嫌いという前提が間違いだったとしたら。ナワーブが言う私が他の人と笑っていた、それに苛立ちを覚えたのだと言うのならば。
「悪りぃ…もう忘れてくれ。八つ当たりしてすまなかった」
もしかしてナワーブは私の事を。そこに考えが到った時、ナワーブは落ち着きを取り戻したのか、冷静な声色で私に謝罪した。そして私の返事を聞かない内に彼は一歩下がり、ついには踵を返そうと脚を動かす。このまま終わって、またいつものようにナワーブと殆ど会話しない関係に戻ってもよかったのかもしれない。だけど私はそれを選ばなかった。というより彼が去る前に、私の口は自然と言葉を紡いでいた。
「この衣装どう思う?」
「ナマエ…?」
「ねえ、この衣装ナワーブはどう思うの」
「……似合ってる」
私の急な問い掛けに、そう答えたナワーブは逸らす事なく私の目を見つめる。きっと彼は嘘を吐いていない。少し強引に聞き出したナワーブの言葉に、私の心臓はドキドキと高鳴り出した。単純な自分に心の中で軽く笑う。
「うん…ありがとう。……許すよ」
「いい、のか?」
上から目線な台詞にナワーブは嫌な顔をする事なく、むしろ機嫌を窺いつつといった様子の彼に内心驚いた。ナワーブの先程までの言動は褒められたものじゃなかったし、ここは少しくらい大きく出ても問題ないだろうなんて彼に甘えた事を考える。
「ナワーブが褒めてくれたから、いいよ」
「礼を言う。それと…それは俺が、だからか?」
「うーん、どうだろうね?」
わざと取った思わせぶりな態度に、ナワーブは一瞬眉を顰めたがすぐに表情を緩める。そして、都合の良いように受け取っておくと彼は笑った。どうやら私の考えは伝わったらしい。
「次はちゃんと褒めてくれる?」
「さあ、どうだろうな?」
「なっ…!」
「お返しだ、ナマエ」
仕返しと言わんばかりのナワーブの返答に、惚けた表情をしてしまった。そんな私の間抜けな顔に彼は口角を上げる。ナワーブも冗談を言うんだ。ここ数分で今まで知らなかった彼の一面がたくさん見えてきた。本当に、今までどうしてナワーブの事を知ろうと思わなかったのだろう!
「ナマエ、お前が俺に最初に見せに来てくれるなら…約束する」
はにかんだような笑みを浮かべるナワーブに、私はコクコクと頷いた。私の大切な衣装は更に大切な何かを連れてきてくれたのかもしれない。手に持ったキラキラ輝く石を、私はぎゅっと握りしめた。