わたしのことを欲しい、と云ってくれる彼からどう思われようが今更だったけれど、もし少しでも拒絶の色を見せられたなら、心には透明の傷がつくんだろうと思った。
 どんなに角度を変えたって見えやしない、ずくずくと痛みだけを訴える傷。だからこうして、先回りのような言い訳を口に上らせるのだ。
「わたしは、誰かに殺されるくらいなら、中也さんに殺してほしいって思うような女ですよ」
 わたしの薄い皮膚の下に流れる血液には、彼への思いが溶け切っているんだろう。
 身も心も捧げたい、と希ったことは初めてだった。彼の強さに圧倒され、忠義の厚さに惹かれ、義理堅さに惚れ惚れとする。きっと純度百パーセントの恋ではない。この人を主と定めて殉じたいまである。
 わたしの心の上澄みを集めたなら間違いなく恋と映るに違いない。そこから潜れば深海生物のように忠誠心が静かにたゆたっている。
「手前が生き延びる為の理由になれるってこったろ? どんな状況だろうが、最期にゃ必ず俺のところに帰ってくるっつう誓いにしか聞こえねぇよ」
 この人は本当に。空よりも海よりも広い心で、余すことなくすべてを包んでしまう。
 傷つかないための言い訳でさえ切っ先は尖っている。自分で自分の喉元に向けた言葉の刃を下ろさせた彼は、一切わたしに諦めさせないし、捨てさせもしない。
「手前の忠誠も愛も全部、俺に寄越せ」