龍宮寺は死ななかった。けれどまた──また、圭介が死んだ。
とうに着慣れてしまった芭流覇羅の特服を身に纏い、まとまらない頭でどうしてを考えたところで、どうしたって私がしくじったからに他ならないのだ。今回は半間からの足止めはなかったが、圭介が刺されるときにたまたま私が自由に動けなくて、たまたま助けに入れなかった。
間違っても、大事なときでさえタイムリープ中には見えなかったタケミチ君のせいでもない。強いて言えば──神様は稀咲に微笑んだ、ただそれだけの話だ。
いつかの記憶の通りに、馬乗りになった一虎を殴り殺すマイキーを見て。あーあ、なんて、一周回って凪いでしまう内心に、感情と切り離して事実を把握できることも考えものだな、みたいなどうでもいいことを考える。間違いなく現実逃避でしかなかった。
誰も彼もが異様な空気を纏うマイキーを止められない。いつかの通りであれば警察が来て、マイキーの意識が一虎から逸れたときに、稀咲がマイキーを逃がそうと動くのだろう。これ以上思考を回したくないと叫ぶ頭で、ぼんやりとそう考えていれば──本当にその通りになった。
東卍がマイキーを引き摺って逃げる折、すれ違った稀咲から、小さな声で「収めておけ」なんて指示が飛んで来た。
そう──そうだよな。私をそれなりに従順で便利な
ソレが一番効率が良いから。私であれば丸投げしてもなんとかできると思っているから。コレはもう、この立場に甘んじた私のせいだ。
頭では、私までマイキーの様にはなるなと理性が叫ぶ。発狂すらさせてくれない頭でそんなことを考えていれば、少し高い位置から「……左衛門?」と呼ばれた気がした。
緩慢な動作で顔を上げれば、何やら険しい顔をした半間と、そんな半間にビビり散らかしている丁二君と濱田君がこちらに視線を向けていて。そういえばと、後始末を任されたことを思い出したのだ。周囲を見渡したとて、長い間ぼんやりとしていたのか、廃車場に残る人はもうほとんど居なかった。
「……とりあえず、半間と丁二君はあそこで見ている灰谷兄弟を抑えておいてください」
「は? 何で」
「あー……ウン、気が向いたら説明してやるよ」
「……おい、ちょっと待て左衛門。オマエ何するつもりだ」
「怠ィなァ……ゴタゴタ言ってねえで早く行けって。稀咲から始末を任されたのは
敬語も説明も他の何もかもを消し飛ばし、中々動こうとしない半間の尻を蹴り飛ばす。普段の
ゆっくりとひとつ息を吐き、手袋を外しながらも少し歩いて、もう息もしていない圭介を静かに見つめる。それから、その腹に刺さっていたナイフを素手で抜いた。
やはり、というか。靴に染み込むまだ生暖かい血液に湧いたどうしようもない感情を抑えるために、一度強く目を瞑る。こんなにも温かさは残っているのに、間違いなく心臓は止まって、なおかつかなりの時間が経っているのだ。ロウソクの様に青白い肌も、何も映さないがらんどうな瞳も。いっそ慣れてしまえばどれほど良かったか。
──そんなとき、背後で「オレは?」と怪訝な声を聞いた。一度首をコキリと鳴らして思考を呼び戻す。
待ちぼうけを食らわせてしまっていた濱田君の耳元に口を寄せ「濱田君は半間を抑えておいてください」なんて言えば、私の様子をずっと見ていた故に、半間には濁した意図を正しく察してしまったのか「おい」とか「嘘だろ」みたいな音も聞こえてきた。残念ながら嘘ではない。
「稀咲から全てを任せられたのは
「マジで考え直せってサブロー君」
「あ゙ー……さっさと行けよ怠ィな……」
これまた半間と同じ様に濱田君の尻を蹴り飛ばしつつも、ほとんど人の消えた観客席を見渡した。
未だに残っている兄はわけの分からない顔をして、同じくわけも分かっていない顔をした二人の相手をしている。他に残っているのは肝の据わった巴琉兵梦の面々のみで。ならば丁度いいと、証言者になってもらうことにした。
「巴琉兵梦総長代理!」
「……エ、私!? はい!」
「人が来たらこう話せ! 場地圭介を殺した羽宮一虎は、発狂した
「はあ!? ちょっと蓮ちゃん、何言って、」
「最期のお願いくらいさ、聞いてよ」
意識して「ね?」と少し甘い声を出せば、クラスメイトはぐっと唇を噛み下を向いた。私の宣言を聞いて喧嘩の手も止まる四人にも、ついでとばかりに「そういうことだ!」なんて声を張る。濱田君は、まァ、半間を抑えることもせず、その後ろで足が止まってしまっていたが。何にせよ、意図を察した彼らが廃車の上から降りてくるよりも──私が手元のナイフで首を掻っ切る方が早かったのだ。
首元から噴水の様に血が吹き出して、そのまま地面へと倒れ込む。受け身を放棄したからか、後頭部をコンクリートの地面に強かに打ち付けた。次第に瞼が重くなって、目を開けていられなくなった。それでも耳は音を拾うのだ。鬱陶しいことこの上ない。
廃車から駆け下りてきた半間の「テメェ何やってンだクソサブロー!」なんて怒号も、ひたすらに私の名前を呼ぶ兄達の声も聞こえる。男の声しか聞こえないからには──まァ、しつこい勧誘を続けていたクラスメイトは、今回ばかりは私の意思を尊重してくれるらしい。
──不意に、誰かの冷えた手が首元を強く押さえる感触がした。この大きさは半間か
とはいえ、今更一人死にかけているだけで何をそこまで焦る必要があるのかとも思ってしまった。その程度の圧迫では止血にはならないのに。ついでに言えば、圭介や一虎が殺されたときは全員黙って見ていたはずなのに。
散漫な思考の中でも思わず笑ってしまえば、間近で「何、笑ってンだよ……」なんて揺れた声が聞こえる。今の声は半間に聞こえた気もするが、きっと、気のせいだろう。
半間の人生は、稀咲が居れば鮮やかに色付くのだ。最期までその灰色の世界を理解してあげられなかった私が居なくたって。何とでもなるはずだ。
──さて、今までとは違って、握手なんて平和的な手段を知ってしまった今。果たして私は、また戻ることができるのだろうか。
何にせよ、正直に言ってしまえば。
「も、やりたくねえなァ……」
左衛門三郎
どうしようもなかった少しのきっかけのせいで、回した手が全部最悪な道を行ってバッキバキに心が折れた。ので、この√ではタイムリープしない(ご都合ry)。
半間修二
一瞬引っ掛かったものの、判断を誤る奴ではないとの信頼から言われるがままにマブの指示に従った。その結果目の前でマブが死んだ。止血もできなかった。
稀咲鉄太
"友人"に全幅の信頼を置いて詳しくやり方を指定しなかったばっかりに、想定外にも自分を犠牲に場を収めてしまったことを後から知る。
灰谷兄弟
よく分からんままに芭流覇羅勢の相手をしていたら、マイキーの罪を被る宣言をした妹が目の前で自殺した。
巴琉兵梦総長代理
約束は守ったよ。来世でも
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