扉前の攻防

「良い子だから帰りなさい」
「悪い子なので帰りません」

私はアルヴァさんの部屋の前で仁王立ちをして、彼の行手を塞いでいた。腰に手を当てて威圧感でも放ってみようかと思ったが、背の高い彼を前にするとそんな気持ちも窄んでしまった。
ここに来たのは、試合から帰ってきたルカが嫌に上機嫌で、エリスとパトリシアがやり過ぎたかもしれないと話していたからだ。きっとハンターにとって嫌な試合になったに違いない。

「君はどうして此処に来たのだ」
「……」

動かない私に痺れを切らしたのか、アルヴァさんは手を伸ばして私の首の後ろの襟を掴み上げる。僅かに絞められた首が苦しくて、彼の手を掴みながら足をバタつかせた。

「だい、じょぶ…かと思って!」

なんとか出した声に、アルヴァさんはパッと手を離した。咳き込みながら、私は彼を見上げる。
見上げたアルヴァさんはいつもの無表情で、琥珀を嵌め込んだような瞳だけが微かに輝いていた。その綺麗な瞳を僅かに細めると、再び私に手を伸ばした。身構えた私だったが、彼の手は私の頬を数回滑っただけだった。

「息は大丈夫か?」
「息? え、はい…大丈夫です」
「そうか。私も問題はない」

問題ない? 何の事か一瞬分からなかったが、アルヴァさんは私の大丈夫かに返事してくれたのだと気がつく。殆ど表情に変化はないが、少し口角が上がっているように見えた。彼なりに心配されて嬉しい…そう思っていると解釈してもいいのだろうか。
大丈夫であれば、もうここにいる意味もなくなった。とりあえず目の前のアルヴァさんに頭を下げ、部屋への扉を彼に譲る。アルヴァさんの横を通る際、チラリと彼を覗き見たがすでにこちらに意識を向けていなかった。まあそんなものかと足を進めようとした瞬間、肩を軽く掴まれる。

「もう帰ってしまうのか?」
「だってもう目的は達成出来ましたから」

アルヴァさんの方を向いたけれど、一向に肩から手を離してくれないのが少し気になる。

「しかし、ナマエは悪い子なんだろう」

首を軽く傾けて、アルヴァさんはそう呟いた。それは言葉の綾ということは、彼は理解していると思うのだが、一体どうしたのだろう。

「悪い君を、私の部屋に招待してあげようと思ったのだが…どうだろうか?」

アルヴァさんは私の肩から手を離すと、自室の鍵を開けて扉を僅かに開く。そして片手を私の方に差し出した。彼の視線はまるで蜂蜜のように私の視線と絡み、蕩けてしまいそうに感じる。気がつくとアルヴァさんの手に伸ばそうとしていて、一度その位置で私は手を止めた。
頭の中でルカが絶対にやめておけと叫んでいる。その彼を頭から追い出し、私はアルヴァさんの手に自身のそれを重ねた。