ナマエを見ていると食欲が湧いてくる。最初は私の勘違いかと気にしていなかったが、ナマエの柔らかそうな肌に嚙みつきたいと思うし、ナマエの果実のような唇を味わいたいとも思ってしまう。これも私の身体が変化している影響なのだろうか? いつかは理性で抑える事が出来ずに、彼女を傷付けてしまうのではないかという懸念が私の胸中を占めていく。
私はナマエを傷付けたいと思っていない。だが彼女を目にすると、他人には抱かない欲が私の中で芽生えてしまうのだ。それを自覚した時からナマエを避けていたが、避ければ避けるほどその思いが強まっていく。もうこれ以上は抑えられる自信がない。だからこそ、ナマエに自身の思いを伝えようと決心した。
「君を食べたいと思ってしまう」
「えっ?」
ナマエの目が見開かれる。その瞳ですらまるで飴玉のように綺麗で、甘く思えてしまう私は重症なのだろう。困惑の色を浮かべる彼女に、私は自身の思いを吐露する。
「君の、肌が柔らかそうで、君の唇が……いや、君の全てが美味しそうで、どうしようもなく惹かれるんだ。このままでは駄目だと君から距離を取ろうとしたが、無理だった。何故か苦しくなって、もう私のこの歪な考えは制御出来るものではないと…傷つける前にナマエに告げておきたかった」
私の告白にナマエは暫し無言であった。ああ、このまま私を罵倒してこの場から去ってほしい。そうすれば、私がナマエを傷付ける事はないのだから。私の祈りにも似た思いは彼女に通じる事はなかった。
「ルキノさん、それって本当に“食欲”ですか?」
「何?」
ナマエが口にした問いの意図が掴めない。ナマエを見て食べたいと思う事が、食欲以外の何物でもないだろう。問いの意図を考えあぐねていると、彼女はおもむろに私の腕を掴んだ。想像していた通り、ナマエの手は柔らかくて暖かい。この手に口付けたらならば、彼女はどんな反応を見せるのだろうか。そこまで考えて、自身の考えにゾッとする。離してくれと私が口を開く前に、ナマエが話し出す。
「どうですか、私の手食べたいと思いましたか?」
「ああ…」
「お腹は減っていますか?」
「空腹は感じていないが…しかし、だからと言って君を食べたいと思う事に偽りはないよ」
そう述べた私に、ナマエは何故かはにかむような笑みを浮かべた。そして僅かに頬を紅潮させて、一瞬の間の後口をゆっくりと開く。
「私も、ルキノさんのことを食べたいと……そう思っています」
「ナマエ…?」
「食欲の他にそう思う感情があるんですよ」
それは? そう尋ねようとした言葉は音になる事はなかった。目の前のナマエが背伸びをしたのを見た瞬間、私の口に柔らかな感触が。
「“恋”って言うんです」
その言葉で全てが嚙み合った気がした。私を“食べた”ナマエをじっと見つめる。私の視線に彼女は逸らす事なく応えた。心地の良い沈黙が流れ、どちらが先か分からぬまま…唇を重ねた。