空が黒い。窓の外はいつの間にか重く暗い雲で覆われ、ポツポツと雨が降ってきていた。
私は机に向かい本を読んでいるルキノさんの背中に視線を遣る。急に部屋に来た私も悪いが、少しくらい構ってくれてもいいのに……なんて恨みがましい思いが頭をよぎってしまう。ルキノさんがページを捲る音にザアザアと強めの雨音が混ざり出した。いよいよ本格的に降ってきたようだ。
「雨、降ってきましたね」
「うん? ああ、そうだな……」
私の言葉に返すルキノさんは心ここにあらずといった様子で、思わずため息が溢れそうになり、そっと息を飲み込んだ。確かに彼と一緒に居られるだけで嬉しいけれど、やっぱり乙女心としてはもっと私に意識を向けてほしいという思いがあるのだ。段々と虚しくなってきて、今日はもう自室に戻ろうとソファから立ち上がった。
「ナマエ? もう少しで終わるから待っていてくれないか」
ルキノさんは私が立ち上がった気配に、本から顔を上げ振り向く。彼の言葉に再びソファに腰を下ろした私はなんて単純なんだろうか。私の返事にルキノさんは笑みを浮かべ軽く頷くと、再び本へと視線を戻していった。
もう少しって後どれくらいだろうか、そんなことを考えつつ私はソファへ身体を沈める。雨とページを捲る規則的な音に睡魔が顔を出す。うつらうつらと船を漕ぎかけた時だった。青白い光が窓の外から届いたと思うと、身体の芯まで届くような轟音が鳴り響いた。音と共に私の肩が跳ねる。
「っ!」
「凄い音だな。大丈夫かね?」
「びっくりしただけで……大丈夫です」
そう答えてからハタと気付く。もしかしてさっきのルキノさんの問いかけは、チャンスだったんじゃないのだろうか。可愛らしく怖いと告げていれば、ルキノさんは手を止めて私を構っていてくれたのかもしれない。そうやって悶々と考えている最中も、窓の外では雷が鳴り響いている。
悩んでいてもしょうがないし、少し勇気を出してみようと私はそおっと立ち上がる。ゆっくりとルキノさんの元へ歩いて行く。そして私が辿り着く前にルキノさんは振り向いた。後ろに目が付いているのかもしれないと思うような反応速度だ。
「どうした?」
「えっと…」
いざルキノさんの前に立つと言葉が出てこない。雷が鳴っているから怖くて、そう言えばいいのに。実際には怖くない嘘を言ってまで甘えるなんて、という変なプライドが邪魔をしている。固まってしまった私にルキノさんは小さな笑い声を溢した。
「雷が、怖かったのかね?」
「え、……はい」
ルキノさんの助け舟に思わず嘘を吐いてしまった。少しだけ声が震えてしまったことにどうか気付いていませんように。
「どうしたらいい?」
「えっ?」
「私が何をしたら、ナマエは怖くなくなるのかね?」
ルキノさんの目は細められ、口は弧を描いている。彼の自信に満ちた物言い、そして表情から全て見透かされているのに気が付き、顔に熱が集まる。視界の端でルキノさんの尻尾がゆらゆらと揺れているのが見えた。
「何を…してくれますか?」
「ん? ……例えばナマエを抱き締めてあげたり」
尻尾が私の腕に絡み、彼の元へ身体が引かれる。
「こうやってキスを贈り、君を安心させようか」
優しい力で私を抱き締めたルキノさんは、触れるようなキスを降らせゆるやかに微笑んだ。意図せず私の構ってほしいという願いは叶えられたみたいだ。
いつの間に鳴り止んだ雷に私たちは気づくことはなく、再び口付けを交わした。