60.覚悟を決めたのは後悔の後

 ──2000年某日

 『一人一人がみんなの為に命を張れる』──そんなチームが作りたいのだと、場地は言った。黒龍に絡まれていたオレの為に、周りを巻き込んだのだ。

 それでも、チームを組んだ理由がオレの為だけ・・ではないことはすぐに分かった。巻き込んだ東卍の仲間は当然としても、チームに居ない他の誰かとかでもなくて。どこか自分の為でもありそうな。上手く言えないけれど、そんな感じの。

 それがどうしても気になったから、次の日に会ったときに本人に聞いてみた。それはもう、しつこく。
 最初は場地も誤魔化していたけれど、オレのしつこさに負けたのか「やっぱ一虎には言うべきだよな……」と話してくれたのだ。オレに負けないくらいにしつこく「絶ッッ対に誰にも言うなよ」と念を押されたから、当然「誰にも言わない」と約束した。

「……オマエと会う前にさあ、つるんでた奴が居たんだワ」
「『居た』?」
「そ、居た・・。ソイツ親父が居なくてオフクロと二人だったんだけど、何か急に消えちまって」
「はァ? 何だそれ」

 普通に引越したのだとしたら、つるんでいた場地には言ってから行くはずだ。まさか──死んだのか。そう思って聞いてみても、返ってきたのは「分かんねえ」の一言のみだった。
 聞けば、ソイツが消えた翌日に母親が自宅で死んでいるのを見つけたらしい。つまり死んでいたのは母親だけだから、ソイツ自体は生きているのかも死んでいるのかも『分かんねえ』と。

 ゆっくりと時間をかけて状況を咀嚼して──思わず「連絡とかはねえの? 仲良かったんだろ?」なんて詰め寄ってしまったものの。苦い顔をした場地は「なーんにも」と気の抜けた声しか出さなかった。
 ずっと仲が良かったことに間違いはないけれど、場地の家の前で『またな』と手を振って、それっきり。居なくなってからはソイツが死ぬ悪夢だって何度も見る割に、本人からは連絡のひとつもないらしい。周りの大人に聞いても収穫はなかったと。それはこの顔にもなるか。

「オレさ、今でもすげえ後悔してんだよ。何で消える前に話聞いてやれなかったんだって」

 拳を固く握り締めて「何で、助けてやれなかったんだって」と後悔を吐いたその声は酷く苦しそうで。オレまで苦しい気持ちになって、同時に納得もした。誰だってそんな思いは二度もしたくないだろうから。生きているとしても、もう死んでいたとしても。ここまで大事にしていたらしい奴が手が届かない場所に行ってしまうとか、想像もしたくない。
 だからチームを組んだのはオレのためで、他の仲間のためで──自分が二度とそんな思いをしないため。言外にそう言った場地になるほど、と合点がいく。これは確かに自分場地のためだ。

 本当に誰にも言っていなかったらしい秘密後悔を、オレだけに教えてくれたことが嬉しくて。教えてくれてありがとうとは思っても、恥ずかしいから口には出してやらなかった。
 ぽかぽかした心地を誤魔化す様に肩を組めば、話し始める前にも何度も聞いた「マジで絶対誰にも言うなよ!!」なんて言葉が至近距離から聞こえてくる。ンな何回も言わなくても良いって。誰にも言うわけねえじゃん。

 ふと気になって「どんなヤツだったの?」と聞けば、少しだけ押し黙ってから「変なヤツだった」とだけ返された。なるほど──全然分かんねえな。
 その後も「もっとあるだろ」なんてしつこく聞いていれば、嫌そうな顔をしながらも濁流みたいに話し出した。嫌なのか話したいのかどっちだよ。しかも別にそこまでしろとは言ってねえだろ。

 場地が言うに、素だと足癖も口も悪くて、気が強くて負けず嫌い。飽きっぽくて頑固で、そのくせ寂しがりだった。たまの機嫌が悪いときは死ぬほど怖えけど、基本は人に興味がないこともあって、誰にでも優しかった。
 進んで嘘を吐くワケではないけれど、本当のことも聞くまでは言わず。突っ込んで聞けば普通に教えてくれることでも、自分から言う言葉は圧倒的に足りない。勘違いされていたとしても、重要なところ以外は基本的に放置していたと。──なるほど、コレは確かに変なヤツとも言いたくなるか。二面性どころの話ではないぞ。

 あとは、場地よりも背は高かった割に力はそれほどなかったとか、それでも頭が良かったからか喧嘩は上手いとか。二人で作戦を練ってマイキーに喧嘩を売ったり、場地のテストの点数を見て渋い顔をしたり。そのときに九九は半分覚えればそれで良いなんてことを言われたとか、頭の良さを投げ捨てると、途端にそれまでの全部を投げ捨てて、幼馴染の誰よりも脳筋なバカになるとか。
 他には、誰よりもずっと先を行ける頭がある癖に、行き過ぎたときには、わざわざ戻って来て手を引いてくれたとか。場地が突っ走ったときも、歩調を合わせて隣を走ってくれたとか。あとは──少しだけ眠そうな、夜明けの空みたいな目が綺麗だったとか、色々。

 そんなことを語る場地の目は、思わず半身を引きそうになるくらい熱っぽくて。しかもやたら詳しく語られた後半に関しては完全に惚気のそれだ。ソイツのこと絶対好きだっただろ、と思ってしまうことだって仕方なかったのだ。
 だいたい、何で名前すら知らないやつの目だけ教え込まれたんだよ。ここまで来たら名前も教えろ──そうは言ったけれど、名前だけは教えるつもりがないらしい。そこまで行くと怖えよ。どんな独占欲だ。

 ふと、そういえば性別も聞いてないなと思って。「女?」と聞いてみれば、視線をウロウロとさせた後に小さく頷いたのが辛うじて読み取れた。ずっと場地は女っ気がないと思っていたけれど、心に決めた奴が居るならそれもそうなのだろうとも思える。今更他の女に目移りなんかしないと、つまりそういうことだ。
 いや──つか急に声小っせえな。何なら間違いなく女であるソイツ相手に普通に殴り合いをしていたらしいことだって今となってはどうでもいい。女で喧嘩するのがソイツだけってことなら、なんかこう、トクベツって感じもするし。

「何、ヨメなの? しかもオレと会う前ってことは……もしかして初恋?」
「は!? ち、違えよ!!」
「エ、急に声デカ。ガチじゃん」
「違えって言ってんだろ!!」
「はいはい、違えんだな。分かった分かった」
「絶対分かってねえ! オイ! 目逸らすな一虎ァ!!!!」

 少なくとも場地よりは分かってるつもりだよ、とは流石に口には出せなかった。言い訳がましく「何ならしばらくは姉貴だと思ってたし」なんて言う場地が、自分がどんな顔をして喋っているのかも分かっていなさそうなところが面白すぎたから、それどころではなくなったともいう。
 だからこそ、あと一押しを聞いてやろうと思ったのだ。もちろん──単純な好奇心もあった。

 ニヤッと笑って「ソイツ、可愛かった?」と聞くと、途端に顔を真っ赤にさせる。ああ、ハイ。聞かなきゃよかったかな。耳──どころか首まで真っ赤なのに、本人はコレに気付いてねえのが既に面白い。場地自身は間違いなく硬派なクセに、どれだけ余裕ねえンだよ。

「かわっ……テメェ一虎ァ!! 何言ってんだ急に!!」
「はいはいヨメヨメ。しかも連絡ねえってことは場地の片想い? ウワー……叶わねえタイプの王道初恋かよ甘酸っぺ……」
「うるせえって!!!!!」
「いや、今一番うるせえのオマエな!?!?」

 姉貴だと思ってた奴が実はそうじゃなくて意識したとかそういうやつ? 今どき漫画でもないだろ、そんなベタなシチュエーション、なんて。そう思ったことは秘密だ。


top小説top