それは、ドラケン君とタケミチを追ってきた愛美愛主の奴らに、本格的にボコられそうになっていたとき。背後でカンッ、と軽い音がして、咄嗟に頭を低くした。
直後に襲った肩を踏み抜かれる感覚に顔を上げれば──愛美愛主相手に綺麗な空中回し蹴りをキメる、頼もしい背中が見えたのだ。どうも、オレの肩は踏み台にされたらしい。
「はァ!? 何で左衛門さんが東卍の肩を持つンだよ!!」
「あ? どこかでお会いしましたっけ?」
「覚えてねえのかよ!? つーか服見りゃ分かんだろ!?」
「あーあーうるっせえなァ。元気なのは喉だけかー?」
後ろから見るその頭に覚えはなくとも、喧嘩の仕方は知らずとも。時折聞こえる
呆然と呟いた「サブロー君?」なんて音は、歩くことすらスニーカーとは勝手が違う下駄で、追っ手の愛美愛主を
普段の丁寧な口調を崩して、手に嵌めた下駄で愛美愛主の顔面を容赦なくボコっていく。これが堕天使の喧嘩かと、少しだけ引いてしまったことはもう仕方がなかったのだ。オレが送るメールに、十回に一回の頻度で気の抜けた返信をくれる
それでいて、思い出したように「あ、アッくん」なんて言う声はオレが知るサブロー君そのままだった。本当に、この人はそういうところがある。
「サブロー君、来てくれたんスね」
「ええ。別にアッくんのためじゃないですけど」
「……ツンデレってヤツっすか?」
「はは! ちょっと申し訳ないンですけど、本当に違います」
「ま、ソレは流石に冗談ッスよ。けどツンデレって皆そう言いますよね」
「それは……まァ、そうですね」
そんな気の抜けた会話の最中で、とうとう一言も発せなくなった愛美愛主から退いて。ケロッとした雰囲気で「エマ……あー、龍宮寺ってどこ行きました?」なんて言うサブロー君は、やはりオレらを助けに来てくれたワケではなかったらしい。いや、分かってはいたけれども。
山岸の情けない声を背後に聞きながらも「あっちです」とドラケン君が連れられた方を指させば、不意に頭の上に手が乗った。
サブロー君は変わらず無言のままだから、その意図は分からない。それでも、セットを崩さないように細心の注意が払われていることは分かるから。だからこそむず痒いものがある。この人は本当に──。
「教えてくれてありがとうございます。対価は何が良いですか?」
「……も、充分貰ってるんで……大丈夫ッス」
「……????」
サブロー君は大量の疑問符を飛ばしている様子で首を傾げて、少ししてから「そうですか」と頷いた。納得したわけではなく、そもそもの興味がなさそうな顔だ。
「じゃ、皆さん気を付けて帰ってくださいね」
「ア、ッス!」
「ははっ、元気のいいお返事をありがとうございます山岸君」
「いや……いえ、そんな!」
今度こそ本当に手を振って走って行ったサブロー君を見送って。それから、手の感覚を思い出してズルズルとしゃがみ込んだ。顔が熱い。大した興味もなさそうなオレに対してもああいう態度を取るのだ。勘弁してくれ。
「……アッくんドンマイ」
「本当にな……」
「いやー……アレはコロッと落ちる気持ちも分かるワ」
「だろ!?!? あの人マジでああいうとこあんだよ!!」
「イケイケのホストって感じするよなー。何か金髪になってたし?」
「なー? マジでビビった。前より堕天使っぽさ増してね?」
「急に金髪にして似合うってやべーよな……セットさせてくれ……」
「アッくん壊れた?」
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