6:ハットストール

名前も知らない__名前はさっき呼ばれていた気がするが正直聞いてなかった__同学年子達の組み分けをのんびり聞く。あ、今の子可愛かったな。ハッフルパフか……今後関わることがあるかは分からないな。俺は確実にスリザリンだろうし、家名も家名だしで声掛けただけで逃げられるとか普通にありそう。やべ、想像だけでちょっと泣けてきた。情緒不安定かよ。

それはそれとして、ファミリーネームがBの子が呼ばれ始めたので自分たちの番はもうすぐだろうか。

「ブラック・シリウス!」

急に名前を呼ばれたからか少し跳ねた肩の割に、いつも通り落ち着いて悠々とした足取りで壇上に向かう片割れは流石、肝が座っている。当然の話だが、昔に比べると大きくなった背中を感慨深く眺めた後、目立たない程度に目だけで周囲を見回してみる。
シリウスが出てきた近くに居る眼鏡をかけた子は例のポッターだろうか。確か__この辺りに関しては記憶が定かではないので断言は出来ないが__シリウスとはコンパートメントで既に会ってるはずであるから一緒に来たのかな。もう友人になったのだろうか。

「グリフィンドール!」

シリウスが帽子をかぶったその刹那、高らかに叫ばれたのは騎士道精神を重んじる__確かシリウスが行きたがっていた__寮の名前だった。

少しは悩むと思っていたけどやはりシリウスは家柄なんて関係ないほどの根っからのグリフィンドールなのか。良いじゃん、さすがシリウスだ。

由緒正しき純血"ブラック家"の子どもがスリザリンではなかったからなのか水を打ったように静まり返った大広間に苦笑しながら祝福の意を込めて盛大な拍手を送る。あ?これ拍手一番乗りだな。めちゃくちゃ目立ってるのでは?まあいいか。

俺の拍手に釣られてようやく大広間が拍手の渦に飲み込まれる。もちろんスリザリン以外から。希望通りだったのが嬉しかったのか、はたまた俺にここまで大っぴらに祝われるとは思わなかったのか。
少し驚いた顔で俺を一瞬見て、その後違う方向を見て__おそらくジェームズのいる方向だろう__ニヤリと笑ってからグリフィンドールの席に向かう弟はそれはそれは可愛かった。勿論俺はずっと笑顔で拍手をしている。そろそろ掌が痒くなってきたぞ。


今まではずっと一緒にいたが、今回に限っては同じ寮になる事はないと思う。血統的にスリザリンだろうし、そもそも俺にグリフィンドールが向いてるとは思えない。少し、いやかなり寂しいがそれでいい。家に不信感を抱いてる弟にまで伝統を強いるわけにはいかないからな。


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「ブラック・ケイト!」

自分の名前を呼ばれた事を確認してゆったりと立ち上がり歩を進める。急に立ち上がると当然の如く立ちくらみがする体なので素早く動けないのは許して欲しい。

「これはこれは、珍しい人だ」

帽子をかぶり聞こえてきた声に少し拍子抜けする。どうやらスリザリンとレイブンクロー、それとグリフィンドールで迷っているらしく。てっきり被った瞬間に寮の名前を叫ばれると思っていたし、まさか自分までグリフィンドールと言われるとは思わなかったからだ。

「ハッフルパフは?」
「勤勉であるし献身的な一面もある。しかしそれらは主たる目的を成し遂げる以上の事にもたらされるものではない」
「その点目的のためなら手段を問わない狡猾さと豊富な知識、それを更に求める好奇心、最期まで成し遂げるという信念もある。さてどうしたものか……」

「……お主はどこに興味がある」

一つ聞くと倍は返ってくる組み分け帽子に感動しつつもそろそろ決めて欲しいな〜とのんびり構えていると急に話しかけてきたので心臓が飛び跳ねる。いや、もしかするとこの帽子はずっと俺に話しかけていたのか。どうでもいいけど背後にきゅうりを落とされた猫ってこんな気分なんだろうか、とそれよりも。

「それ、俺が決めてもいい事なんです?」
「もちろん参考程度だが……まあ大人を1人飼っているお主なら大丈夫じゃろ」

半笑いで尋ねると思いもよらない返しが飛んできた。はははそうか、組み分け帽子はなんでもお見通しだったか。そうしたらお見通しな上で悩んでたのか。マジ?何か知らんが恥ずかしいな。その前に飼っているって表現はやめてくれ。

「じゃあスリザリンがいいな」
「して、その心は?」
「……少し長くなっても?」
「もちろん」
「まずは血統。次に、もし嫡男の俺がグリフィンドールに入ったら両親が発狂するし一つ下の弟に家の全てを押し付ける事になる。あぁ、ひとつ前の弟を悪く言ってるつもりはないが、俺はそこまでして通したいと思う"自分"を持っていない。それと、さっきグリフィンドールに分けられた弟の邪魔もしたくない。それに」

スリザリンが一番、なにかと"やりやすい"。

レイブンクローもいいと思うんだけどね、と少し笑いながらそう言うと帽子は沈黙した後に少し唸って蛇を冠した寮の名を叫ぶ。

主にスリザリンのテーブルから割れんばかりの拍手が湧く中、別れ際に小さくお礼を言い既に見慣れた顔が多いその場所へと向かう。

「こちらですよケイト。随分長かったですね」
「ははは、なんか迷ってたみたいで。なんて言うんだっけこういうの……」
「……ハットストールでは?」
「あぁ、それです」

俺が向かう前に席を開けてくれていたプラチナブロンドの彼は俺が小さく漏らした独り言にふむ、と少し考えたあとそう言った。

すっきりしました、ありがとうございますとお礼を言ったところで次の人の組み分けが終わったらしく拍手をする。ルシウスはまだなにか言いたそうな顔をしていたけど気付かない振りをしてひたすらに手を叩く。
どうせ言いたいことなんてシリウスの事か俺がどこと迷われたか聞く事くらいだろう。
身内には普通に良い人なんだけどな……こういう所本当にめんどく、待って今の赤茶の髪の子めちゃくちゃ可愛い。今どのくらいだろうか、E?あぁ〜グリフィンドールかぁ……話すきっかけとかあるかなぁ……

全体の顔面偏差値の高さに驚きつつもひたすら手を叩いていたらいつの間にか組み分けは終わって、目の前にご馳走が並んでいた。相変わらず魔法って凄いよな……とマグル感丸出しの感想を抱きながら細やかに調理された食事に舌鼓を打つ。あ、このチキン美味しい。
_____


あの後、上級生に寮まで連れて行ってもらってそのまま何事もなく床に着いた。

何事もなく、とはあくまで表向きであって内心といえばその限りではない。具体的には動く階段から滑り落ちそうになったり、ルームメイトが"あの"セブルス・スネイプだったり。
階段の件は一瞬ヒヤッとしたけど近くにいたガタイのいい子__後で分かった事だがこの子もルームメイトらしい。__が助けてくれたので俺が多少恥ずかしかったくらいの話だ。ルームメイト__この場合はセブルス・スネイプだ__に関しては完全に初対面なので余計な事を口走りたくはなかった。慣れない環境で少し疲れたのか、体力がないわけではないはずなのに、無理の聞かない体があまりにも重かったので荷解きも程々に軽く挨拶だけ交してベッドに潜った。が、翌朝のことを全くもって考えていなかった。

そして俺は今、セブルス・スネイプと一緒に大広間に向かっている。何故か?おそらく俺の寝起きがあまりに最悪であったためである。もはや毎度の事なのでルーティンで動く事はできるが、ぶっちゃけ起床後しばらくの間の記憶はない。
どうやらセブルス・スネイプはこの状態の俺を1人でホグワーツを歩かせられなかったらしい。本人には聞いてないけど、少し前を歩きながらもずっとこちらに意識を向けているので多分、そんな感じだろう。優しい。ちなみにガタイのいい同室の子は居ないのでおそらく先に行った。

「……着いたぞ」

意識が浮上してからもしばらくぼけぼけと歩いていたら少し前を歩いていたセブルス・スネイプの後頭部に思い切り鼻をぶつけてしまった。高い鼻も考えものだな。何を言ったらいいのか分からなかったのでとりあえずありがとう、と言って席に着き固めのパンを手に取る。固いパンならいっそフランスパンくらい固くすればいいのに。待て、何の話だ。さてはまだ寝ぼけてるな?

「純血貴族様だって騒がれてたからどんなやつかと思えば」

案外普通のやつなんだな、と続けて言ったその言葉は俺を覚醒させるにはピッタリだった。何故って?驚きで、だ。出会ってすぐに俺を偏見無しで見ていることにも驚いたし起床後しばらくの間の記憶がすっぽ抜けるのが普通であってたまるか、という驚きもある。おそらく後者に関してはねじ曲がって受け止めた自信があるのでまあいいだろう。

ルシウスの前でそれを言うなよ、と少し笑った後に頭がスッキリしたことに対してお礼を言うと怪訝な顔をされたが無視してセブルス・スネイプが皿に置いてくれたパンをちぎって口に入れる。
でも、ウーン、ここまでずっとフルネーム呼びだったけどやっぱりフルネームって長いし__言ってもミドルネームが無い分俺よりは短い__ファミリーネームだとうっかり教授って呼ぶ可能性もあるし、何よりそう、とても距離を感じる。ならば。

「フルネーム長いしセブルスって呼んでいい?」
「構わない」
「俺のこともケイトって呼んでよ、弟居るし」
「分かった」

朝食後、朝一番の授業に向かう途中に聞いてみたところ、むしろ何故今までフルネームで呼んでたんだと聞かれた。それもそうか。いや、まあ単に呼び方が分からなかっただけなのだが。

悶々とそんなことを考えながらおできを治す薬の作り方を説明している先生の声を遠くで聞く。ウーン、そのやり方だと失敗もあり得るって家にあった本で読んだ気がする。何の本だっけな……確か「初等魔法薬に関する応用研究」だった気がする。違う気もする。まあいいか、時間が空いたら図書館でその辺を探してみるのも悪くないかもしれない。


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「やあ、セブルス隣いいかな……おっと失礼その子がリリーか?」

授業終わりの夕食前。いつもの通りセブルスの横に座ろうとしてふと気付く。反対側に美少女が座っているじゃないか。
はじめまして、とできる限り柔らかく笑顔を作る。何せグリフィンドールの彼女__セブルスと親しげに話している所を見る限りおそらくリリーであろう__からしたら俺は見知らぬスリザリン生、怯えさせる可能性の方が高い。そうなるととても悲しいのだ。俺が。

……いや待て、普段彼女の話をするときのセブルスがリリー呼びだからついつられてしまったが初対面でファーストネームは馴れ馴れしすぎるか?やらかした、普通に友達になりたかったけど引かれたかもしれない。グッバイ俺の楽しい学生生活、後でセブルスに慰めてもらおう。いや、鼻で笑われて終わりそうだな。やめておこう。

「そうよ!はじめまして、あなたがケイト・ブラック?」

おっと、怯えられるどころか知られてた。しかもこれは引かれてないな?つくづく思うがこの国の人のコミュ力は凄まじい。
俺がきょとんとしたからか違ったらごめんなさい!と慌てて謝るリリーに少し申し訳なさが湧く。

「あってる、あってるよミス・エバンズ。俺はケイト・ブラック。先程は失礼したね、気を悪くしないでくれ」

「……?さっきみたいにリリーでいいわ」

保身の為に咄嗟に謝ったがおそらく何故謝られたか分かっていないだろうリリーを見てまたやらかしたことを悟る。ここは謝らなくてもよかった場面かもしれない。
セブルスが貴族だから何かそういう風習があるのだろう、知らんけど。(意訳)みたいに雑なフォローを入れてくれたのをありがたく聞きながら長椅子を跨ぐ。まあリリー__何度も言うが初対面だ__の前だしそういう事にしておこう。

「そう、あなたの話をしていたのよ!ええっと、ブラック?」
「俺もケイトでいいよ、弟がそっちにいるし」

そう返すと少し考えて思い当たったのか一瞬眉を顰めた後、驚いた調子で似てないのね、と言われた。

「二卵生だしなぁ」
「そもそも本当に兄弟だったのね。噂はあったけど話してるところなんか見たことがないわ」
「あ〜それはほら、だって」

リリーの方に向けていた顔を少し上げた先、グリフィンドールの机では同室であろう3人と楽しそうに夕食を食べるシリウスを見る。食事時に__これは食事時に限った話ではないが__あれほど表情を緩める片割れの姿を見るのなんてもう何年ぶりだろうか。

「俺が邪魔したら悪いでしょ」



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あんなに楽しそうなのに、とどこか諦めを含んだ声色で眩しそうに目を細め穏やかな表情でそう言ったケイトに、__初めて会ったからとはいえ__言葉が喉の奥でつっかえて一生出てこなくなる気がした。



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ご都合主義者なので組み分けはシリウスが先で、帽子の声は本人にしか聞こえない設定です。悪しからず。
2020.8.27(2021.9.21再編)