24.情報屋は救急箱と共に

 キヨマサ君にボコられて、確かにこんな感じだったと歯を食いしばる。思えばここから人生の歯車が狂ったのだろう。
 この日からオレ達は東京卍會の奴隷になった。毎日の様に喧嘩賭博なんてモノのプレイヤーをさせられて、中学の途中で逃げ出して。それからも逃げて、逃げて、逃げ続けたのだ。

「分かったよ神様!!! オレの人生クソだって言いてぇんだろ!!?」

 山岸が泣いている声を聞きながら、もう既に力も上手く入らない拳を地面に叩き付ける。惨めにも逃げ続けた人生の走馬灯にしたって、もう少しなんとかならなかったのか。
 ──そんな、あまりにも惨い走馬灯に八つ当たりをしている最中、バイクが遠ざかる音と微かな足音が聞こえた。

 オレ達以外に誰かが居たのかと思って顔を上げても、日も落ちているからかよく見えない。音が聞こえた気がした方向に目を凝らして、凝らして。そうしてようやく、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。

 ようやく見える距離まで来たその人は──見え辛くとも仕方がないレベルで真っ黒だった。下手をしたら、そのまま暗闇に溶け消えそうなくらいには黒い・・印象だったのだ。
 黒い長袖のパーカーに黒いカーゴパンツ、手には黒い手袋を着けている。辛うじて捲られている袖から覗く腕と、パーカーの下に着ているらしいシャツは白かったけれど、あとは本当に真っ黒で。
 この暑い時期に重ね着と手袋なんて、随分と暑苦しい格好をする人だ。そう思いながらもチラリと顔を見上げ──何かが引っかかった。

 黒いマスクに、日も落ちた時間でも外されていないサングラスなんて、どこからどう見ても不審者な格好のことではない。細身で、爽やかなレモンの中に少しだけ香ばしい匂いがする、綺麗に伸ばされた黒い髪を持つ人。この特徴、昔に誰かが──「見せモンじゃねえぞ」──え?

「……アッくん、知り合い?」
「違ェ。けど、アンタずっと向こうの公園に居ただろ」
「ずっと?」
「オウ、オレらが二年を探してるときから、ずっと」

 ──なんだそれ。ずっと見ていたのに何もしてくれなかったのか。

 瞬時に浮かんだそんな考えは即座に振り払った。どう見てもリンチか、そうでなくても不良の喧嘩だったのだ。ずっと見ていたとしても、普通の人なら怖くて近付けないだろう。
 いや、見た目からして普通の人には見えないのだけれども。不良であっても、積極的に関わりたい場面ではなかったことも確かなのだ。

 ややあって「なんだ、バレてたんですね」と、落ち着いたアルトの声が笑う。それから、その人は躊躇なくオレたちの前にしゃがみ込んで、背負っていたらしい黒のリュックから店を広げ始めた。──何だこのマイペースな人は。

「何して……」
「生存確認がてらお節介を焼きに来たンで、その準備ですね。変なことはしませんよ」
「ど、同情なんかしてンじゃねえよ!」
「はァ? 君らに同情するくらいなら明日の飯でも考えますって」
「ンだと!?」
「飯の話したらお腹空いてきましたね……」
「……いや知らねえよ!!!」

 元気を取り戻したのか、それとも、不良として僅かに残ったプライドか。ギャンギャンキレるマコトの声も意に返さず、器用にも片手で持っていた五本のペットボトルを地面に置いて。テキパキと──どう見ても手当ての準備を進めていく姿に違和感を覚えた。
 これだけキレているマコトに臆さないくせに、あのリンチはずっと見ていただけなのか? そもそもこのとき、こんなこと・・・・・あったっけ?

「……もう一人はどこ行った」
「少し席を外しています」
「何のために?」
「お使いですね」

 マコトが吼え、アッくんが静かに睨みを効かせ、淡々と質問を重ねていく中で。困惑しながらもそんなことを考えていれば──さっきまで泣いていたはずの山岸が伏せていた顔を上げて。それから、喉の奥から絞り出した様な悲鳴を上げた。

「……おい、どうした」
「黒いマスクに黒い長髪、暗くても外さないカラーサングラスと真っ黒の服……ついでにそのスカした物腰と死体みたいな白い肌……オマケに救急セットだと……!?」
「……山岸?」
「嘘だろ……アンタまさか、左衛門三郎か!?」

 わなわなと震える山岸以外が「さえも……何? 誰?」「肌とかほぼ見えてねえだろ」「しかもなんか悪口混ざってねえか?」みたいなことを口々に言う中、オレは一人で首を傾げた。左衛門三郎──この人・・・、そんな名前だったか?

 とはいえ、作業の手を止めて山岸を見たその人が、サングラスの奥で僅かに目を細め「おお、結構ちゃんと調べているクチですね?」と言ったからには、まあ、それが名前なのだろう。
 そもそもの話、十二年前のことを事細かに覚えていられるほどに記憶力がいい方でもないのだ。所詮走馬灯だし。──そうして、いつかにどこかで聞いたかもしれない誰かのことは頭の隅に追いやられて行ったのだ。

「……あ、ちなみに、死体の肌色はこんなモンじゃないですよ。もっと蝋燭みたいな色してます」
「ヒィッ……!」
「あっはっは! 怖がらせすぎましたね。冗談です」

 それから。その左衛門三郎なる人の気の抜けた雰囲気につられて、オレ達の苛立ちや惨めさも次第に萎んで行った。怖すぎる冗談を吐いたあと、気を取り直した様子で「大人しく手当てされてください」と言ったその人から真っ先に標的にされたタクヤと、最初に軽くいなされていたマコトに至っては最早いつも通りの顔だ。
 アッくんはまだのことを警戒している様子ではあるけれど、それでも最初の様な険のある雰囲気は見当たらない。何ならアッくんは、タクヤの手当てが始まる前に「オレはいいんで、コイツらのはお願いします」と頭すら下げていた。つまりは今の時点で──とんでもない冗談を吐いた以外は──それほど害のある人だとは思えなかったのだ。

 けれど──ただ一人、彼の名前を出した山岸だけは別だった。信じられないといった様子でオレ達の名前を一人ずつ呼んで、どんどん顔色を失くしていく。

「何で、何でオマエらはそんな平然としてられるんだよ!!」
「何でって、なあ? タケミチ」
「んー……ウン。今のところは、わざわざ手当てしに来てくれた良い人じゃん? 変なことはしないって言ってたし……」

 左衛門さんの「次ー」と言った声に応じて、完全にいつもの調子に戻ったマコトに話を振られたから。それはもう素直に答えた。
 タクヤが痛がっていたら小さな謝罪の言葉も聞こえてきていたし、本当に全員分の手当てをするつもりらしいし。まだ少し監視する様に左衛門さんの背を睨み付けているアッくんが、慌てて止めに入るほどのこともしていない。手当ての手付きだって慣れているように見える。

 そもそも、今の時点で何も手を出されていないのだ。何の関係もないオレたちの手当てを、わざわざ──それも丁寧に──しに来てくれた時点で、間違いなく親切な良い人なのだろう。大人でもこんな親切な人はそうそう居ないぞ。
 いや、手当てをしてから改めてボコりたいみたいな特殊な感じの人だったら知らないけれども。

「馬ッ鹿野郎! 堕天使がそのまま良い奴なワケねーだろ!!」
「堕天使? 誰?」
「そこで呑気に手当てしてる奴がそう呼ばれてんだよ!! 治安最悪な六本木の不良の間で『不良として死にたくなけりゃ真っ先に気まぐれな堕天使に気に入られろ』って言われる奴なの!!」
「は?」

 頭を掻きむしって「オレが知ってんだぞ!? もうちょっと危機感持て!!」と発狂する山岸の声で、今まさに手当てをされている最中のマコトの肩が跳ねた。当の本人は否定もせず、平然と「動くと痛くなりますよ」なんて言ってマコトを宥めたからには──山岸が言った通り、なのだろうか。

「何だそれ。ヤベー奴ってことか?」
「そうだよアッくん! 今はンな気ィ抜けた雰囲気してっけど、実際は小5で六本木を制したバケモンだ!」
「はァ? もうソレ人外だろ」
「だから、そう言ってンだろ……!?」

 山岸曰く、どうでもいいことを駄弁る片手間に関節は尽く外されるという。関わった奴らは、口を揃えて『気に入られようにも、堕天使本人は何を考えているか分からない』と言う。何処のチームにも属していないものの、個人的に声を掛ければ集まる"眷属"と呼ばれる信者だって大勢居るらしい。
 他にも、六本木を仕切っているヤバい兄弟に一際気に入られている舎弟頭だとか、単身でどこかのチームをいくつも半殺しにしたとか。死神なんて名前で呼ばれるヤバい人ともつるんでいるらしい、とか。
 本人も相当おっかないけれど──特に、死神の単語が出たときにアッくんの表情が引き攣ったからには──本人の周りも負けず劣らずおっかないそうで。

 左衛門さんは左衛門さんで、眷属の単語が出たときに、ようやく「え、何それ知らん……」と小さく呟いたくらいだ。だから、まあ、山岸の話自体は聞いているのだろう。つまりは、引っ掛かったのであろう眷属のところ以外は間違っていない、と。

「うっかり堕天使って呼ぶと死にかけるとか、IQ200あるとか、他にも色々あんだよ!」
「エ、ソレ山岸ヤバくない……? めっちゃ連呼してんじゃん」
「オマエらのために身削ってんだよバカ!! そんな奴に目ェ付けられたら終わりだっ、て…………ア゚ッ、」
「ンフ、詳しい説明をありがとうございます」

 マコトの手当てが終わったのか、逃げ腰になっている山岸の肩に手を置いた件の堕天使は──リュックから取り出したタオルを、ペットボトルの水で濡らしながら「自己紹介しなくていいって、案外便利なときもあるンですねえ」なんて言ってカラカラと声を上げて笑っている。
 いや、本当にマイペースだなこの人。オレ達の死にそうな顔色見えてないのかな。だから『何を考えているか分からない』とか言われんのかな。

 そんな、この場にいる堕天使以外は戦々恐々としている中で。そんなに大きくはないはずの「えーっと……そろそろ喋っていいですか?」の声がやけに響いた。

「そ、そりゃもう! ずっと喋っててスミマセンっした……」
「あは! 山岸君、でしたっけ? 連呼したからってそんなに怯えなくても大丈夫ですよ。アレは説明に必要なことでしたから。流石に理由があってそう呼ぶ人を蹴り倒しませんって」
「そんな、それは……いや……スミマセンっした!!!!」
「あー……ウン、はい。謝罪は受けました。この話は終わりです」

 完全に怯えて使い物にならなくなった山岸はとりあえず放置することに決めたのだろう。若干の面倒そうな返答の後に「何から話しましょうかね」と目を伏せながらも手際良く手当てを進めていく。少し唸りながら考えている間にも一通りの手当てが終わったのか、ややあってオレの方に向き直った。また新しいタオルが出てきたからには、次はオレの番なのだろう。
 ──いや、というか、どれだけタオル持ってんだよこの人。四次元リュックなの?

「本当に手当てをしに来ただけなんですよね。山岸君の言葉を借りるとすれば、堕天使の気まぐれってやつです」
「そう……なんスね……」
「ええ。それでも急に出てきた怪しい人間から黙って手当てされるのも気味が悪いでしょう? だから自己紹介でもって、最初は思ってたンですけど……」
「……ほぼ山岸がやってたッスね」
「そうなんですよね。どうしましょう」

 想像以上に抜けた雰囲気を出されると、こちらの気まで抜けてしまう。山岸の説明だって、大袈裟じゃないのか? とすら思ってしまう始末だ。本人が否定していない以上、大袈裟でも何でもないのだろうけれども。

「……あ、IQ200は流石に嘘です。嘘すぎてびっくりしました」
「そっスか……」
「ええ。そもそも測ったことすらないですね」

 ──訂正、IQは否定された。

 それからも、本当に困り果てた様子で「何か聞きたいことあります? ただの雑談なんで情報料とか要りませんし……」なんてことを言い出す堕天使には、流石に白目を剥きかけた。今情報料って聞こえたぞ。
 いや、情報なら対価も要るのが普通なのだろうけれども。視線を彷徨わせてから「それなら……」と口を開いたアッくんが勇者に見える。本当にかっけえよアッくん。ずっと一人で相槌を打ってくれていたことも本気で助かる。

「何で、堕天使って呼ぶと死にかけるんスか?」
「アッくん!?!?」
「この死に急ぎ野郎!!!」
「いや、だって! 本人もネタにしてんだぞ!? 気になるだろフツー!!」

 ──と、まあ。話題が話題だったために、オレたちの空気は一瞬で張り詰めたのだけれども。とはいえ、当の本人は「あー……それね」と、若干居心地が悪そうに首筋を摩っているだけだった。理由だけならそれほど地雷でもない、のか?

「元々は親友と二人でふざけて言ってただけなんですよね。それが想定外に広まってしまって」
「それで……?」
「別にカッコいいと思って言ってたわけでもなかったンで、あー……その、意味もなくそう呼ばれると、どうも馬鹿にされてる感じがするんです」
「馬鹿になんてそんな……!」
「山岸君はね、分かるンですけど。不良なんて人を下に見ないとプライドも保てない奴らが大半ですから」
「……めっちゃ言うじゃないっすか」
「んふ、自分も割とそうなので。あとは普通に恥ずかしいんですよね」

 穏やかな雰囲気で結構なことを話す左衛門さんは、オレの手当てを終えて「変にイキってるみたいじゃないですか。イキってることに間違いはないですけど」と笑った。次のタオルは──出てこない。

「あ、タオルは今ので終わりなんですよ。その親友に買ってきてもらって……るンですけど……」
「……来ねえッスね」

 オレの視線の先と考えは読まれていたらしいし、アッくんに至っては普通に会話を始めてしまった。左衛門さんはそんなアッくんの頭に手を伸ばして──乱れた髪のセットを、始めた。
 小さく「何やってンだアイツ……」なんて敬語も崩れた声も聞こえてきたけれど、正直に言えばそれはオレたちの台詞だった。アンタが何やってんだ。

「……あの、」
「……すみません、手が暇で」
「そうじゃなくて……さっきの口調が素、なんスか?」
「え? ええ。敬語はただノリで始めた雰囲気作りですね」
「ノリ」
「良くないです? 見た目も含めて、情報屋っぽい胡散臭さがあって」
「そ……ッスね」

 もう何なんだこの人。ただの愉快な人じゃないか。最初にビビらせる様な情報を吐いた山岸に視線を向けても、こんな穏やかな堕天使は知らないとばかりに首を横に振られた。
 ──そうして。曰く親友が帰ってくるまでの間、オレたちは地面に座り込んで暇潰しの雑談をしていたのだ。この間、一度も殴られることはなかった。



「え、じゃあサブロー君、橘のこと知ってるんですか?」
「ええ、昔に一度会ったきりですけど。そっか……ヒナちゃん、彼氏できたんですね」
「彼氏ってそんな……へへ……」
「タケミチだけ彼女持ちなんスよ!? ズリいー……」
「あれ、そうなんですか? アッくんとか居そうですけど」
「サブロー君がまさかのアッくん呼び……!?」
「すみません。流石にここで呼ばれた名前しか知らないです」

 申し訳なさそうに眉を下げ「希望の呼び方があればそちらで呼びますが……」と言うサブロー君には少し笑ってしまった。途中で「堕天使以外なら好きに呼んでください」と言われたからには好きに呼ばせてもらっているけれど、確かに、嫌な呼び方がある人ならそんな反応にもなるだろう。
 しばらく話すうちに、存外素直に感情を出す人である印象は受けていた。けれど、ここにきてようやく、言葉にされないこの年頃の少年らしい感情が見えた気がしたのだ。

 曰くお使い・・・に出した親友を待つ間に話す中で、サブロー君はびっくりするほどにオレたちに馴染んだ。おっかない噂を知っているらしい山岸はまだ固いし、アッくんもまだ観察している様子もあるけれど、そんな二人を含めても普通に話すのだ。雰囲気作りだと言った口調をごくたまに崩しながら、コロコロと変わる話題に全部着いてくる。
 聞けば一つ年上なだけであるらしいサブロー君に、若い子のコミュニケーション能力凄いな、なんて。遠くに聞こえる爆音バイクの音を聞きつつ、走馬灯中にも関わらずそんなことを考えていれば──地面に、大きく影が落ちた。サブロー君が「随分時間かかりましたね」と小さく声を零したからには、例の親友が戻って来たらしい。

「三十分も経ってねえっつーの。パシッといて何の感想もねえワケ?」
「助かりました。ありがとうございます」
「おー」
「お使いと、他には何してたんですか? スロットにしては早いですよね」
「天津飯食って、ついでに買ったタバコ吸ってた」
「えー……良いな……」
「エ、オマエのタバコ切れてたっけ? 買ってねーわ」
「いや、今のは飯の方ですね。お腹空いた」
「さっきアイス食ったばっかじゃん?」
「それはそれ、これはこれ」

 それから、ビニール袋を受け取ったサブロー君は「ハイ確かに。ご苦労さまです」なんて言って。何事もなかったかのようにアッくんの手当てを始めた。
 曰く親友であるらしい人の「つーかもうそんな仲良くなったンだ」と驚いた様な声はフルシカトしている。親友の方もシカトされたことに何の反応も返していないからには、普段からこの調子なのだろう。会話のテンポからしても、本当に仲が良いらしいことが伺えた。

 ──そんな姿に、また山岸の喉が情けない音を立てる。ただまあ、今回ばかりは流石にその気持ちも分かってしまった。
 何せこの、サブロー君と仲良さげに軽口を叩いている親友、見るからにヤバそうなのだ。座り込んだままでは顔が見え辛いほどに背が高くて、オマケにチラッと見えた手の甲にはイカつい刺青が入っている。当然の様に煙草を吸うらしいし──コレはサブロー君もそうらしいけれど──挙句スロットまで打つらしい。幾つだよこの人。

 流石のアッくんも固まってしまった中でも、サブロー君は何ら変わった様子もなく淡々と手当てを進めている。鋼の精神でも持ってンのかな。
 その後は、心做しかさっきよりもテキパキとした手付きで手当てを終わらせ、さっきまでオレ達と話していたときと変わらない態度で「はい、終わりです。気を付けて帰ってくださいね」なんて言って腰を上げた。

 ──いや、説明なしか……!?

「あの……サブロー君、」
「あァ、数日経っても痛むようでしたら大人しく病院に行ってくださいね。内蔵イカれてたら大変ですし」
「そ、うじゃなくて……!」

 山岸が絞り出すように言った「その人まさか」の声に、今日だけで何度も聞いた小さく笑う音が聞こえた。
 次いで、手袋を付けたままの掌がこちらに向けられる。わざわざ意図を聞くまでもなく「それ以上言うな」ということだ。つまりこの人は、何を聞かれるか分かった上で一度躱していたと。

不良辞典君・・・・・の推察通りです。基本は噂そのままなので……君ら・・は関わらないことをおすすめしますよ」
「あ゙? オマエに言われたかねーよ」
「ええー……少なくとも、自分がマトモ分類の人間だと思ってるなら手の甲見直した方がいいと思いますけど?」
「スミ入ってねえってだけで大して変わんねーっつってンだワ」
「あー、うるさいうるさい。ほら、さっさと帰りますよ。せっかく仲良くなれたのに怖がらせンな」

 そう言って、サブロー君は親友の背を押して帰って行った。オレ達と『基本は噂通り』な親友・・を、極力関わらせないようにするためなのか。それとも、他に理由があるのか。

 ──コレはとんでもない走馬灯だな、なんてことを考えつつ。どうせならと、今日はそのまま帰るらしいアッくん達と別れて、一人で違う場所へと向かうことにした。オレの、最初で最後の彼女だった子の顔を見に。


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