──2003年 夏
腹では何を考えているのか分かりたくもない
他人から謎に貢がれた気味の悪いモノではあるが、それはそれ。元々は
たまには良いかとこちらから歌舞伎町に赴いて、ミラーシールドのフルフェイスも被ったままに、その辺の不良と派手な喧嘩をして。「フルフェイスの奴が派手に喧嘩をしている」なんて噂を聞きつけたのか、顔も見えないソレが私だと分かった上で乱入してきた半間といつも通りの喧嘩をした。
喧嘩が終わってからも「こっち来てくれンのとかマジで珍しいじゃーん!?」と、何やら本気で機嫌の良さそうな半間と歌舞伎町のゲーセンで遊び倒して。楽しい余韻もそのままに別れてからは、どうせ足もあるのだとして前回とのすり合わせをすることにした。
つまりは──ずっと避けていた渋谷まで赴いたのだ。
ただひたすらに、圭介を巻き込みたくない一心で避けていた土地だ。それでも情報収集のためと割り切り、渋谷の実家があった周辺を一通り回って。圭介とは万が一にも遭遇しないように神経を使いながら、無事に情報は集め終えた。
ひとつ、今回も
ひとつ、佐野道場は変わらずにそこにある。
ひとつ、圭介も東京卍會で元気にやっているらしい。
ひとつ──佐野道場から少し離れた場に、S・S MORTOR'sなるバイク屋が、あった。
このまま誰もが前回通りの動きをした場合に起こりうることと、それが理由の一つかもしれない更に後の流れを思い出し、メットの中で口元を引き結んだ。予定通りであればここの店主、つまり真一郎君は数日の命だ。
確実に私以外にも居ることは分かっているタイムリーパーを炙り出すためにも、私も何もしないでおくか。はたまた、頭がおかしいと思われる危険性を理解した上で──現状の
どうしたものか、なんて。そんなことを考えつつも、S・S MORTOR'sの対岸に単車を停めた。店内では、真一郎君であろう人が作業着姿でしゃがみ込んでいる。その背中を道路とガラス越しにぼんやりと眺めていれば、ふと、その作業着が顔を上げた。
──まずいな。あちらからは中も見えないヘルメット越しとはいえ、間違いなく目が合ってしまった。
顔を上げたままの体勢でしばらく固まり、ゆっくりとこちらに歩いてくる、どこからどう見ても真一郎君であるその人を見て。ひとつ息を吐き、コレはもう仕方ないかとヘルメットを外した。
ここから先はプランB──つまるところ、頭がおかしいと思われても、キッチリ知りたいことを聞き出す作戦だ。流石に咄嗟で自然な会話の流れに持って行けるほどの器量はない。
「よォ、客か?」
「どうだろう。単車は間に合ってるンだよね」
「そっか。良いカスタムだもんな」
こだわり抜いたカスタムを初手で褒められて嬉しくならないバイク乗りは居ない。しかも相手は本職だ。表情を繕うことなくへにょりと相好を崩していれば、不意に真一郎君が首を傾げた。
「つーかオマエその顔、どっかで……」
「……あは、お母さんには言うほど似てねえだろ」
「ッッはァ!? お母さんってことは、つまり……エ、オマエまさかレン!?」
「そうだよ。久しぶりだねえ、真一郎君」
「すげえ普通に不審者かと……」
「あはは! 相変わらずデリカシーないなあ!」
「うっせ」
元より相手は、家族ぐるみで付き合いがあった家の長男だ。どうせ知られている顔だとしてマスクもサングラスも着けず、少しだけ意識して母によく似た笑い方をする。そうすれば、真一郎君はグッと奥歯を噛み締めた後で私の頭に手を置いた。
この人は昔からこうだった。自分の弟よりも高い位置にあった頭を「丁度いい場所にあるなー」と言いながらも撫で回し、私の虫の居所が悪いときに少しばかりの文句を言えばタジタジになり。それでも少しすれば「顔だけ見るとカワイーのに」なんて言って構い倒す。
今だって「外暑いだろ? 入ってけよ」なんて言う姿は何も変わらないのだ。──少し表情に翳りがあること以外は、本当に何も変わらない。
「でっかくなったよなあ……元々タッパはあったけど……おふくろさん超えたんじゃねーの?」
「まァ、元々そんなに身長ある人でもなかったからな」
「ははは! そりゃあそうだ!」
眉をへにょりと下げて「小柄だったもんな、あの人」と、既に死んでいる母を思い出してか、少し悲しそうに笑う。その顔は最初に見せた翳りのある顔とはまた違っていて。
──おかげで、コレはもう確定だろ、と思うことができたから。店の中に入れさせてもらった愛機を見て自然に始まったカスタムの話が途切れたタイミングで、本題をブッ込むことにした。
「真一郎君ってさ、オカルトとか信じるタイプ?」
「…………何? 壺買わされそうって話?」
なるほど、真一郎君にしては不自然なはぐらかし方だ。「それもあるけど」と言って一度言葉を切り、少しだけ話し方を考えてから口を開いた。
「今から考えたら、どうしたってあるはずのない未来を知ってるとか」
「……」
「気がついたら、過去に戻ってた、とか」
気持ち眉を下げて、その雰囲気だけは母に似ていると言われた顔で笑って。「信じる?」と聞けば、真一郎君はしばらく黙った後で、手元の煙草に火を付けた。なるほどなァ──残念ながら、その仕草には覚えがある。
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