2:何かを忘れている気がする
誕生から2年、俺は天使に成長した。
何を言ってるのか分からないって?俺も分からない。
シリウスの事は前から天使だと思っていたがまさか俺もだとは思わなかった。鏡を覗いてみて、あらびっくり。違う顔の天使がいましたとさ。
まあ双子だし?2卵生にしろ多少は似ると思うじゃん?ぶっちゃけそんなに似てなかったよね。よく見れば鼻とか口元とか似てなくもないけど俺はどちらかというと母上に似た。シリウスは父上にそっくりだ。成長したら規格外のハンサムになるんだろうな。
とはいえ母上も規格外の美人であり、彼女に似た俺もまた規格外の天使だ。自分で言うと変な感じがするけど事実なので仕方ない。
2歳児といえば、何でも不思議がる時期である。
前世で子供は居なかったから断定はできないがおそらく2歳頃だろう。そのおかげか、喋れるようになってから沢山この世界の事を質問したが怪しまれることは無かった。
最近では兄弟共に家の書庫__何度も迷子になって泣きながらクリーチャーに助けてもらった程度には広い__にも出入りが許されてしまった。流石に父上の書斎には入れてもらえないが、それでも正直まだ早いと思う。が、まあ両親が良いと言ったのだから良いのだろう。
そして俺たちが生まれてから2年、というとどうやら弟が生まれる年らしい。母上のお腹が大きくなるまで気づかなかったのが悔やまれる。名前だけは何となく覚えている気がするけど他はさっぱりだ。そう、確か名前は
「レギュラスと母上、大丈夫かな……」
「っ、父上もついてるし大丈夫だよ。ねえクリーチャー」
「もちろんでございます」
びっっっっっくりした。ちょうど考えてた名前がシリウスの口から出てきたので肩が跳ねてしまった。大丈夫、気づかれてない。おそらく。
シリウスは父上に弟の名前聞いてたのか。俺は聞いてないけどクリーチャーも知ってるってことは俺が寝込んでるときにでも聞いたかな。
今、俺とシリウスはクリーチャーに付き添われて聖マンゴの分娩室前廊下のベンチに座っている。クリーチャーはベンチの横で立ったままだが。誰も通らない廊下だし座ればいいのに。と、思ったときに扉の向こうから赤さんの元気な泣き声が聞こえてきた。うん、元気そうでなによりだ。
ここ数日体調の良くなかった母上は、今日は聖マンゴに泊まるだろう。し、それならば父上は面会時間ギリギリまで母上の傍から離れないだろう。
「母上の顔を見たら帰ろうか、シリウス」
「ん……」
泣き声が聞こえてきたときに、驚いたのか握られた手を握り返してそう微笑んだ。
___
あれから数日、母上とレギュラスが自宅に帰ってきたときに事件は起こった。
事件と大袈裟に言ったが、レギュラスの顔を見た途端に彼に関する記憶が一気に流れ込んできて、耐えられなかった俺の体が数日にわたって熱を出しただけである。両親もシリウスもクリーチャーも、今はレギュラスに手を回したいだろうに申し訳ない。この世界でも軟弱な体を持った事は誰を怨めばいいのか。……俺だな。俺しかいなかったわ。くそったれ。
濁流の如く流入してきたレギュラスの記憶、とは実に様々なものだった。俺たちの弟であるとか、ミドルネームはアークタルスだとか、クィディッチの有力選手になるとか、女の趣味とか、学生時代にヴォルデモートを信奉してデスイーターになるとか、18歳のときに洞窟で湖に引きずり込まれて死ぬだとか。多分これ兄には知られたくなかっただろうな、みたいな事も沢山。
で、問題は最後だ。"18歳のときに洞窟で湖に引きずり込まれて死ぬ"だって?ふざけんな。寿命とか事故ならともかく、いくらなんでも若すぎる。学校すら卒業してないじゃないか。最愛の末弟をそう簡単に死なせるわけにはいかない。
と、いうわけでレギュラス救済委員会をここに設立する。会長、会員共に俺。活動理念は"可愛い弟1人守れなくて何が長男だ"である。
そう思ってから__もちろん熱が下がった後だが__俺はますます迷子になる程広い書庫に入り浸るようになった。まずはこの世界に関する知識がないと始まらない。
流石に籠りすぎだ、と叱られて書庫に籠れなくなったときは、本だけ持ち出してシリウスと一緒に庭を走り回る。そして夜中にこっそり持ち出した本を読み漁る。元々体が強くないために、普段は外で遊び回っているシリウスを眺めるだけだったが今後の事を考えると体は少しでも鍛えておいた方がいい。
まあ、やりすぎると体調を崩して両親にもシリウスにもド叱られるんだが。
うるせ〜〜知らね〜〜誰が控えるもんか。こちとら弟の命がかかってるんだ、と言っても誰にもこの事は話してないのでもちろんお構い無しに叱られる。当然である。言ってないのだから。
そもそもこんな特殊な事情を誰かに言ったら、確実に距離を置かれるし、何らかの研究機関にぶち込まれるだろうし、最悪ヴォルデモートに情報が行って何かしら関わる事になるだろう。そんなの絶対に嫌だ。レギュラスには申し訳ないが、駒の命を軽く見る野郎に共感はできないしそいつの下に下る気もない。できれば個人的には関わりたくない。
そして本を読み言葉をより深く理解するようになってから分かったことがある。この家はとてつもなく純血主義であると。ここがハリーポッターの世界だという事に気がついたときから薄々感じていはいたが"ブラック家"は、やはりそうらしい。父上が時々主催するパーティーに招かれる人は当然皆純血の魔法使いであるし、一度書斎の前を通りかかったときに両親がそんな感じのことを話している声も聞こえた。
まだ彼が2歳だから、というのもあってかシリウスと両親の関係は良好だが、まあ、これも時間の問題だろう。今のところ、両親は俺たちに純血云々の話はしてこない。まだ2歳なのだから当然ではあるが。
俺自身はそういう考えもあるんだな派なので特に純血思想に染まっているわけではない。そもそも近親者での交配には様々な問題が付いて回る、という事を前世での知識として持っているのでどうにも賛成はできない。
ただ、俺は"ブラック家の長男"であるし、シリウスが"ああ"なる事を知っているので表向きに純血主義を否定するつもりは無い。つまるところ俺には家に逆らってまで我を押し通す勇気はない、という事だ。強いて言うならどちらも自分の考えを押し付けないで欲しいな。まあ無理だろう。
でも、うん。最愛の弟たちの板挟みにされるのは悪く無いかもしれない。
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2020.7.14(2021.2.17再編)