二人でひとつ、二人しかいない。オレらの世界にはお互い以外には要らない──そう思っていたオレら兄弟に、腹違いながらもかなり濃く血の繋がった妹が居るらしい。当時から仕事にかまかけて滅多に家に居なかったおふくろからそう聞いたのは、もう随分と昔のことだ。
仄暗い目をして「いつか
それだって、下手をしたらオレの歳が片手で数えられる頃のことで。少なくとも、ここ数年は家に寄ることすらなくなったほぼ他人の様な人間が、一応のところは帰ってきていたときのことだった。
だから、というか──正直、今の今まで忘れていた。
いつもの様に兄ちゃんと街を歩いていると、薄暗い路地裏から低い呻き声が聞こえてきた。喧嘩でもしているのかと覗いてみれば──フラフラと頼りなさげに揺れる小さな頭が、明らかにソイツよりもデカい不良をボコっていたのだ。しかもゴミ箱の蓋で、容赦なく。
楽しそうに「死屍累々じゃん」と笑った兄ちゃんの声で周りを見たら、汚い路地に倒れ伏す不良が5、6人居て。まさかこのチビに全員殺られたのかと驚いたことだって、何ら不思議な感情ではなかった。
薄ら寒さを覚える程にがらんどうな瞳をこちらに向け、オレらを認識した途端に気の抜けた顔になったチビに少し──いや、かなり引いて。次いで、そのチビから聞こえてきた名前に目を見張った。何せそれが、自分の嫁が基本的に家に帰らないのをいいことに遊び回っている男の名前だったから。
そんなオレらの反応を見ていたのだろう。珍しい、けれどもおふくろから聞いたことはある姓を名乗ったそのチビは、自分のことを、いつかに聞いたオレらの妹だと言ったのだ。
見ての通りある程度なら喧嘩ができる、オレらが嫌じゃなければ飯も作る、掃除も頑張る。最初以外はみすぼらしいナリに合わず、見た目の歳にそぐわない微妙な気遣いを含めたアピールポイントで「拾え」と言った生意気なチビが、かつてキラッキラの目をしておふくろの話を聞いていた兄ちゃんの興味を引かないわけがなかった。
そもそもの話、少し話しただけにも関わらずツッコミたいところが多すぎるのだ。最初のアピールポイントだって、『見ての通り』ならある程度とは言わない。
多分、どうも知っていたらしいオレらを基準にした謙遜なのだろうけれども。それでも一瞬、分かり辛い嫌味かとすら思ったものだ。
明らかにソイツの物ではなさそうな分厚い財布から、よりにもよってクソ親父の身分証を出したことだってわけがわからなかった。名前が出たクソ親父と関わりがあるというよりも、その辺でスってきたと言われた方がまだマシだ。結局は機嫌の良いときの兄ちゃんとそっくりな圧でゴリ押しされてしまったし。
何だコイツと思った素直な感想は、やけに楽し気な兄ちゃんに家まで抱えて連れ帰られてからもさして変わらなかった。何せオレらの家を見て、機嫌が悪いときの兄ちゃんにそっくりな舌打ちをひとつしてから──そのまま爆睡したのだ。マジで何だコイツ。
そもそもどんな危機感してンだよ。兄ちゃんが家まで連れて帰ったからって、オレら一応会って20分しか経ってねえンだけど? 寝てる間に何かされるとか思わないワケ?
──いや、思わねえから寝たんだろうな。マジでどっからその自信が湧くんだよ。兄妹の前に初対面だろうが。
「なあ兄ちゃん、マジで拾うの?」
「まァなー……ようやく来てくれたオレらの妹だし? しかも何か頑張ってくれるらしいじゃん。
「……それは、そうだけど。自己申告を信用すんのかよ」
「ン……ま、飽きたら捨てりゃ良いだろ」
「そうだけどさあ……」
口ではそんな冷たいことを言いつつ、次第に生返事になってきた兄ちゃんには何を言っても無駄なんだろうな、とは思ったものの。一応聞いてみれば、緩んだ顔をそのままに「やっぱおふくろから聞いてた通り、竜胆の小さかった頃にそっくりだなァ」なんて言って笑った。おまけに腕の中ですやすや寝こけるチビの頬を突いている。ホラ、もう既にオレの話を聞いていない。
オレはおふくろからオレに似ているなんて話は聞いたことがないし、そもそもこのガリガリのチビはそれほどオレに似ているわけでもない。どちらかといえば似ているのは兄ちゃんの方だとすら思うレベルだ。
肝の座り方とか、喧嘩の仕方とか、ふとしたときの圧とか、舌打ちとか。コイツも絶対寝起き悪いだろ。そう思ってしまうことも仕方ないくらいにはよく似ていた。今から既に明日の朝が怖い。
「む゙」
「お、顰めっ面になった」
「……嫌がられてんじゃん」
「いや、マジで柔けえの。脂肪付いてない割に良い店の求肥みてえ」
小さく「皮が薄いんかな」と言ったその一瞬だけ微妙な顔になった兄ちゃんから「竜胆も触ってみろよ」と言われて。渋々摘んだ頬はすべすべとしていて、確かに、脂肪が少ないくせに柔らかかった。なるほど、これは癖になる。兄ちゃん程は嫌がられなかったことを幸いとし、ひたすら無心でもちもちとした感触を堪能することにした。
何かを考えれば兄ちゃんと同じく、身なりや皮膚の薄さからなんとなく察せられる背後関係で自滅しそうだったこともある。あのクソ親父、オレらだけじゃなくてコイツも放置してたのかよ、みたいなアレだ。
しかも、オレらみたいに兄弟が居るワケでもなさそうな奴を。いつか絶対殺してやるからな。おふくろよりも長い間顔を見ていない男に、心の中でそう呪詛を飛ばした。
──と、まァ。実を言えばこの時点では既に、昔に抱いた嫉妬心なんかどうでも良くなってしまっていたことは確かだった。
オレらとは間違いなく初対面であるにも関わらず、兄ちゃんの腕の中で酷く安心した顔でスコンと寝た様子を見て。促されるまま小さくて柔らかい頬の触れた手に、少しでも力を入れれば頭蓋ごと粉々に砕けてしまいそうな弱さを見て。こんな奴に嫉妬するだけ無駄なのだと、心のどこかではそう理解したから。
まァ、放っておいたら死にそうなチビの姿に、とっくに絆されていたとも言えた。明確に大嫌いなクソ野郎が撒いた種で、今となってはうっすら嫌いな女が、臆面もなく『迎え入れたい』と言った奴であるにも関わらず、だ。
その後は適当に風呂に入れて、兄ちゃんと揃って顔を顰めながらも、風呂で見つけた夥しい量の生傷の手当てをして。手当ての後から余計に構うようになった、既に捨てる気もなさそうな兄ちゃんと、相変わらず寝たままでも全力で嫌がるチビのツーショを付けた『何かチビ来た』の写メを、昔は今よりも嫌いではなかったはずの人に送って。
どうせいつもみたいに無視されるンだろうなとは思いつつ、そのまま三人で寝たのだ。
翌朝、天然の湯たんぽを抱えたままに爆睡していたオレらの腕からするりと抜け出した気配で目を覚ました。小さな舌打ちで完全に目が覚めた気もするが、流石に寝起きから暴れ出すようなじゃじゃ馬ではないらしい。
未だ若干眠い目をこすりながらも追いかけた先は、バーカウンターの奥──つまりはキッチンだった。
欠伸を噛み殺しながらもカウンターに凭れ、そこそこに広いキッチンの真ん中にポツンと立ち尽くす小さな背中をじっと眺める。勝手にキッチンに入った割に、勝手に漁ることは遠慮している様な。まだよく分からないなりに、実はそこまで兄ちゃんに似ているわけではないのだろうかとすら思う。
いや、昨日とさっきの舌打ちは兄ちゃんそのままだったな。暴れなかったのは偉いけど、そもそも寝起き早々舌打ちをかますんじゃねえ。
そうして。しばらく誰も、一言も喋らない空間を割いたのは「灰谷竜胆、サン」なんて、取ってつけた様な敬称でオレを呼んだチビの言葉だった。確かに昨日、兄ちゃんから勝手に呼び方を固定されそうになったときは微妙な気分にもなりはしたが。だからってフルネームは勘弁してくれ。一方的に知られているだけの不良じゃねえンだから。
「フルネームはやめろ。何?」
「ン……何かある?」
「すぐ食べたいならそこの引き出し。お湯注ぐだけの汁」
「『汁』って……まァいいか、この味噌汁貰っていい?」
「いーよ。冷蔵庫も好きに開けて」
「どうも」
昨日の晩の時点で既に絆されているとはいえ、オレはまだコイツを妹にするとは認めていない。ただ、オレが認めていなかったとしても、兄ちゃんが気に入っている以上、放っておいて餓死させるわけにはいかなかった。
何せ、放っておいたら本当に餓死しかねない細さなのだ。──ああクソ、昨日の風呂で見たほぼ骨と皮だけの身体と生傷を思い出したらまた殺意が湧いてきた。
クソ親父への殺意を押し殺しながらも「大したモン入ってないけどな」と言った通り、何日か前にトマト鍋がしたくて買った食材の残りと、ついでに買ったプリンしか入っていない冷蔵庫をしばらく眺めて。その年頃の女にしては落ち着いた煩くもない声で「流石にこのプリン食ったら追い出されるよな」と呟いた後で、残っていたミニトマトと勝手に沸かした湯を入れた味噌汁を錬成したのだ。
その後は、余程物珍しかったのか脚の高いカウンターチェアに座ろうとしている後ろ姿をしばらく眺めた。あまりにも苦労している様子だったから、わざわざ持ち上げてまでカウンターチェアに乗せてやったのだ。
想像以上に軽く持ち上げられたことは気にしてはいけない。これからゆっくり太らせれば良い。それはそれ、カウンターチェアに座っただけで瞳を輝かせているコイツをここまで軽くさせたクソ親父はいつか絶対に殺すが。おふくろの方だって、コイツの状況を知らなかったとしても半殺しくらいにはしたい気分だ。『迎え入れたい』とか言ってたくせに。
「沁みる……」
「ふはっ、二日酔いかよ」
「なのかな」
「……エッ!?!?」
「エ、いや……流石に冗談……」
「あー……ね。謎にビビったじゃん……」
変な冗談を間に受けてしまって、微妙に居た堪れない空気の中で。バーカウンターに向かったチビが飲んでいるのは、やはりただのミニトマトを入れただけの即席味噌汁だった。
それを飲みつつ、抑揚のない声で適当なことを喋っている割に、少し痩けたその顔はほけほけと緩んでいる。──いや、マジで美味そうに飲むな? そんなに腹が減っていたのか、見た目通りにまともな食事を摂っていなかったのか。それとももしかして、本当に美味いのか。
少しだけ気になって同じものを作ってみれば、いつもとは違った味の味噌汁が秒でなくなった。なるほど、不味くはない。別にそれ程美味くもないが、寝起きで水を飲むことすら忘れていた体には沁みる味だ。
「竜、胆サンもお腹すいてた?」
「寝起きだしな……つか普通に食えるなこれ」
「舌肥えてる人からしたらそこまでだろ。トマトも煮てあったら別だろうけど」
「あー……まァ。つーかそれは絶対美味い。卵も落としたら最高」
「それなら味噌じゃなくて中華スープでもいいな……」
「それもう別の料理じゃん。絶対美味いけど。どうせならわかめも入れようぜ」
「ふふ、そりゃ良い」
それからしばらく、料理の話で変な気まずさもなくなって。チビから聞かれたおふくろのことを端折りながら話して、オレからは今までどう生きていたのかを聞き出して。
結構な皮肉が時折混ざる、歳の割に豊富な語彙がすらすらと出てきていたよく回る口が、自分の話になった途端に重くなったことには首を傾げたものの。途中から明らかに表情が曇った辺り、あまり思い出したいことでもないのだろう。
でもまァ──チビに限って言えばそれもそうか。コレは自分の母親が殺された話なんてさせたオレが悪い。
いや、まさかそんな爆弾が出てくるとは思っていなかったンだけれども。どちらにせよ、こんな
居心地の悪さを誤魔化す様に親父のクソ加減に舌を打った流れで「フルネームやめてくれたのは良いけどさあ、『竜胆サン』なんて他人行儀な呼び方もやめろよ」なんて言っていれば、頭の重みと共に視界が狭くなる。どうやら兄ちゃんが起きてきたらしい。
「……なに、オマエらもう仲良しになったの?」
「おはようございます蘭サン」
「おー……挨拶できて偉いなァ……つーか昨日蘭ちゃん♡ って呼べっつったろ」
「蘭ちゃんに関しては言われてないですね」
「……そうだっけ?」
──確かに言っていない。言っていないが、しかし。寝起きのぼんやりとした声で「おチビ、やっぱクソ生意気だな……」なんて言った兄ちゃんには、正直肝を冷やした。
まさか「生意気すぎるしやっぱ出てけ」とか言うんじゃないだろうな。オレとしては兄ちゃんが起きてくる前に話していた中で、このチビをここに置いてもいいと思えるくらいには天秤が傾いているのに。
いやでも。昔におふくろから聞かされた『妹』の話に、兄ちゃんはオレよりも興味を示していたはずだ。昨日だって『やっと来てくれた』とか言っていた気がする。今更追い出しはしないと信じたい。
だとしても寝起きで機嫌も最悪な兄ちゃんならば、余計に何を言い出すかは分かったものではなくて。昨日は飽きたら捨てるみたいなことも言っていたのだ。──ああクソ、どう説得すればいい。
「……そんな顔すんなよ竜胆」
「やば、顔に出てた?」
「もうバッチリ。下二人がマジで仲良くなってるみたいで兄ちゃんは嬉しいなあ」
「竜胆サンと仲良く……?」
「ブッ……! くく、マジか竜胆、オマエ振られてんぞ」
「やっぱコイツ嫌い!!」
説得の二文字を頭からスッ飛ばしてそう言っても、既に追い出す気はないらしい兄ちゃんには何を言っても無駄なわけで。
まァでも、オレだって今更捨ててこいとか言われてもイヤだし。それ以上に何かを言うつもりはなかった。
その後も、オレらの間に無理に入ろうとすることもなく。そのくせ、どこか遠慮がちに後ろを着いてくる。しばらくすれば、少しだけ恥ずかしそうにオレを「兄貴」と呼んで、オレの真似をしたのか、兄ちゃんのことを「兄ちゃん」と呼んだ。
──これを可愛いと思わずにいられるだろうか。当然、兄ちゃんと二人して撃沈した。妹ってこんなにマブいモンなの? 蓮だけ? やっぱオレらの妹は最高だな。
あとは、流石に火を使わせるのは怖いとして飯だけはさせていなかった中で、こっそりと危なげなく料理をしている姿を見て。蓮の分であったらしいその料理を強奪したら、普通に旨くて驚いたりだとか。オレがやっていたトレーニングを見よう見まねでやろうとしていたから、怪我をしないようにと色々教え込んだりとか。それはもう全力で可愛がった。
と、まァ、実際は『着いてくる』どころではなく構い倒していたわけだが。初日と二日目の朝に感じた可哀想さも薄れた可愛い妹を、
そんな中で──多少は肉付きの良くなった姿で「不良としてのアイコンに目立つ格好を考えてほしい」と相談されたことには流石にビビったけれども。「できるだけ顔バレはしたくない」とか「誤魔化せるところは誤魔化したい」みたいな変な注文は多かったものの、当然、途中で兄ちゃんとの喧嘩も交えながら考えたわけだ。
何せ最初の申告通りにやらせていた掃除の、そのかなりの範囲を一人でそつなくこなしてしまう器用な妹が──飯も作ってと言えば、文句も言わずに一人でサクッと作ってしまうような妹が。珍しくもオレらを頼ってきたのだ。考えない選択肢なんかあるはずもない。ようやく自分から頼ってくれたことの方が嬉しかったのだから。
喧嘩と言えども「誤魔化したいつってんだからマスクと眼鏡は必須だろー?」とか「はァ!? こんなマブいのに隠させんの!?」とか「人類の損失には違いねえけどさあー」みたいなアレだ。今思い出してみても中身がアホすぎるし、これまた珍しくダルそうな顔をオレらを向ける蓮を見て、兄ちゃんと揃って萎えた程度のものだったが。
ただまァ、最終的にはいい感じに纏まって、完成形を見た蓮も嬉しそうにしていたからにはどうでもいいことで。分かりやすく頬が緩んでいたし、余程気に入ってくれたらしい。
そうしてしばらく。オレらの可愛い妹は六本木の不良の間で知らない人は居ないと言えるまでになっていた。
拾った数日後には戸籍に入っていた灰谷の名を何故か使わず、自分のトレーニングがてら教え込んだら、オレらに見劣りしない程になってしまった純粋な喧嘩の強さ
とっくに蓮を内に入れていたオレと兄ちゃんがノリノリで決めたスタイルを元に、外では開き直った口調に変えた──多少胡散臭くも便利な情報屋として名を上げていた。
何がどうしてそうなったとは思えど、蓮も、蓮を見る兄ちゃんも楽しそうだったから。もうそれでいいかとも思えてしまう。何せ、いつまで経っても何を考えているか分からない兄ちゃんも、何を考えているのかがどんどん分かり辛くなる蓮も、揃って分かりやすく楽しんでいたのだ。十分だろう。
──誰が蓮を戸籍に入れたか、なんて。入れられる人は一人しか思い浮かばなかった。オレらは放置のくせに蓮のことは気に掛けるんだなと思わなくはなかったが、蓮が名実ともにオレらの妹になったのだ。想像していたよりもずっと気にならなかった。何せほとんど他人みたいな女と可愛い妹だ。妹に比重が傾くのは当然だろう。
確かに兄ちゃんの言った通り、きちんと栄養を取って成長した顔のつくりはオレに似ている気もしないでもない。強いて言えば、顔のつくりはオレ、パーツと雰囲気は兄ちゃんだろうか。目の色だってよく見ればオレらと同じだったし、
──いや、中身も年々兄ちゃんに似てきている気もするのだが。それでも、それが妹である以上、可愛いことに変わりはない。我ながら兄バカで間違いなかった。
昔から微妙に興味はあったと知られるのが嫌で本人には言っていないことではあるが、元々存在だけは聞かされていたのだ。いけ好かない奴なら、合わない奴なら妹にはしなかった。少しでも本気で癇に障ったら追い出すつもりでもいた。
けれど、可愛いだけでなく、中々にイイ性格をしていると分かってしまったら。しかもそれが、兄ちゃんだけではなくオレとも合うと分かってしまったら。そう簡単に手放すわけにもいかなかったのだ。
オレらの生き方を無駄に否定しないのも、オレらに似ている顔も。会話から滲む頭の回転の早さも、かと思えば実は結構な脳筋なところも。外で喋るときは敬語のくせに、喧嘩のスイッチが入ると普段よりも口が悪くなることも。
最初のアピールポイントに違わない様にしようとしてか、実はそれほど好きではなさそうな料理の腕までもをどんどん磨いて行ったいじらしさも。その割に口を開けばクソ生意気なところだって、どこを取っても可愛い自慢の妹だ。
そろそろオレらの間に入ってきても良いものを、ときたま明確に存在する線引きに気付いてしまうところは寂しいものがある。
──別に、だから拗ねていた、というわけでもないが。狂極を殺しに行くときにわざわざ連れて行く様な真似はしなかったし、兄ちゃんと揃って捕まるときも蓮を連れて行こうとは思わなかった。
何せ、オレらの可愛い妹が塀の中にブチ込まれることに、
アイツは外でのびのびと喧嘩でもなんでもしててくれ。死ななきゃそれでいいから。
「……アイツ、怒るかな」
「あー……嫌いくらいは言われるかもな……」
「何ッでそういうこと言うんだよ兄ちゃん……!」
兄ちゃんと揃ってブチ込まれたネンショーの中で、ふと零した言葉にそう返されて頭を抱えた。辛い、辛すぎる。うっかり想像してしまっただけでここまで辛いのだ。実際に言われたらうっかりそのまま首でも吊りかねない。
何てことを言うのかと恨めしげに兄ちゃんを見ると、兄ちゃんも兄ちゃんで胸の辺りを押さえて呻いていて。どうやらうっかり想像して、うっかり死にかけているのは同じらしい。
「いや、兄貴も自爆してんじゃん」
「そりゃするって。しかも最初に怒るとか言ったのは竜胆だろ……」
「そうだけどさあ……」
──なんか、急に冷静になった気がするな。
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