冷や汗をびっしょりかいて目が覚めたわたしの額を、珍しく熱心に机へ向かっていた彼が拭ってくれる。
「魘されていたよ。私が起こす前に目が覚めてくれてよかった」
「……内容は覚えてないけど、悪夢の類なんでしょうね」
まだ抜けきらない夢の毒花。心がざわざわとする。そんなわたしの不快感を見抜いたのか、張り巡らされた根ひとつひとつを取り除くように、彼が接吻を落とした。下唇を食まれて応えるように口を開けると、彼の舌先がわたしの舌先に触れる。口内を満遍なく満たす彼の吐息に、ゆっくりと毒花が爛れ、やがて姿を消した。彼もある種の毒のようなものだ。
「……もう、だいじょうぶ」
「そう……もう少し触れていたかったのだけど」
「眠いから、続きはまたね」
ちぇ、という口振りとは裏腹に顔色の戻ったわたしを彼は穏やかに見詰めている。
「ねえ、太宰さん」
「なあに」
「手を繋いで一緒に寝たい」
「いいよ」
机に放置された仕事のことは綺麗に忘れ去ったかのように逡巡する素振りさえ見せず、彼は布団に潜り込んでくる。
「また悪夢を見るんじゃないか、って怖くない?」
「ふふ、太宰さんと一緒なら、悪夢も楽しい御伽噺にでもなりそうだなって」
だから、怖くない。と云えば、一層目尻をゆるめた彼の手が頬を包んだ。
「君に笑ってもらえるのなら、喜んで道化の役だって引き受けるさ」
おやすみ、と額に触れた唇はあたたかくて、優しさが滴りそうなほどだ。
わたしの意識は眠りの底に落ちていった。ずっと頭を撫でてくれた、彼のぬくもりにくるまれながら。