49.ベストフレンド・フォーエバー

「で?」
「今日絡んで来た人、稀咲の駒です」

 奥まった場所にある事務所 兼 喫煙所にて。百円ライターでカチリと火を付けた煙草に口を付け、少ししてからゆっくりと息を吐く。いつの間にか人が寄り付かなくなったここは、内緒話をするのにもってこいな場所だった。
 少しだけ固まった後、同じ様にゆっくりと煙を吐いて。「とうとうバレたン?」なんて笑う半間に向けて、緩く頭を振る。この場合、探られていたのは私ではないだろう。

「半間ですよ。変な動きするから」
「……オレ? 何かしたっけ?」
「女子校以外はほとんど住宅街か女子ウケする店しかない場所……ンなところにお前が来るのは変な動きで間違いないだろ」
「ばはっ♡ オレだってパンケーキとかメチャクチャ好きかもじゃん?」
「へえ、好きなン?」
「や? 別に。今日のところはウマかったけどな」

 ──元より、顔を見たときから稀咲の知り合いであることには気が付いていた。気が付いてはいたが、こんなに早く手を打てるか? とも思っていたのだ。
 それでも、半間と一度駅で別れ、六本木の自室で着替えをしている最中に稀咲から届いたメールで、彼らが稀咲の指示で動いていたことが確定した。そこには、要約すれば「半間ってヨメとか居たりするか?」みたいな感じのことが、困惑を多分に含んだ文章で綴られていて。

 文面から察するに、半間が言うことを聞かなくなるかもしれない邪魔・・な存在があれば、自発的に報告させるようにしていたのかもしれない。元より稀咲は、自分の駒をより扱いやすくするために弱みを握りたいタイプだ。どうせ今回もその類いだろう。どうでも良いが。
 しっかり報告されてンじゃねえかとか、私だと思わなかったンだ? とか。色々言いたいことはあったが、とりあえずは「知りませんよそんなこと」とだけ返しておいたのだ。本当にヨメが居たところで好きにしろ案件ではあるが、知らないモノは知らないから。

「稀咲からメールも来たンですけど、半間がヨメにかまかけて、大事な計画が失敗することを懸念されているみたいですよ」

 フゥ、と薄い煙を吐いてそう言えば──当の本人は大きく噎せこんだ。私も兄達から半間との関係を邪推されている以上、その気持ちはよく分かる。内輪での諸々を分かりきった上でのおふざけならばともかく、身内から本気で・・・そう扱われることは耐えられないのだ。

「ゲホッ……なァ、そのヨメ・・ってまさか、」
「名前はさえ・・、淑やかで品の良い、名門女子校の制服を着た、控えめで可憐な少女……だそうです。稀咲が言うには」
「オ゙ェー……」
「吐くならテメェで掃除しろよ」
「相変わらず辛辣過ぎねえ?」

 苛立たしげに煙草を押し潰して。それから聞こえてきた「コレの何処が『淑やかで』『控えめで可憐』なん?」とのド正論は聞き流しておいた。
 品が良いには引っかからなかったンだ──とは、わざわざ突く藪ではない。制服を着ているからとして、全力でサンカヨー式の上品な振る舞いをしていた自覚はある。そのときに吸えなかった煙草を、今存分に吸っているとしても、だ。

「まァ、そういうことです。聞かれたら否定しておいてくださいね。面倒くさいので」
「ったりめーだろ……」

 ──それから数分後。表のフロアに戻った半間が一虎を筆頭にした芭流覇羅構成員から質問攻めを喰らい、ものすごく嫌そうな顔で「アイツとはそんなんじゃねえ」と言っている姿を目撃した。これはまた随分と、奥歯にモノが挟まった言い方だな。

「サブロー知ってる?」
「知りませんね。興味がなくて聞いてないもので」
「そんなモン?」
「そんなモンです」


top小説top