──2005年8月2日
「……サブロー、さん?」
午前十時を少し過ぎた頃、渋谷駅前。つまりはエマとヒナちゃんとの待ち合わせ場所にて。普段は滅多にしない綺麗めなスタイルで、その辺の手すりに腰掛けてぼんやりとしていると、微妙に自信なさげなヒナちゃんの声が聞こえた。
「いかにも、サブローです」
「良かった合ってた! あ、お待たせしました!」
「今来たばかりですし、エマもまだなんで大丈夫ですよ」
ニコニコと「そんな感じの格好もするんですね! かっこいいです!」なんてことを言われたので、間違っても適当に聞こえない様に相槌を打って。「今日のヒナちゃんも可愛いですね」みたいなことを言っていれば──渋谷駅前に「は!?!?」との叫び声が聞こえた。無論、先んじて少し遅れる旨の連絡が入っていたエマである。
「エマ、声がデカい」
「本当にサブロー!?」
「聞いてないですねコレ……」
「もうただのイケメンじゃん!!」
「それはどうも」
「いつもの不審者感どこ行ったの!?」
「……エマも来たことですし、そろそろ行きましょうか」
あまり駅前で騒ぐのもなと、二人を促して元々行く予定だったマルキューまでをゆっくりと歩く。途中で「何でまたその系統……」とか「普段からその格好してたら良いのに。マスクと眼鏡も外してさ」みたいなことを言うエマを、微妙に答えになっていない「流石に通報されたくなかったンで」なんて言葉で躱していると、エマの向こうから控えめな笑い声が聞こえた。
「エマちゃんと幼馴染って本当だったんですね」
「おや、見て分かるモンですか?」
「仲良いんだなってことはよく分かります」
「なるほど、何よりです」
その後は、友達と、数度会っただけの不審者の中にポンと放り込まれてしまったヒナちゃんも交えて談笑しつつ、二人から都度求められる意見に返しながらも店を見て回って。途中にはオシャレなカフェでお茶もした。
丁度よく人目に付き辛い奥の席に通されたから、これ幸いとマスクを外し、心置きなくお茶会を楽しんだというわけだ。美味しかった。
お茶会の途中で普段との服装の違いについて聞かれたときには、普段舎兄語りをするときの二割もないくらいのテンションで「普段は兄貴の真似してるンですよ」なんてことを話した。
にこにこと楽しそうなヒナちゃんから「お兄さん達と仲良いんですね」と言われて、即座に入ったエマからの「アニキって多分そういう意味じゃないと思うよ」なんて訂正に、マスクも外してケーキを頬張る口元で苦笑いをして──そのまま、楽しいお買い物を終えたのだ。
カフェでサラッと伝票を取ればかなり止められたが──「楽しかったので奢らせてください」の一言で、二人には大人しく引き下がってもらえたのだ。半日でかなり慣れたらしいヒナちゃんにはそれなりに恐縮されながら、だったのだけれども。
「ただいまー」
「おー……アレ、髪切るのやめたん?」
「や、明日切るよ」
「綺麗に伸ばしてんのになァ……もったいねー……」
リビングで寛いでいた寝起きらしい長兄にうりうりと頭を撫で回されつつ「でも多分、ショートもすげえ似合うンだろうな」なんて。総じて口下手にしては珍しくストレートな褒め言葉を聞けば──そりゃあ、嬉しくもなるというもので。
若干上がったテンションもそのままに「ついでに一発顔面殴ってくれない?」と言えば、によによと穏やかに相好を崩していた様子から一転、微妙そうな顔をされてしまった。
「昨日竜胆が言ってたのってコレ?」
「多分? 歯と骨が飛ばない程度に思いっ切りよろしく」
「無茶言うなー?」
「あ、
「クソッ、忘れてなかったか……!! つーか朝メシ作ってのノリで言うことじゃねえ……!!」
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