美しい嘘

※少し暗い

「アルヴァさん、貴方の事が好きなんです」

私のその言葉にアルヴァさんは曖昧に微笑んだ。

* * *
新しく荘園にやってきたアルヴァさん。いつものようにまた招かれた人が増えたのか、その程度の関心だった。しかし、よく共に試合に参加するルカが、鼻息荒く批判…いやむしろ罵倒していたため、彼という人物がどんなものか気になった。ルカの話から考えるに、きっと見た目からは想像が付かないほど口調も態度も荒い極悪人なのかもしれない。いろんなハンターがいるが、そんなタイプの人はいないからどうにも興味が沸いてきたのだ。
数日後、アルヴァさんがハンターの試合があった。ルカから聞いていた姿とは全く異なり所作も荒くない。そんな事を考えているせいかチェイスが伸びる事なくダウンさせられてしまった。自業自得なので他の仲間の助けは望めないだろう。チェアに座らされた私は、ハンターを引き留めておく事、そして単なる好奇心…その二つの目的を持って彼に話しかけた。

「貴方はどうして荘園に?」
「……」
「その能力はいつから?」
「……」

他の質問にもアルヴァさんは答えなかった。時間も稼げたし、失態を犯したとはいえやるべき事はやった。後は他の仲間に任せようと肩の力を抜く。最後に一つだけ聞きたい事があった。

「貴方はルカに何をしたの?」
「……何もしていない。君は何を信じる?」

そう問い返された瞬間、私は荘園へと戻された。どこか諦めの色が宿ったアルヴァさんの瞳が印象的で、キラキラした琥珀の輝きが胸に深く残った。


それからしばらく経って、私はアルヴァさんの部屋で一緒にお茶をする仲になった。
私は自分でも理解しているがとても単純な思考の持ち主で、どうしてもアルヴァさんの瞳を……試合外で見たくなってしまった。だからすぐに行動に移したのだ。
あの輝きが忘れられない私はこっそりとサバイバーの館を抜け出し、ハンターの館へと向かった。別に行ってはいけないという決まりはないけど、敵であるハンターの元へ行くのを好ましく思っていない人も少なくはない。そうやってこっそりと通って数回目で相手をしてもらえるようになり、両手で数えられなくなってきた頃、駄目元でお願いしたお茶をしたいという願いは聞き入れられた。

アルヴァさんと過ごしている内に、ルカが話していたアルヴァ像は私の中から消え去っていく。私にとってのアルヴァさんは酷い人ではなく、無口で感情に乏しいが優しい人となっていった。お茶をしたいと押し掛けてくる変なサバイバーの相手をしてくれるのだから、きっと間違っていない。しかし……

「アルヴァさん、何を見ているんですか?」
「……いや、何も…ナマエは気にしなくていい」
「そう、ですか」
「君は聞き分けの良い子だね」

アルヴァさんは決して本心を私には見せない。一緒に過ごしているはずなのに、彼は時折私ではない誰かを見ているような気がするし、心からの笑みも見せてはくれない。最初はただアルヴァさんの琥珀色の輝きを見ていたかっただけなのに、いつしかそれが欲しくなってしまったのだ。ゆったりとした動きでティーカップを持つ姿、眉を下げて困ったように笑う様子、どこか憂いを帯びた瞳を伏せるような所作……どれも私だけのものにしたい。

「アルヴァさん、貴方の事が好きなんです」

我慢して我慢して、遂に我慢出来なくなった私の口から溢れた言葉に、アルヴァさんは曖昧に笑う。ほんの少しの間、視線を伏せたアルヴァさんは緩慢な動きで口を開いた。

「私も……ナマエの事は嫌いではない」

アルヴァさんの手が私の髪を掬って、そしてそのまま零れ落ちた。単純な私はそれだけで心が飛び跳ねるようだった。
だけど知っている。アルヴァさんはたったの一度も私に“好き”という言葉を使っていないという事を。ああ、なんて美しい嘘なんだ。