7:存在理由を探して

「38度8分、か」
「今日はハロウィンだから頑張れ、と言いたいところだが……」
「無理そうだな」

セブルスとアッシュフォード__3人部屋のもう1人の同室の子だ。とても体格が良く、たまに俺が階段から落ちそうになっていると助けてくれる__が心配と少しの憐憫を混ぜた声でそう言ったのをふかふかのベッドに沈みながら聞いたのがつい数時間前。あー、だかうん、だか言った気がするけど正直その時は熱に伴う頭痛やら目眩やら耳鳴りやらでそれどころじゃなくて、反応を返せたかあまり覚えていない。
起こしてくれたのに申し訳ない事をした自覚はあるので2人が帰ってきたら土下座でもしたいところだが、はたして生粋のイギリス人にジャパニーズ土下座が伝わるのか否か。五体投地の方がいい気もするけど、どちらにせよ土足で歩く床に顔を擦りつけるのは嫌だな……やめておこう。

火照ってはいるが他の不調が多少マシになり、緩く回転を始めた重い頭を持ち上げながら体を起こす。入学以来、初めて本格的に体調を崩すのがよりにもよってハロウィンとは。我ながらツイてないと思うが、無理が聞かない体なのは今世でも同様らしいので早々に諦めた。
今日は生徒同士でお菓子を配ったり夕食に特別な料理が出たりするのだろうか。前者は寮風的になさそうだけど後者はあるだろう。かぼちゃパイとかぼちゃジュースとかも出るのかな。いいなあ、夕食だけでも食べに行こうか。でも今みんなと一緒に普段のスピードで行儀良く固形物を食べられる気がしない。やめておこう。

顔を洗って身支度を整える。顔色はゴーストと見紛うほどに最悪だけど顔の造形は最高だな。それはそれ、儚い系でとても良い。これでずっと痛む頭が治まってくれればもっと良いのにな。

「……とりあえず病棟で薬でも貰ってくるか」


___



「ようやく来ましたねブラック。……なんですかその顔色は」
「すみません、お薬あればください」
「食事は取りましたか?」
「起きてすぐここに来たのでまだです」
「昼食……はとっくに終わってる時間ですね。1人で動けるのならば厨房で貰ってきなさい」

薬を飲んで落ち着いてからで構いません、と言いどこかへ引っ込んで行ったマダムポンフリーに、途中で渡された体温計を咥えながら会釈をする。厨房か……どこだっけ……。

えげつない色をした薬__熱くはなさそうだが何故か沸騰していてもう既に飲みたくない__を手に戻ってきたマダムに、俺が顔を出したときの"ようやく"の意味するところが分からなかったので聞いてみたら、朝イチでセブルスとアッシュフォードが俺の不調を知らせに来てくれていたらしい。マジでいいやつだなあいつら。今度お礼にお菓子でも作ってみるか。ちょうど今日ハロウィンだし。作ったことないけど。

「熱は……だいぶ下がりましたね」
「そうですね。あの、本当にその薬……薬?を飲むんですか」
「体調を戻したいなら飲むことをおすすめします」

俺から受け取った体温計を見ながらそう言ったマダムに思わず聞いてしまったが、重い体を引き摺ってここまで来た主目的だし、なによりせっかく用意していただいたものだし聞くまでもなく飲まなきゃだよな。分かってはいる。分かってはいるんだ。頭では分かっているけど体が拒絶する。だから食事は薬を飲んで落ち着いてからでいいって言ったんだな。ウーッ分かりたくなかった。



___



見た目通りとんでもない味がした薬を飲んだ俺は厨房で胃に優しい食事をいただいて、そのまま自室のベッドに潜り込む。病棟を出るときにマダムから今日中は安静__と言ってももう今日は半日もないが__を言い渡されたので授業に出るわけにもいかず、急に暇になってしまった。多少眠いが今日は半日寝て時間を無駄にしてしまったのでもうあまり寝たくない。昨日図書館で見繕ってきた本__家では読ませてもらえなかった闇の魔術に関する書籍だが__を読むのもいいな。家で読むことができた本の中には今の状況に関連がありそうな記述は見つけられなかったが、膨大な蔵書数を誇るホグワーツでは見つけられるかもしれない。

入学前に勢いで買ってもらった挙句、ついホグワーツにまで持ってきてしまった古いスコープを一瞥した後、装丁の綺麗な分厚い本に視線を落とした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2020.12.26