63.相棒による相棒のための不良講義

 仕切り役を引き受けてくれたらしいICBM──正確なチーム名は池袋クリミナルブラックメンバーズ、というらしい──の総長の他、この場には東京のそれぞれの不良界隈を仕切っているらしい顔ぶれが揃っていた。

「あっちですげえ食ってる奴が上野のガリ男。鬼みてえに強いらしい」
「鬼……」
「あっちで怖ェ顔して芭流覇羅の方睨んでんのが六本木の灰谷兄弟、なんだけど……今日何か、すげえ機嫌悪そうだな……」

 不良情勢なんてものが全然分からないオレに解説してくれている千冬の声の先を見て、一瞬目を疑った。思わず漏れてしまった「灰谷って……」なんて呟きには「あれ、知ってたか?」と聞かれたので、とりあえず「名前だけ」なんて言って、曖昧に頷いておく。
 遠目で見えた灰谷兄弟なる人達はサブロー君とよく似た顔立ちの様に見えた気もするけれど、少なくとも今言うべきではないと思ったから。サブロー君の本名なんて、結局のところ旧姓と下の名前しか知らないのであるし。ウン。未来に戻ったときにでもナオトに確認すれば良い。

「アイツらはチームじゃねえけど、ひと声かければ百人以上は集まるカリスマだ。この前の……あー、サブローって奴がすげえ気に入られてる舎弟頭だって話だけど……芭流覇羅に居るってことは喧嘩でもしてんのかな」
「喧嘩……」
「で、向こうに一人でいる女は巴琉兵梦ってレディースの……アレは総長代理の三条だな。巴琉兵梦自体がレディース連合を仕切ってるチームで、数はそこまで多くねえけど全員がそこそこ強えらしい」
「……何でレディースが、」
「さあ? 芭流覇羅しか見てねえし、向こうに気になる男でも居るんじゃねーの?」

 それだけで来るかな……という疑問は、未来でサブロー君のことを証言したくれた人の存在を思い出して即座に解消された。そっか、あの人お医者さんになるんだ。
 そんなほのぼのとした感情の裏で、彼女が医者になった理由が、目の前で首を掻っ切って死んだサブロー君に囚われていたからかもしれないと思い至って目眩がする。熱狂的なシンパだったらしいし、その理由で進路を決めることだって普通に有り得るのだ。
 とはいえ、そんな悲しい未来の決め方なんてあってはいけない。だからこそ、サブロー君にも、ひいては場地君にも生きていてもらわなければ。

 そうして、やはり誰も死なせてはいけないと決意を固めているうちに──「主役共の登場だァ!!」──抗争の火蓋は切って落とされたのだ。


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