熱がこもる

アオキさんが帰って来た気配を感じた私は、行儀が悪いとは思いつつそれに下半身を突っ込んだまま振り返える。ちょうど部屋に入ってきた彼と目が合った。

「おかえりなさい」
「ただいまです。あ、それは」

いつも通りの言葉を交わした直後、アオキさんはそれに気が付いたようで緩く声を上げた。思っていた通りの反応に思わず笑いそうになる。きっと彼の事だからそんなに驚かないだろうとは思っていたけれど、本当にその通りだとは。

「炬燵です! パルデア地方ではなかなか見かけなかったので、わざわざ取り寄せました」
「どうですか具合は」
「気持ちいいですよ。アオキさんも後で入りに来てください」

そんな反応とは裏腹にやはり炬燵は気になるようで、鞄を置いたアオキさんはゆったりとした足取りで側まで歩いてくる。不快にならないように彼の姿を検めると、鼻や耳が僅かに赤くなっていて外の寒さがそれだけで伝わってくるようだ。アオキさん手袋を嵌めていなかったようだし、きっと指先まで冷え切っているに違いない。早くアオキさんにも入ってほしいなと呟いた言葉に、服変えてきますと軽く会釈して去っていった。


「ひゃっ!」

ぴとりと冷たい手が首筋に押し付けられ、私の意識は睡魔の海から引き摺り上げられた。その犯人を恨めしそうな目で見ると、軽く首を傾げられる。

「寝ると風邪引きますよ」
「起こしてくれるのはありがたいんですが、声で起こしてください……」
「次はそうします」

次はそうすると言いつつ、忘れてましたと言って同じ事をやってきそうな気もする。案外アオキさんは子供っぽいところもある。
さて、アオキさんは左か右かどちらに入るのだろうか。そう思っていると右肩をそっと押されて身体が左側にずれた。

「なるほど、良い感じです」
「何で同じところに入るんですか!」

左右どっちも外れ。強いて言うなら右側だったけれど、アオキさんは私と同じスペースに身体を滑り込ました。彼の脚が私に触れ、その冷たさにびくりと身体が跳ねた。

「ナマエさんの近くが良かったんで。駄目ですか?」
「……駄目じゃないです」
「それは良かった」

私の文句もアオキさんのその言葉の前では形無しだ。そんな素直な好意に敵うはずもない。いつも愛を呟くような人じゃないのに、こうやってサラッと口に出してしまうのだから本当に狡い。せめてもの反抗に顔を逸らしていたが、隣からものすごく視線を感じる。

「しかしこれだと……少し移動します」
「はい、どうぞ」

やっぱり狭かったのかなと、アオキさんが立ち上がった事で空いたスペースに身体をずらす。部屋の暖かいけれど、炬燵の中よりは寒い空気が入ってきて思わず身を震わした。

「……!?」
「ナマエさんは暖かいですね」

アオキさんが私の背後で止まったかと思うと、しゃがむような気配を感じた。何でそんなところで?と言う間もなく、私の身体は後ろから抱きすくめられた。すっぽりと私を覆うようにアオキさんは炬燵へ身体を押し込む。

「ちょっと……アオキさん!」
「本当に暖かい。それにとても落ち着きます」

肩口に顔を寄せたままアオキさんは呟く。それがどうにも擽ったい。逃げようと身体を捩ってみたが、彼の脚にがっちりと掴まれてその願いは叶う事はなかった。それならば言葉でお願いしようとした時だった。首にアオキさんの柔らかな髪が当たる感触、そして息が触れた。

「ひぅ…」

啄むように軽く押し当てられた唇に全神経がそこに集中してしまったかのようだ。キスをされるもどかしい感覚に声が漏れる。いつの間にか炬燵に潜り込んだ彼の手が私の太腿をなぞり上げた。身体に熱がこもっていく、炬燵の熱だけが……理由ではない。

「さて、そろそろ出ます」
「えっ……?」

スッと手が離されてアオキさんが立ち上がった。彼の体温を失った背中が冷えていく。それが寂しくて熱に浮かされた思考のまま、私はアオキさんのズボンをそっと引く。

「……まったく何て顔をしているんだ。いいんですか?」

こくりと頷いた。そんな私に良い子ですねと呟いたアオキさんは、ご褒美だと言わんばかりに口付けを落とした。もう熱くてどうにかなってしまいそうだ。