陽だまりの君

「謝必安さんって陽だまりみたい」

私は外を見ながらポツリと呟いた。窓の外から柔らかな日差しが入って来ていてとても暖かい。謝必安さんからすぐに返事はなかったが、微かに動いた気配を感じたので聞こえて入るのだろう。ただその沈黙は心地の良いものだった。
しばらくして謝必安さんの方に視線を向けると、彼もこちらを見ていたのか目が合う。謝必安さんは緩やかに微笑むと立ち上がり、私の元まで歩いてきて隣に座った。重みでソファが沈み、彼の方へ身体が僅かに傾いた。そんな私の様子を謝必安さんは軽く笑って私を支えてくれる。彼は私に優しい。

「ねえ、ナマエ。私のどこがそう思うんですか?」
「ええ〜、どうしようかなあ」
「ほら、おまえ。あんまり意地悪な事を言うと拗ねてしまいますよ」

クスクスと口に手を当てながら謝必安さんは笑う。陽だまりみたいという言葉に謝必安さんは理由を尋ねたけれど、実際面と向かって理由を伝えるのは少し恥ずかしい。でも私のおふざけにも返してくれる謝必安さんを見ていると、彼に対する好きという気持ちが溢れてくる。恥ずかしいなんて感情は、好きという感情の前には吹き飛んでしまった。

「謝必安さんが拗ねちゃうと困るから…」
「教えてくれるんですか?」
「うん。あのね、謝必安さん。貴方の事を思うと、心がぽかぽかするんです」

そう言ってからやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいと再認識する。顔に熱が集まっているのが自分でも分かる。自身の手で顔を軽く仰ぎながら謝必安さんを見ると、目を丸くして固まっていた。謝必安さんがそんな状況になるのを初めてみたので、先程の言葉の所為かと小恥ずかしさを覚える。恐る恐る謝必安さんに声を掛けようとした瞬間、彼に抱きしめられた。

「ナマエ、ナマエ。私もそう思います」
「謝必安さん?」
「……」

謝必安さん私を抱きしめたまま動かなくなってしまった。だけど全く嫌じゃない。謝必安さんの力は優しくて、むしろこのままでいたいくらいだ。私も彼の背に手を回して抱き締め返す。心地の良い沈黙が流れていて、このまま謝必安さんと一つになれたらいいのにと思う。謝必安さんの体温は低くて暖かいなんて事はないはずなのに、とても暖かく感じるのはやっぱり彼の事が好きだからだ。しばらくすると謝必安さんはスッと腕を緩める。どこか名残惜しいと思いつつ、私も彼の背中から手を離した。

「ナマエ、私もおまえの事を陽だまりのように感じますよ」
「どうして?」
「私と同じ事を訊くんですね」
「だって気になるから」
「ふふ、ナマエの笑顔は暖かくて、私を溶かしてくれる……そんな風に思うんです」

その答えを聞いて暖かな気持ちで胸中が満たされていく。もう一度謝必安さんに抱き着くと、謝必安さんは小さな笑い声を溢した。再び腕の中に閉じ込められて、謝必安さんと一緒になっていく心地だ。

「ほら、その笑顔。私はナマエのその笑顔が好きなんです」

そう笑う謝必安さんはやっぱり陽だまりみたいだった。