カノジョに会いに行くと言ったタケミチと別れた少し後。残ったオレたちの会話内容は、必然的に二つに絞られた。どう考えても良い意味ではない兵隊になるらしい未来への絶望と──サブロー君についてだ。
現実逃避も兼ねたサブロー君の話ばかりになることだって仕方ないのだろう。何せ、あの人は諸々のインパクトが強すぎたのだ。
堕天使とはどんな噂がある人なのか。本人を前にしたときよりも詳しいことを話し続ける山岸の声を聞き流しながら、やはり行動通りの親切な人ではないのだろうとも思った。けれど──
「その……眷属だっけ? よく分かんねえけど、そうなるヤツらの気持ちも分かる気がするんだよな」
「アッくん今の話聞いてた?」
「いや、だってあのクソマイペースな人だぞ? 半間とは確かにめちゃくちゃ仲良さそうだったけど……東卍とは大違いっつーか……」
首を傾げつつもそう言った言葉は、誰にも否定されなかった。ただ、肯定もされていない。
不安になって「……え、オレだけ?」と聞けば、全員から返ってきたのは曖昧な笑いのみ。山岸に至っては少し引き攣っている。
「アッくんが言ってることも分からなくはないけど……」
「だろ!? タクヤならそう言ってくれると思っ」
「でも、そんな強え人が最初から見てたのに手ェ出して来なかったんだろ? 絶対何かあるって」
「それなー? 山岸が言うほど悪い人には見えねえけど、裏があるのは間違いねえよな」
口々に「実は東卍をけしかけてきたのって」とか「怖えこと言うのやめろよォ!!」とか。「もしかしてオレら堕天使に気に入られちゃったり……!?」なんてことを言ったマコトには、少し考えてから「や、ソレはねえだろ」と返した。どう考えても本人が言った通りの気まぐれだろう。
裏に関しては分からないが、それでも、あの人は全てが終わってから出てきたのだ。気に入られているのであればもっと早くに出てくるはずで。
──いや、全くもって助けて欲しかったと思っているわけではないが。少なくともオレは、ダチがボコられている場面に遭遇すれば勝算なんてモノがなくとも助けに入るのだから。そういうタイプではないのだろう、という話だ。
話している間に気に入られたというのであれば分からないが、どう見てもサブロー君はオレらの話を聞いていただけだ。かなり話し込んでいた中でも、サブロー君が自分から話してくれたのはタケミチの彼女と顔見知りだということだけだったのだ。
宣言通りにオレらから聞けばだいたい教えてくれた。けれど、本当に気に入られたのであればもっとこう、あるだろ。いざというときのために連絡先を教えてくれるとか。どうせオレらが兵隊にされる話は聞こえていたらしいのだから。
──そこまで考えて、そういえばと思い出したことがあった。時折敬語を崩して相槌を打っていた途中で、手袋越しに頭を撫でられたのだ。
サブロー君にとってはセットのついでで、本人も言っていたように手が暇だったのだろう。
けれどアレは、オレが気を張り続けていたことを見透かして、その上で安心させる手つきの様にも思えたのだ。事実、少しだけ気も緩んでしまった。
思い返せば他にも、マイペースな中でも無理に距離を詰めるようなことはしなかった。もっと言えば、キヨマサ君達にボコられていたときのことも、最初に少し言及された以上に話題には挙げてこなかった。
それら全てが、オレらを無駄に怖がらせないようにと気を回した結果にも思えて。ひとつずつ順を追って思い出す度に、どうも。
「あー……」
「アッくん?」
「いや、礼、言いそびれたなって……」
連絡先を教えてくれたわけでもないのだ。兵隊にさせられるオレらに手を貸してくれるつもりもないのだろう。つまり、どうしたって今日のことはただの気まぐれでしかない。
けれど、よく見ていなければ分からないほどに気を回されていた事実に気付いてしまって。どう見てもボコられていたオレらが落ち着けるように、穏やかに言葉を交わしてくれた。間違いなく強者であるらしい人が、オレらをそこまで丁寧に扱ってくれたのだ。そんなの、人として──
「やっぱ、かっけえンだよなぁ……」
「……アッくんマジでどうした?」
「……なあ、何か顔、赤くねえ?」
「マジか……!? 眷属爆誕とか言うなよ!?」
「はは、」
「笑ってねえで否定して!?」
「まさか半間の存在忘れたわけじゃねえだろうな!?」
「や、それは流石に覚えてる」
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