──2005年 初夏
港区六本木、その裏路地にて。血縁由来だけではない眠そうな顔もそのままに、珍しくも微妙そうな顔をした半間と喧嘩をして、互いの腹が鳴った音を合図に喧嘩の手を止める。互いの表情以外はほとんどいつも通りの光景だった。
半間がイマイチ乗っていないことは、まァ、仕方ないだろう。今日の私は間違いなく眠いのだ。つまるところ、いつも通りには動けないということで。イコール、今の喧嘩もそれほど楽しいものではないのだろう。正直に言えば今すぐにでも寝たい。
現にさっきは、横っ腹に飛んできた蹴りを避けられなくて盛大に吹っ飛ばされたばかりだった。想像以上に軽く飛ばされてしまって殺意は湧いたが、アレは避けなかった私が悪いわけで。呆気なく飛ばされた私を見て、珍しくもしばらく目を丸くして固まっていた半間の間抜け面を見れば──瞬間に沸いた殺意も何処かへと行ってしまうというものだ。どうやら、半間の方も当たると思っていなかったらしい。
そうして、即座に飛び起きて持ち直してから少し。お互いに手が止まったタイミングで小さく欠伸をすれば、半間の方からは「また悪夢?」なんて声も聞こえてきた。けれど別に、最近はそういうわけでもなく。
「忙しいだけですよ。普通に」
「…………舎弟以外に何かやってンの?」
「はァ?」
そもそもの話、喧嘩のやり方に振った堕天使なんて呼び方をされていようが、基本的には便利な情報屋なのだ。未だ半間へ接触した様子もない稀咲以外の人にも情報を売っているからには、そりゃあ忙しいに決まっている。
あとは普通に、私も半間も学生なことは忘れてンのかな、なんてことも考えつつ。適当に忙しさの要因の一つを挙げることにした。
「ひとつは半間のお姉さんの相手ですね。単車あげたんだからなんかやれって言われまして」
「ウーワ、マジでだりぃヤツじゃん。さっさと切れば?」
「まだ使えるモノを捨てる気もないですからね。モノに見合う対価……飴も必要なんですよ」
そう言いきってから自信がなくなって、小さく「多分」と付け加える。「出た、DV思考」と楽しそうに笑われたからには、まァ、間違っていなかったのだろう。
「しかも分かんねえでやってンのかよ」
「こればっかりはなんとも。DV野郎に沼る奴の思考なんて分からないので」
「つーかナチュラルに人の姉貴のことモノ扱いしてンの面白すぎるワ」
「あー……すみません。何か堕天使
「……あ? 何か増えてね?」
「気にしたら負けです」
本格的にお喋りモードに入ったのか、仮にも自分の姉相手に「肩外すのは褒美になんねえの?」なんてことを言った半間には「それが、なるらしいンですよね。何故か」と笑って。また腹の虫が鳴ったことで、そういえば腹が減ったから中断したのだということを思い出した。
ここから近いのはどこの店だったかと頭を回して。その最中にも絡んできた不良を、揃って邪魔すンじゃねーよの真顔でタコ殴りにして。
しばらくそうしていれば、とうとう電池切れで動けなくなってしまった。無論、私が。元が死ぬほど眠かったのだ。致し方ない。
「……飯、どうする?」
「あそこ行きたいです、あの……何だっけ」
「何も分かんねーな」
「ア゙ー……マジで何だっけ……」
腹を空かしている中での乱入者のせいで余計に体力を消耗したらしい。全くもって出てこない店名に唸っている最中にも「思い出せねえンならいつもンところ行くぞー」と言った半間の肩に担ぎあげられる。『いつもンところ』とは、二人でよく行くラーメン屋のことだろう。あそこはニンニクチップを無限に乗せられるから好きだった。
途中に半間の肩でそのまま寝落ちたら、ブチ切れた声で「テメェ人の肩で寝てンじゃねえよクソサブロー!!」なんて叫ばれ、ラーメン屋の前で
容赦なくアスファルトに投げ捨てられることも、一瞬だけ覚醒して綺麗な受け身を取って舌打ちをされることも、キレた半間から苗字の後半──下の名前らしき場所で呼ばれることだっていつものことだ。
それから。寝ぼけ眼のままでも馴染みの店主に「相変わらず良い食いっぷりだなあ、兄ちゃん達!」なんて笑われるくらいには腹ごなしをして、食べ終わってからは人気のない路地裏で煙草を吸って。路地裏を移動すれば、命知らずにも「オイオイオイオイ! 死神と堕天使じゃねーか!」と絡んで来た不良を相手に、また喧嘩をする。
顔も性別も、今更特に隠さなくてもいい。今更変に気を張らなくとも構わない。既に知られている性別からして、名乗ったものが本名ではないことくらい気付いているはずなのに──特に深入りしてくることもない。
名前に関しては多分、わざわざ聞いてくるほどの興味がないだけなのだろうとは思うのだが。同じく興味がなさそうな
そんな丁度いい距離感を保ってくれる半間とのこの時間は、楽しくないと言えば嘘になる。間違いなく私が楽しいからずっとつるんでいるのだ。今日は眠くて使い物になっていないが。それはそれ、これはこれだった。
とはいえ、半間とのこの時間だってそう長くは続かないのだろうなと察してしまうから。何せ前回のことを考えても、今回色々動き回っていることからしても──そろそろ頃合なのだ。半間はそろそろ、私よりも強烈に惹かれるであろう人と顔を合わせることになる。
前回では厄介極まりない存在だったジョーカー二人が揃うきっかけが、図らずしも私になってしまいそうなことには微妙な顔をする他ないが。それでも。
だからこそ、まだ私への興味を失わずにつるんでくれている間は大いに楽しむべきなのだろう、とか。そう思ってしまうのは、言われていないことも山ほどあると分かった上で、ずっと変わらずに私をマブだと言って憚らない半間に失礼だろうか。
やめやめ、本調子でないときは無理に考え込むべきではない。考えるにしても他のことを、例えば──
「ア、」
「ア? 何?」
「さっきの店思い出しました。歌舞伎町の外れにある唐揚げ屋です」
「……どこ?」
「なんか……専門店? みたいな」
「あー……あそこ大して旨くねえぞ。味濃いだけでマジの揚げたてじゃねえとベッチャベチャ」
「何だ。じゃあいいや」
「……や、堕天使だったら食えるかもな」
「天界の飯が地上より不味そうだって話はやめろ。なんとなく分かりますけど」
「ばはっ♡ 何で今ので通じンだよ」
「何年マブやってると思ってるンですか……」
自分で堕天使ネタをブッ込んでからというもの、笑いが止まらなくなってしまったらしい半間から聞こえた「ネンショーとどっちが不味いと思う?」なんて言葉に「どっちも食ったことないのに分かるワケないだろ」みたいなことを返して。
そんな緩い会話の最中にも、三下の言葉を吐いて絡んできた不良の腕を固める脚は緩めず。同様に殴る手を止めていない半間をぼんやりと眺めていたら──その奥に、人影が見えた。
見るからに不良でも、ここは彼が締めていると聞くチームの拠点ではない。
六本木には似つかわしくないその影に首を傾げ、丁度手元にあった誰かの関節を外して。とうに聞き慣れた軽い音と汚い呻き声を聞き、空腹も睡魔もヤニ切れも紛れて少しは回るようになった頭で──ようやくその目的を理解した。
そうだそうだ、さっきまで考えていたことが現実になっただけだ。確か数週間前、ようやく半間の名前を出した稀咲に、半間の不利益にはならないとみて「悪い奴ではないですよ」みたいなことを言ったのだったか。
そう言ってから接触までにも少し間が空いたのは自分でも調べていたからか、はたまた単に、半間がフラフラしすぎていて捕まらなかったか。わざわざ六本木まで出向いたからには後者なのだろうか。
「半間ァ、お客さんですよ」
「あ? だりぃ〜……まだ居ンの?」
「いえ、今回ばかりは喧嘩ではなさそうです」
「はァ?」
「多分、少なくとも今のところは」
路地の入り口に向けて少しだけ声を張る。「見物だけで良いんですか?」と声を掛ければ、そのシルエットは僅かにたじろいだものの。観客は大人しくこちらに歩みを進めることに決めたらしい。あァ、ウン。やはり、今回でも調べている中で見た顔だ。
「誰? 左衛門の知り合い?」
「そういうわけでは……実際に顔を合わせたのはこれが初めてですね」
「……オレを知ってるのか」
半間の客からの謎に満足気な視線と共に「流石の堕天使だな」と言われてしまったからには──思わず足を払ってしまった。面倒そうに「あーあ」と小さく音を零した半間は、私が初対面の他人からその名前で呼ばれることを嫌がっていることを理解しているのだ。
もう随分と長くなってしまった付き合いの中で、というよりも、二度目に顔を合わせた時点で哀れまれてしまっただけのことで。
明らかに冗談だと理解している身内でネタにするのであればもう構わない。流石に何年もそうであれば開き直れるし、どうでもよくもなる。
が、しかし。顔見知りですらない他人から、特に理由もなくそう呼ばれることだけは勘弁してほしいのだ。諸々を理解した上で明確に馬鹿にしてくる身内よりも、はるかに馬鹿にされている気分になる。そういう意図がなかったとしても、こればかりは変わらなかった。
──半間だって、怠そうな声の割にソワソワとこちらを見やるのはやめてほしい。身内での冗談ではなく、この場には本気でその呼称を使う半間の客も居る。とうに鉄板になってしまったネタとしてでも「
「左衛門三郎です、長内信高。何の関係性もない中で次その名前で呼んだらパンイチでそちらの校区を一周させますよ」
「わ、悪い……」
「いいえ。こちらこそ初対面で失礼しました」
どうも私の堕天使ネタを気に入っているらしい半間から向けられる、明らかに期待する様な視線から逃げつつであるからには──まァ、イマイチ格好は付いていないものの。素性はとっくに割れているぞと脅しを掛ければ、尻もちをついたままだった長内は意外にもあっさりと引き下がった。
──はて、私に関しては深追いするなと言われているのか、それとも、流石にパンイチでの校区一周は嫌だったのか。正直、どちらでも構わないのだ。
革の手袋を嵌めた手を差し出しつつ、長内の所属で察していた要件から「半間への用なら帰りましょうか」と聞けば、未だ何の説明もされていない半間からは片眉を上げられてしまう。
しかし、そんな半間と私に向けられる少しの脅えを虚勢で塗り隠した長内から「二人への用だ」と言われれば──首を傾げながらも、半間の尻を蹴飛ばして着いていく以外の選択肢はなかったわけで。何せ、当初の思惑通り餌に掛かってくれた人間が裏に居るのだから。
手元に自分の単車がないとして、六本木まで乗り付けて来ていた半間の単車のタンデムシートに乗り込んで。長内に連れて行かれた先──最初の記憶とはまた違う姿で出迎えた稀咲に、緩く目元を細めた。
顔を合わせること自体
話を流し聞いている限り、まずは半間の勧誘を進めることにしたらしい。そうして、稀咲の話を聞いた半間は──心の底から面白いものを見つけた様子で、愉しそうに笑った。
私以外には滅多に向けられない、というよりも、私に向けられるよりもずっと楽しそうなその顔に多少思うところはあったが──まァ、それだけだ。前回の通りであればそれがこの二人の通常運転であるし、今回で少しばかりの切っ掛けになってしまっただけの、ぽっと出のマブに付け入る隙はそもそもないし。ウン、やはり何も問題はない。
そうして。しばらくぼんやりとしている間にも半間との話し合いは纏まったらしい。「左衛門は久々だな」とこちらを見た稀咲には軽く片手を上げておいた。
「……今度こそ知り合い?」
「ええ、『今度こそ』ちゃんと友人です」
次兄と揃いのフレームの奥で「行動するまでに随分時間が掛かりましたね」と笑って見せる。そうすれば、カチャリと小さく音を立て、ズレてもいない眼鏡を直された。
コレは──稀咲の駒としての
それとも、いつまで経っても勧誘に頷かない私を孤立させようとしている過程のひとつが、想定以上に上手く行ったことへの満足感か。その仕草の理由は定かではない。
でもまァ、いずれにせよ特にこれといった興味はないことで。この二人は──忌々しいことこの上ない記憶ではあるが──前回でも一緒に居たのだ。半間と稀咲にとっては、コレが本来の姿だと理解しているが故の『興味はない』だった。私が切っ掛けになろうがならないが、果ては余計な世話を焼いても焼かずとも、いずれ収まるべきところに収まるのだから。
そもそもの話、稀咲の使いであった長内は私を含めた『二人への用』だと言ったのだ。だからこそ私も着いてきたわけで。ソレが半間だけへの用ではないことには首を傾げざるを得なかったものの、とりあえずのところは話を進めてもらわなくてはなるまい。
「まさかとは思いますけど、もしや
「それ以外にあるわけないだろう。そろそろ合流する気は?」
「今のところないですね」
もう何度も断っている案の定な用件をサクッと躱すついでに「別に稀咲の舎弟になったつもりはありませんし」と言えば、その稀咲からは「こんな舎弟こっちから願い下げだ」なんてことを言われてしまう。
──なるほど? どうやら今までを含めて苛めすぎたらしい。確かに初手で高い茶菓子を出して、警戒心も剥き出しで食べているところをひたすら眺められたらこうもなるか。
とりあえずは「そろそろその眼鏡叩き割りますよ」とだけ言って──そうだな、半間も居ることだ。これまでの付き合いで、稀咲にはとっくに伝えている本命の理由も付け加えておくことにしようか。
「あとは何度も言っている様に、少ないキャパでは愉快なマブと六本木と……まァ、現状で手一杯なので」
「オマエのキャパで少ないわけがないだろうが……冗談はその必要以上に頭の弱く見える格好とスカした態度だけにしろ」
「ハ? 我らが最高カリスマ兄弟蘭の兄貴からアレンジしてもらった灰狂戦争竜胆の兄貴リスペクトのこの姿を頭の弱い冗談って言いました?」
「別にそこまでは……言ったが……」
一息でそう言い切った後に、気持ち間を開けて。不満を全面に出して「正気ですか?」と眉を顰めれば、稀咲は明らかに失敗したとでも言いた気な表情を作った。
言及すらも面倒なことはひとまずフルシカトだ。天才でも神童でもない私のキャパなんて、実際にたかが知れている。スカした態度だって今更なのだから。
そんなこんなで、どちらかといえば正気ではないのは私の方であるのだが。それはそれ、そんなものはこれまでの積み重ねと勢いが後押ししてくれる。この話題に関しての恥なんかとうに捨てた。
稀咲と話し始めて以降、どこか微妙そうな顔でこちらを眺める半間だって、ひとまずのところは放置でいい。どうせコイツは勝手に稀咲と仲良くなるのだ。好きにしてくれ。
そうして、再びズレてもいない眼鏡をカチャリと押し上げた稀咲は、心底面倒そうな長い溜め息を吐く。次いで、少しの間の後に「まあいい」と言って強引に話題を変えた。懸命な判断だろう。心の底から興味のない推し語りほどウザいものはない。
「その半間は愛美愛主に加わるそうだが?」
「半間はともかく、
「へえ……オレと半間だけじゃ足りねえってか?」
「んふふ、こう見えて欲張りなモンで。せめて平隊員を卒業してくれないと」
愛美愛主の本拠地で、周囲を愛美愛主に固められた状況で。それでも半間以外であれば一人でどうとでもねじ伏せられるとして口にした条件は、今更呑めないだろうなと思ってこそだった。
当然、案の定とも言える苛立たし気な舌打ちと共に却下されたわけだ。何せ、今までに何度もされていた勧誘もこの条件と、ついでに今し方始めかけた
六本木のカリスマ兄弟への心酔具合は、明らかに毎回聞き流している稀咲がうんざりする程には聞かせてある。相手が直接の接触はずっと避けている
現状、あちらが鬱陶しがっている様子はない。わざわざ自分達に似せた格好をさせるくらいには気に入っている。そんな舎弟を引き抜いたら報復が面倒そうだ、みたいな。
コレはまァ、形だけでも彼らを後ろ盾だと認識させるためのものなのだが。兄とは既にただの設定であることだって共有してあるからには、稀咲のそれだって杞憂に過ぎないのだが。そもそもの話、似た格好だって兄のセンスに全投げした私のワガママが元だ。
ただ──それらをひとつも知らせていない以上、いい後ろ楯になってくれているということに間違いはなく。その辺りは舎兄さまさまだった。
気を取り直して「勝てそうな箇所があれば聞きましょうか? 当然、まずは彼らの最高に魅力的な点から語らせていただきますが」とかなんとか言って。怒涛の舎兄語りを再開しようとすれば──「分かった、分かったから」と、数秒ぶりの心底面倒そうな顔で止められてしまう。何だよ、せっかくアツい推し語りのポーズとして拳まで握ったのに。
「左衛門は今まで通り別動隊だ」
「あは、了解です。とはいえ、これまでと同じく、知らない計画の始末はできませんので悪しからず。計画に変更は?」
「代案も含めて伝えた通りだ」
「なるほど。了解です」
「……何? アニキ語りとかオレ聞いたことねえんだけど」
「半間は他の不良とか興味ないでしょう。気になるンでしたらいくらでも語りますが」
「オレだって微塵も興味ないんだが?」
「稀咲はほら、ちゃんと聞いてくれるので」
「必死に聞き流してんだよ……!!」
その後は稀咲が欲しいと言った情報を渡して、このまま愛美愛主に加わるらしい半間を置いて一人徒歩で帰路に着いた。これから半間は新しい相棒に掛かり切りになるだろうし、今のうちにできることをやっておくべきか。
──稀咲が釣れたあの日、こちらのペースに持ち込んだお茶会を経て、以降は協力することを選んだ。途中で前回を思い出して抑えきれなかった殺意を良い感じに使った、警戒心を演出する少しの問答の後で、稀咲から持ち掛けられた『ダチになりたい』との誘いに頷いたわけだ。
見るからに、な不良ムーブをした人間相手にも、若干の上から目線で尊大な態度は変わらなかった。相変わらずやたらと肝が座っているな、とは思ったものの、元々狙っていた関係であるし、建前上は友人であるらしいし。
きちんと調べを尽くした上で友好的に声を掛けられた時点で、ただの駒ではなく友人として良好な関係を築いた方が手っ取り早い、なんて考えも透けて見えていたのだ。こちらとしても、今後を楽に動くためにも特に異論はなかった。
あとはその──圭介に手を出されなければ気も合いそうだと思ったことも大きいだろう。元々器用に頭の回る人は嫌いではない。上から目線も尊大な態度も、腹で考えていることがあることだってお互い様なのだ。
その後は求められた情報を集めて流し、求められれば、稀咲曰く邪魔な人を邪魔ができなくなる程度に排除した。流石に殺しだけは後始末が面倒だとして、その全てを代案と共に断っているのだが。それに小言を言われない程の関係性は築いた。
そんな日和っているとも取れる腰抜け条件でも、稀咲が持たない情報網と肩書きと、多少の尾鰭の付いた
いざ思い返してみれば、これの何処が友人だとは言いたくはなる。が、しかし、あくまでも建前上のモノだと理解しているからこそ大人しく従っている。少なくとも私も、稀咲とのこの関係を良しとした。
──と、まァ。そんな中でも稀咲が使えると判断した人は既に愛美愛主にも入っている様であるし、我ながら中々に良い働きをしたのではないだろうか。
そのときはまだ、稀咲とは何の関係もなかった半間とつるみながら。何度「会うな」と言っても半間に会いたがる兄達を、そのどちらにも似た素顔を知っている半間とは会わせないように。"六本木の灰谷兄弟"の舎弟をやりながらだったとはいえ、上々な働きぶりだろう。
「……今日はアイスでも買って帰るか」
自分へのご褒美でもないとやっていられない。そろそろ脳みそが焼き切れてしまいそうだ。
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