04
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「全然だ!」
「だよねー。まあ結論としては、効率のいいやり方を見つけるなりなんなりして、呼吸を整えればいいんだよ!」
そう言うと、守はわかった!と返事をしてくれた。絶対わかってないと思うけどいいや。僕もどう伝えればいいかわからないし、やってみる方が早いもん。
「え…と…ええと。ということで、サッカー部の皆さんには、今回2週間と3日後に控えた本番でのスケットに入ってもら…」
「冗談じゃねえ、こんなことやってられるか!」
「うんうん、気持ちはわかるんだけど、最後まで言わせたげて」
雷門さんの宣言により、場所は変わって音楽室。あまりに唐突過ぎて、サッカー部の皆も僕達吹奏楽部も、誰も完全にはついてこれていない。ひとまず吹奏楽部側の状況説明をしようとしたらこれだ。うん、気持ちはわかるけどさ。せめてあともうちょっとくらいはね、聞いて。
「染岡くん、君の気持ちはその、なんとなくわかるよ。こんなことして何になるんだとか思ってるよね…?」
「ったりめえだ!吹奏楽だぁ?ただの文化部じゃねぇか!俺らはサッカー部だ!要は音を出して過ごすだけの部活でなんて…サッカーは上手くならねえ!お前らもそう思うだろ…!?」
ただの文化部。音を出すだけ。
ちょっとびっくりした。…仕方ないのは、わかる。でも、こうもいきなり、しかも的確に琴線に触れてくるとか、何この人。
柚は困ったような、千歳は強ばったような表情に。僕もきっとムスッとしてしまっている。うん、気持ちは、察する。だから怒らないよ。抑えるよ。抑える。
怒鳴り声を聞いた他のメンバーの反応は三者三様だった。
確かに呼吸だけで本当に改善するのか?でも、さっき半田とマックスは上手くなってたし…いやでも、染岡の言う通り文化部じゃあなあ…と、こんな具合。
纏まらない雰囲気。ぐだつきそうになる中、1人が立ち上がった。
「確かに普段の練習とはまったく違うけど、きっと得るものはあると思う!」
狭くはない音楽室に力強く響く、キャプテンとしての守の声。それに、と言葉を繋げるその笑顔、ホントに昔から変わらないねえ。見てるとなんだか安心しちゃうんだ。
「それに、なまえが呼吸ができてないって言うなら、きっとそうなんだ。な、風丸?」
「まあ…そういうカンは、確かに昔から妙に鋭いよな。なまえのアドバイスで、陸上のタイムが縮んだこともあったし」
それを聞いて周りが少しどよめいた。風丸の実体験があるのか?!なら本当に上手くなるかも…?的な。
おお…さすが風丸パワー…?
そこからは、あんなに不安そうだった音楽室の雰囲気が良い方向に纏まりだした。戸惑いはあれどひとまず納得してくれたらしく、鬼道くんもやってみる価値はあると後押ししてくれて。ほっとしたような千歳と柚もそれでは改めて説明を、と、和やかに、そしてわくわくと進みだそうとしていた。
それでも納得がいかないと叫んだ染岡くん以外。
「染岡…」
「…円堂達には悪いが、やっぱり俺は…こんなもんで、上手くいくなんて思えねえ」
こんなもん、という言葉につい、ひくり、と、再び口許が引き攣った。…いや、これは少しばかり過剰だけど当然の反応だ!と、引続き気持ちを抑えこむ。
けれどその抑えも、次の言葉で遂に塵と化した。
「俺はサッカーがしたいんだ…!俺達はこんな、ガキのお遊びがしたいんじゃねえ!」
ぷちんって何かが切れた。たぶん、僕の琴線が切れたんだなぁ。
だから僕は、僕はーーサッカー部が落ち着けと染岡の周りに集まっている中でーー染岡くんの前に進み出て、少し上にあるその目を睨みあげた。
「黙って聞いてれば、何も知らない癖に。ーーふざけんな!!!」
…は?と、一瞬呆然とする染岡くんと、静まり返る皆。
「ふざけんな。…ねえ、君は別に、やらなくてもいいんじゃない。幸い人手は集まりだした」
「な…」
「出ていって。これは僕の我儘だろうけど、吹奏楽をお遊びなんていう君に…楽器を、触ってほしくない!!」
呆然としていた染岡くんだけと、みるみる表情が険しくなっていった。
「…お前なんかに言われなくても出てってやるよ!」
吐き捨てるように言葉を放ち、出て行った染岡くん。後には気まずい空気が漂う。ああ駄目だ、気持ちが落ち着かない。顔があげられない。食いしばった歯が痛い。叫んでしまいたいような、思い切り詰ってしまいたいような、それでいて足元が覚束無いくらい、怖いような。
隣に立った柚が、ごめんねって困り顔をしながら背中を撫でてくれた。なんで謝るのさ。謝るのは僕の方なのに。
「…あいつも、最近の練習が上手くいかなくてイライラしててさ。許してやってくれないか?」
「まあ、怒った気持ちは…柚も私も、わかるけど…」
「皆…ごめん。…でも…で、もっ」
「…なまえ?」
自分でも驚いたが、堪えていた物が出た。ああ、うん、涙って割とあっさり出てくるんだよなあ。どちくしょー。
慌ててあやしてくれる守の温もり、千歳と柚の手を感じて、僕は困っている周りに構わずみっともなく泣いてしまった。僕、根っこはチキンだから。怖かったんだよ、たぶん。
立ちはだかる譜面
(今の状況って曲の譜面すらない感じだよね)
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