「『タケミっち、今日からオレのダチ、な!』」
「『マイキーが言うんだからそうだろ、タケミっち』」
「やべー似てる!!!!」
久々に山岸とマコトが馬鹿をやっている姿に、心の底からカラカラと笑う。
そんな、馬鹿が馬鹿をやれる状況にしてくれたタケミチに感謝と労いの声を掛けて。それから、未だ掌に残る冷たいナイフの感触を思い出し、小さく身震いをした。
タケミチは自分がボロボロになってでも抜け出そうとしたのに、オレときたらこのザマだ。今日、あの場でキヨマサ君を殺そうとしていた自分が怖くなった。
「オレさ、キヨマサ君のこと殺そうとしたんだよ」
何に対してのどんな感情かも分からずにぽつりと呟いた声は、ベンチの隣に座っていたタケミチには聞こえていたらしい。
オレがキヨマサ君を刺して、確実に殺せるかは分からない。オレが捕まって、久々に馬鹿をやっているアイツらが、同じ様に馬鹿をしていられるかも分からない。
けれど、あの日と変わらずにずっと、ボコられているオレらを遠くから眺めていただけのサブロー君を頼れるはずもなく。そんな中でオレらがあの地獄から解放されるには、"キング"を殺すこと──それしか思い浮かばなかったのだ。
今日の様に、いつかは総長がシメに来ると分かっていれば、もう少し耐えようと思えたのかもしれない。そうでなくとも、今日のタケミチみたいにすれば良かったのかもしれない。
他にも例えば、居ること自体は知っていたサブロー君に、半殺しにされる覚悟で──どうしようもなく憧れを抱いてしまった人から明確に鬱陶しがられるかもしれなくとも腹を括り、コイツらを守るためだと助けを求めれば良かったのかもしれない。
自嘲気味に「馬鹿だよなあ」と呟けば、タケミチは困った様な大人びた顔をして。それでもと強く肯定されてしまった。自覚がある分ダイレクトに心にくる。
「アッくんは馬鹿だよ」
「なんかソレ、微妙にタケミチには言われたくねえな」
「うっ……でもさ、馬鹿だよ。キヨマサ君を殺したらどうなるかも分かってて、それでも殺そうとしたんだろ」
口の中で言葉を転がすように「そうならなくて良かった」と呟いたタケミチに、やっぱコイツかっけえンだよな、と思って。反面、心の底では不甲斐なさも巣食っていた。
「でもさ、アッくんはオレらのためにそうしようと思ったんだろ」
「……まあ」
「そういうところ、かっけえと思うよ」
──タケミチからそう言われても、曖昧な笑みを返すことしかできなかった。タクヤのために、ひいてはオレらのために。体を張ってキングを堕としたタケミチのおかげで、オレは無傷で助かってしまったのだから。
いつかのように手当てもされていない痛々しい傷が残るタケミチとは違って、今日にできた傷はひとつもなく。憧れてしまった人に、目立って鬱陶しがられることもなかった。番を張っているくせに情けな──いや、待て。
「そういえば何で、あそこに居たんだ……?」
何でサブロー君はあの場で、最初に顔を合わせた翌日からずっと張っていたのか。情報を掴むことは、まあ、不可能ではないのだろう。情報屋であるらしいし。
それでも曰く、とんでもなく強い堕天使であれば。潰そうと思えば潰せただろうに、特に手を出してくることもなかった。
ならば、何のために情報を掴んで、眷属に任せずに自分で張っていたのか。
遠目では何かを食べているようにも見えたサブロー君は、どこか、何かを待っているようにも見えた。何を待っていたのかとは、喧嘩賭博の終わりか──もしかして、マイキー君だったりするのだろうか。
思わず零れた呟きを耳ざとく拾って「誰のこと?」と首を傾げたタケミチを見て、少し考えて。小さく笑って「何でもねえよ」とだけ返すことにした。
タケミチはオレ達を、文字通り体を張って守ってくれたのだ。言いそびれていたいつかの礼を言いに行くことだって、あの人を敵に回すかもしれなくなることだって。その役割はオレ一人で十分だろう。
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