05



「…ん、よし。みんな、迷惑かけてごめんなさいでした!」
「大丈夫なの?」
「うん、いける。一刻も無駄にできないのにごめん。やることやっちゃおう」



あのハプニングから約5分、怒っていたのと、ちょっぴり悲しいのとで気持ちが落ち着かなかったけど、ひとまず泣き止んだ。心配そうな柚の問いに頷き、一つ深呼吸をした。よし、やろう。


「じゃあ皆、まずは楽器のパート割りをしよう!確認したいんだけど、この中に楽器経験者って…あいたっ」


頭をはたかれた。


「こら、なまえ、違う」
「えっ…?先に楽譜配るの?それとも説明何か終わってない…?」
「サッカー部のみんなのパート割は始めにやるけど、そうじゃなくって!…それより先にまず、自分のやること終わってないでしょう」


ぺし、と再び軽く頭を叩かれる。頬を膨らまし、呆れたような顔を浮かべる柚。僕のやることって、どういうこと?


「なまえはまず、染岡くんに謝ってくること。それが今、一番大事な役割でしょう?」
「なっ……」


びっくりして固まった。…あやまる?染岡くんに、あやまる。謝る…謝る。
ふむ。ええと。


「…や、やだ。僕…は、そりゃ、いきなり怒鳴って悪かったけど…本当のことだもん」
「あんたはまたそういう…」


深くため息をついた千歳。風丸までやれやれみたいな顔してるものだから、つい窓の方に顔を逸らした。


「なまえ、変な意地張ってないで素直になりなさい。口ではそう言ってるけど、どうせすっごく気にしてるんでしょ?」
「ききき気にしてなんか」
「あ、やっぱり気にしてるだろ?手が喉元にいくのは、なまえがなんかこう、気まずい?時の癖だぜ!」

「!」


守に言われて気がついた。無意識に手が喉元を掴んでいる。…確かに僕の癖だ。
いつの間にかかなりの数の視線が集まっていた。…ああ、もう、観念しますとも。


「…わかってるよ。でも、だって、吹奏楽なんかとかいろいろ言われて…嫌だったんだもん」
「…その気持ちはわかるけど、もう子供じゃないんだから少し我慢しなさい」
「し、した。した、けど、ぷっつーんて、ぷっつーんてキレた…」
「我慢」
「………ごめんなさい」


わかればよし、と頭を撫でてくる千歳。それはいいんだけどさ、守と春奈ちゃんが便乗してわしゃわしゃしてくるんだよ、わしゃわ…、まてまてまて!


「髪ぼさぼさになる…あっもう絡まってるんだけどー?!」
「いやぁ、昔みたいだなーって思ってさ!」
「なまえ先輩、櫛ならありますから!問題ないですよ!」
「待とう、問題はそこじゃない」


すっかりぐしゃぐしゃになってしまったので、差し出された櫛を借りて軽く梳き直す。謝りながら笑っている2人にジト目を向けていると、何やらごそごそとしていた柚に、何かを首からかけられた。…アルトサックスのストラップ?別に邪魔にはならないけど、いきなり何故…?
訝しんでいると、柚が笑った。


「これ、必要でしょ?」
「ん…?これから染岡くん探しに行くし、使わないよ?」


サックスを首からかける為に使うストラップ。これが必要になるのはつまり、サックスを必要とする時だ。


「何言ってるの、使うに決まってるじゃない!アルトサックスも持って行くのよ」


なるほど、だから必要と。サックスを持ち運ぶならそりゃーストラップも必要だよね、うんうん納得…………する訳なかった。待って?!


「え、や、何故ー?!傷ついたりでもしたら危ないじゃん…!せめてケースで!!」
「うんうん、傷つけなければ大丈夫よね?それにケース丸ごとじゃあ、ねぇ…組み立ててる間に逃げられちゃうかもでしょ?」
「柚は染岡くんを珍獣か何かだと勘違いしてない?!」


にこやかに反論を全てスルーする柚。同時にアルトサックスを手渡され、習慣でついストラップに装着してしまった。おお、神よ。うちの部長は何故、時折とんでもなく突拍子もない発言をするのでしょう。しかもそういう時に限ってやたらと押しが強いのも何故…!
や、でもやっぱり必要ないよねと最後の抗議に出ようとした所を遮られる。


「ーーただ話して謝るだけじゃきっと足りない。ちゃんと伝えてこなきゃ、私達が一番伝えやすい方法で」
「…え、」


それって、と聞く間もなく廊下にぽい捨てされてしまった。こっちはやっておくから行ってらっしゃい、と放り出しを担当した千歳が手を振る。
…と、その後ろから守が飛び出してきた。がしっと掴まれる手。


「染岡はたぶん河川敷にいると思う、行こうぜ!」


行こうぜって守も行くのか。うん、正直ちょっと気まずかったから心強いんだけどさ。


「あああはやいはやいはや、何これさっきと、デジャ、ヴ、うえきもちわる…す、すとっぷ守…!」


あの、さっきも同じようなことしたよね。さっきも超次元スピードで、特に三半規管がやばいことになったよね!

しかもさっきは楽器がなかったからまだしも、今は首に楽器を提げてるんだ。こんな超次元スピードで河川敷まで走られたら堪ったもんじゃないと必死でストップをかけたが、止まった時には既に1階の昇降口でした。早いって。速いって。


「あ…あのね、守。楽器は、赤ん坊だと思って、大切に、大っっっ切に!扱わなきゃいけないんだよ…!」
「楽器が…赤ちゃん?」
「そう。楽器はすごく繊細で…すぐ壊れちゃう部分も少なくない。だから大切にしてあげて欲しいんだ」


ボールやゴールがないとサッカーにならないのと同じで、楽器がなければ吹奏楽もできなくなっちゃうんだから。

守にそう教えると、そりゃ大変だ…!と言って、今度は動かなくなってしまった。…違う、ものすごくゆっくり動いてるのか。


「守…さっきみたいなスピードじゃなきゃ大丈夫だよ、楽器持ってるのは僕だし」
「あ、それもそうか!」


ははっと笑って、今度は普通の速さで走り出した守。それなら早く行こうぜー!と叫ぶ守においていかれないよう、僕もアルトを優しく抱えて走り出した。
目指せ河川敷、目指せ仲直り!当たって砕けろ!砕けたくないけど!


それぞれのパート割り
(担当パート、仲直り役…なんちゃって)

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