さっきまで紫煙と戯れていたその唇をつ、となぞって黙っていればやや痺れを切らした彼が「……キスしてぇのか、していいのかどっちだ?」と聞いてくる。「ちょっと待ってて」と断りを入れてから口に飴を放り込んだ。
「キスはしたいけど……苦いのはいやだから……」
逡巡していた理由はそれだけじゃないのだが、もごもごと口の中で転がしていたらあっという間に唇を奪われる。彼の舌はまるで別の生き物みたいに動いてわたしから飴を掻っ攫っていってしまった。離れた唇を繋ぐ銀糸が途切れる。彼が口角を上げた。ガリッという破砕音が静寂を揺らす。
「……これでちったァましになりゃいいが」
再び重なった唇は柔らかくてあったかいけれど、溶け出した甘さの中に苦味の残滓を感じて思わず眉をしかめると彼が可笑しそうに、けれどどこか愛おしそうに目を細めて唇を食んでくるから別に不機嫌でもないのにあやされているような気持ちになった。勝ち負けなんて最初から存在しないのだけど、なんとなく負けているような気になり悔しくなってその舌に噛みつこうと口を大きく開いたら、お見通しの彼に見事に思惑を封じられ酸素を根こそぎ奪われてしまった。目は口ほどにものを言うというが、穏やかな海のような蒼とは対照的な獰猛な動きをしている。隙間からこぼれる吐息さえも舐め取られる。
「ちゅうや、さん」
「何か云いたそうだな?」
「もっとゆっくりしてほしかったのに……噛み砕いちゃうなんて」
「んな悠長に飴玉転がしてたら手前とのキスに集中できねぇだろ」
余裕があるように見えて無いらしい彼はまだまだ物足りなさそうにしている。ぬかるんだ地面に足を取られるような心地のなか、すでにわたしの躰からは力が抜けてきていて、それに気付いているであろう腰に回った彼の腕には支えるように力がこもっていた。
「可愛いことを考えやがるよな手前は……飴が抑止力にでもなると思ったか?」
彼の底なしの愛が甘くまとわりつく。