71:迷子達の幸福論

 ベランダの高い柵に上半身をもたれさせ、今にも泣き出してしまいそうな声色で「大事なものを増やしたくない」みたいなことをボヤいて。挙句、そんな自分が大嫌いだとも言いた気に目を伏せる。
 その様子から見るに──見た目からは分かり辛くとも、相当酔っていることに変わりはないらしい。普段の飄々とした様子からは想像もできない程に負の感情が分かりやすくて、普段の気の強さが微塵も感じられない程に揺れた声だったことも、そう感じた理由のひとつだ。

 ──が、酔っていると判断した理由がそれだけではないこともまた事実だった。

 灰谷の舎弟になった経緯をやたら饒舌に話しているときは、本当に憧れているのだと、ひいては大好きなのだと言わんばかりに熱の篭った目をしていた。にも関わらず、苗字についてのカマを掛けてからは急に温度をなくした表情になったのだ。

 普段は頑なに隠していた顔を諦めた様に月明かりの下に晒し、普段は腰の低さで分かり辛くしている気位の高さを、吹っ切れた様に全面に出して。
 これが堕天使なんて名前で呼ばれるコイツの素なのであれば、いっそあの熱く語られた憧れさえも嘘だったのではないかとすら思えてしまう。

 そもそもだ。敢えて兄貴の存在を消した名前を名乗っている割に、わざわざその兄貴を舎兄としていることだって意味が分からない。
 ただの損得勘定にしては情を感じる態度であるし、そこに兄弟の絆があるのだとすれば──あまりにも他人の様な振る舞いをしている、様に見える。それも、オレがコイツと初めて顔を合わせたときからずっとだ。

 何処かに明確な線引きがあることは確かだろう。だからこそ、窓の向こうに置いてきた灰谷二人は他人の枠から出していない、と。

 見せられたものはちぐはぐだとしか言い様がない。一貫した考えはなさそうな割に、コイツの中では筋が通っていそうな。そんな気味の悪さがあった。
 総合して考えると、今聞いたばかりの憧れもそっくりそのまま全てがその通りだというワケでもなさそうで。余計に気味が悪いなと思った。もし仮にそうであるならば、どうして、あれほどまでに熱を込めて騙ることができたのか。

 ついでに言えば、親も居ないコイツは。間違いなく血縁のある兄貴のことすらも他人だと言い切ってしまうコイツは──一体誰を『大事な人』の枠に入れて、どうして生きていられるのかとも思ってしまった。
 いつもより口も軽くなって、冷え切った中にも迷子のガキみたいな表情を見せるソイツに「オマエ、何で生きてンだ」と聞いてしまったのは完全に無意識だったのだ。

「……エ、遠回しに死ねって言われました? 今すぐここから飛び降りれば良いですか? 任せてください。こう見えて飛び降りは十八番なンですよ」
「はァ? ンなわけねえだろ。……オイ、待て。マジで柵に登ろうとすんじゃねえ」
「ええー……?」

 そんな、少なくともいつもよりは頭が回っていないらしいコイツには、明確に言葉にしなければ伝わらないかもしれないと思って。わざわざ「使える奴にンなこと言うわけねえだろ」なんて言葉を付け足した。
 ──が、しかし。どう返してくるかと待っていた反応は期待通りのものではなく。ベランダにしっかりと足を着けたソイツから返ってきたのは、これ以上に冷めることのないとさえ思っていたモノよりも、数倍冷たくなった視線だったのだ。

「……何だその目」
「いや? たかが稀咲の代わりに随分な高評価だなと思いまして」
「は? 稀咲……?」

 すっかりいつもの調子に戻って笑ったサブロー・・・・には「オマエも知り合いなのか」と聞くことしかできなくて。その前に否定すべきだったことすら消し飛んでしまったことにも、一瞬気付けなかった。

「知り合いも何も……これは"灰谷兄弟"も知っていることですが、元々左衛門三郎は稀咲の忠実な犬ですので。まァ、今は軽く喧嘩中ですけど」
「犬……?」
「ええ、求められるままに情報を集め、動き、必要とあらばご主人がした粗相の始末・・・・・も辞さない有能な犬です」
「……だからオレのことも知ってたってか」
「そういうことですね」

 次いで、ひとつ首を傾げて「アレ? サブローのことも稀咲から聞いたのでは?」なんて。やけに軽い調子で紫煙と共に吐き出された言葉には多少面食らったものの、どうにか否定した。何処からそんな話になったのか。

「エ、違うんですか?」
「違えよ。サブロー・・・・のことを聞いたのはオマエの兄貴から。絶対にオレが気に入る奴が居るってな」
「あー……そういやそんなこと言ってたっけか……」

 記憶を探るように視線を動かし、少しだけ気まずそうに首の後ろを爪で引っ掻いて。それから、わざとらしく腰を折り──その実、どうでもいいことかの様に「気に入っていただけているようで何よりです」なんて言葉を吐き出した。

 上体を起こし戻して新しい煙草に火を付けたソイツは、自分の話をしているときよりも幾分か温度のある雰囲気にも思える。結構な言い様だった割に稀咲のことは嫌いではないのだろうか。──まァ、多少の温度があったところで迷子のガキみたいな様子は変わらないが。

 不意に、オレがベランダに向かう途中で、わざわざ「あんま虐めてやんないでね」と釘を刺してきた蘭の顔を思い出した。竜胆の話をしているときと同じ様な顔でそう言われたが、その中にも何処か、竜胆とは違う何かを理解した上で諦めている様な雰囲気だってあったのだ。
 諦め悪くも目の前でグラスを煽るが言った通りであるならば、蘭が諦めている『何か』とはつまり──サブローとの温度差だろうか。温度差を理解した上でなお諦められるのは、そこに血縁という揺るぎない繋がりがあるがためか。それとも。

 ──まァ、とにかく。間違いなく血が繋がっているはずの兄弟も上手くいかないモンなのか、みたいな。酒と煙草と、世辞を抜きにしても美味かった温かな手料理のおかげで、いつもより温まった頭でそんなことを考えて。根元まで火種の来た煙草を押し消しているときに、そういえばと否定し忘れていたことを思い出した。

「そうそう、オレがオマエを天竺に誘ったのは稀咲の代わりなんかじゃねえよ」
「へえ?」
「そもそも、稀咲から犬の話なんてひとつも聞いてねえ」
「えー……それはそれで悲しいですね」

 実際に顔を合わせてみて、小さく「今度こそ眼鏡叩き割りに行っても許されっかな」なんてことをボヤくコイツ自身が、間違いなく使えると思った。だからわざわざ結成メンバーとして迎え入れたのだ。

 そもそもがと良好な関係を築けなければ成り立たない情報屋だからか、人のことをよく見ていて、欲しいところで欲しい手を出してくる。基本的には、他人が望む言葉を吐くことも上手い奴だとも思う。
 要所で遠慮が消し飛ぶこともままあるが、オレが踏み越えてほしくないラインは絶対に越えて来ない。今日だってオレの許容範囲内をギリギリで攻めているのだ。生意気だなとは思っても、ソレがそのまま不快感に繋がるワケでもない。

 あとは当然、喧嘩の腕も極悪キワめ具合も噂以上のモノで。頭だって回るクセに──いや、これは頭が回るからこその自己評価の低さか。普段から慢心していてくれたらいっそ扱いやすくなるのに。

 想像以上に面倒でイカれた奴を国民にしてしまったかとは多少後悔しても、使えると知っている今であれば。正しく、王国に迎え入れるべき一人ぼっちであると知った今であれば──その後悔だって、あってないようなものだ。

 だからこそ、その面倒さを垣間見た今。やはり何を軸とし、どうして生きていられるのかが気になった。

「オマエ、やっぱ何で生きてられんの」
「……あは♡ ソレ忘れてなかったんですね」
「当たり前だろ」

 視線を星も見えない空に移し、黙り込んでしまったサブローに、素直に話す気はあるのか。それとも、どうはぐらかそうかを考えているのか。どちらにしてもこれは長くなると思って。
 無言で煙草の箱に伸ばした手は、サングラスの奥で細められた──蘭によく似た目元に一瞥されたとて、ついぞ止められることはなかった。やはり、よく見ている。つーか笑い方蘭と似すぎだろ。

「皆さん良くしてくれているおかげで天竺も楽しいですし、これからもっと楽しくなりそうだから、です」
「そういうこと聞いてンじゃねえよ。オマエ分かっててはぐらかしただろ」
「ダッル……あー、大事な人が生きている以上死ぬ必要がないから、ですかね」

 明らかに面倒そうな顔をして、明らかに取り繕っていない態度で。「もういいです?」と煙草を押し消したソイツは、やはり、これまで想像していた以上にイカれた人間であることに間違いないだろう。
 元々、灰谷兄弟の舎弟を長くやっている奴がマトモであるわけがないとは思っていた。それでもコレは、流石に想像以上なのだ。

 前半はともかくとしても──『大事な人が生きている以上』ということはつまり、その大事な人が死ねば生きる必要がないと言っているのと同義だ。
 既に死んでいるらしい実の両親ではなく、間違いなく血の繋がりもあるアイツら灰谷兄弟でもなく。だとしたら他で、それほど『大事』になりそうなモノといえば──。

 少なからず酒の回った頭でその言葉の意味をゆっくりと咀嚼して、その後で変な笑いがこみ上げてくることだって仕方がなかったのだ。

「ふ、はは! なるほど、『大事な人』な。そりゃ他人じゃねえわな」
「……急に魔王の笑い方するのやめてくれません? 笑いすぎて過呼吸起こしそうなときの兄ちゃんと揃って夢に出そう」
「……どっち?」
「……すみません、蘭の方です」
「アイツと一緒にすんな。つーかこれは笑うだろ」

 口では「だァから嫌なんですよ……」と言っているものの。新しい煙草に火を付けた辺り、話を無理にでも切り上げる気はないのだろう。嫌なら切り上げる仕草でも見せれば良いのに。
 ──まァ、ハナから切り上げさせる気はないが。それはそれ、これはこれだ。こんな面白い話をみすみす終わらせるつもりもない。元々それほど人に興味がなさそうな奴から飛び出してくるモノであれば、それは尚更だった。

「ア……なあ」
「まだ何か」
「もしその大事な奴に天竺オレが手出したら、サブロー・・・・はどうすんの?」

 ひとしきり笑い終えたあと、ふと思い浮かんだことが口をつく。一瞬、ピタリと動きを止めた時点で答えは分かっていた。それでも天竺に忠誠を誓うと誤魔化すか、この場で殺されることを覚悟で正直に言うか。
 なんとなく誤魔化されるのだろうなと思い、それとなく片脚に重心を移動して、懲りずに紫煙を吸い込む様子をしばらく眺める。ここで誤魔化されたら、二度と誤魔化そうなんて思えなくして──。

「……そもそも手は出させないので。裏切り云々は気にされなくて大丈夫です」
「へえ? 随分な自信じゃん」
「ええ、まァ」

 なるほど、そもそも手を出される前に回避する、と。つまりそういうことか。

 頭が回る奴は一を聞いて十を知ってしまうから厄介で、だからこそ良い・・のだ。重心を体の中心に戻しつつ、コレは確かに稀咲も隠したがるか、みたいなことを考えて。

 それから、ネンショーの中で灰谷兄弟から話を聞くもっと前に薄らと聞いていた、シンイチローが惚れていたらしい女が大切にしていたガキの話を思い出した。
 周りより頭一つ抜けるタッパと賢さがあったソイツは、大層生意気なじゃじゃ馬だったらしい。惚れた女に振り向いてもらうためには、そのガキから仲良くなる必要がある、とかなんとか。
 あのときは興味がなくて流し聞いていた話ではあるが──ガキの名前くらい、聞いておけば良かったか。

 脳内でそう思考を飛ばしていれば、目だけは向けていた口元から、輪の煙がポッと吐き出された。
 次いで「間違いなくそうできる自信があるので」なんて笑った顔は──なるほど。これは確かに、堕とされた天使だとも言いたくなる程に清々しくネジをブッ飛ばした顔だった。血縁があるとはいえ、蘭と竜胆があれほど気に入るのにも頷ける。

「まだ殺る気があるのでしたら表の公園でもどうです? アルコールとニコチンで諸々を吹き飛ばした今でしたら、そこそこ気持ち良く堕天できると思いますよ」
「……マジでよく見てンな」
「おや、体重移動の把握は喧嘩の基本ですよ」

 つまりは──いつでも蹴りを繰り出せる様に重心を片脚に移動させたことにも、途中で戻したことにも気付かれていたと。本当によく見ていて、その意図まで正しく察した上で見ない振りをしていたのだ。相変わらずイイ根性をしている。
 オレの行動を見逃していたつもりであろうことが可笑しくなって。「オマエ、やっぱアイツらそっくりだよ」なんて言って、喉の奥で少しだけ笑う。

 ──それだって、何かを考える様な間の後で「まァ、かなり濃く・・・・・血が繋がっているのはその通りですし」との言葉が飛んできたからには霧散した感情ではあるのだが。

「……それはオレへの嫌味?」
「ええ、なので少しお付き合いいただければ」

 珍しく明確に地雷を踏み抜いてきた今の余計な一言は、やはり意図して煽られていたらしい。 つまりは『かなり濃く血が繋がっている』から、お互いへ向ける感情に温度差があっても愛されていると思えることができる、とでも言いたいのか。
 諦めたところで、濃い血縁故に捨てられないと理解しているから?

 そこまで考えた刹那、ご丁寧にも処刑台にして欲しいとして指定された公園に向かおうと、一旦部屋に飛び込んで行って。そんなオレらを見て血相を変えた幹部共に揃って抑え込まれた。
 そのまま床で急に寝落ちしたサブローを見て吹き出してしまう程には、まァ、オレも酒が回っていたのだ。

「虐めんなって言ったじゃん大将!!」
「……エ、何話してたん?」





「はは、秒で寝てンじゃねーよ。灰谷・・

 笑うついでの、ちょっとした悪戯のつもりで。もっと言えば、完全に乗り気だった喧嘩をすっぽかされたことへのちょっとした腹いせのつもりで──少し前に聞いたばかりの苗字を口に出した。

「イザナ? 灰谷はどっちも……」

 未だにオレを抑え込む鶴蝶からは頭の心配をしている様な声が飛ぶ。その下で力を抜いたままに笑っていれば──モッチーが「あ? ちょっと待て」なんて声を出した。

「なァ、アレってそういうことか?」
「アレ……? あ〜……竜胆、ちょっと聞いていい?」
「…………なんスか獅音センパイ」
「うわっ、すっげえ嫌そう」
「気のせいじゃねーッスかね」
「もうそれでいいワ……つーか、ソイツサブローの下の名前って、何だっけ」

 ──サブローの下の名前? どうもサブローではないらしいその名は聞いた覚えもない。ないが、どこか拗ねた顔をして、小さく「本人に聞いて」と返す竜胆を始めとして、明らかにオレ以外は全員知っていそうな反応だった。
 確かに蘭と竜胆は知っていて当然ではあるが、しかし。オレだけが知らないなんて面白くない。

「蘭」
「なーに大将」
「ソイツ、叩き起こせ」
「……りんどーやってよ。オレまだ嫌われたくねえし」
「オレだってまだ死にたくねえんだけど……」

 有無を言わせず「どーぞ」とサブローを押さえつけていた体を退かした蘭に、これまた本当に嫌そうな顔を向けて。覚悟を決めたのか、スゥ、と息を吸った竜胆は──気持ち良さげにすやすやと眠るその脇腹を、思いっきり蹴り飛ばした。
 いや、その起こし方は流石に嫌われても文句言えねえだろ。

「あ゙ー……?」
「……サブロー、起きた?」
「ン……」
「……オハヨウ」
「はよぉ……」

 蹴り飛ばされた場所でむくりと上体を起こして、グッと背中を伸ばし。明らかに寝起きな据わった目で、やけに腰が引けている竜胆をじっと見つめて──それから、サングラスを外して、近くにあった棚の上に置いた。存外丁寧な手付きに見えたのは、サングラスが余程大切なモノだからなのだろうか。

「兄貴ぃ」
「…………おう」
「ブッ殺す」
「うわうわうわうわ、来ンな来ンな!!! 兄ちゃん助けて!!!!」
「ちょ、こっち来ンな竜胆!!!!」
「兄ちゃんがやれっつったンじゃん!!!!」
「言い方!!!!!」

 秒で跳んで戻ってきたサブローの綺麗な蹴りが竜胆の脇腹に直撃したのを見て、ブッ飛ばされた竜胆が蘭を巻き込んで倒れ込んだのを見て。ソレでようやく、だから蹴り飛ばしてまで物理的な距離を取りたかったのかと理解した。コイツ、寝起きの機嫌がネンショー時代に見た蘭とそっくりだ。
 ──でもまァ、ソレはオレには向かないだろうし。万が一オレに向いたとて脅威ではないし。特にどこにも問題はない。

 そうして。竜胆を蹴り飛ばしてスッキリした雰囲気のサブローに声をかければ──案の定とも言うべきか、いつもの平坦な声で「おや、何でしょうイザナ君」と落ち着いて返された。立ち直りは蘭よりも早いらしい。

「自己紹介しろ」
「……エ、今更?」
「顔全部出してフルネーム」
「あ゙ー……そういう?」

 嫌そうに頭をガリガリと掻いて、「じゃあもうアレも良いか」と呟いて。それから、脇腹を押さえて呻いている竜胆に向け「兄貴、スカートってどこにしまってあったっけ」と声を掛けた。──待て、聞き間違いか?

「……スカート?」
「ええ、スカート……アレ、そこまで開示しなくて良かった感じですか?」
「オマエの女装癖とかどうでもいい」
「別にそういうことじゃ……」

 少しの間首を傾げ、ハッとした様に「そうじゃん……!!」と頭を抱えたサブローは──一度舌を打ち、そのまま、洗面所の方にフラフラと消えていった。小さく「水飲んで顔洗ってきます」との言葉を残して。

 それからしばらく経ったあとで。マスクを剥ぎ取り、下ろした髪を緩く整えて、宣言通りにスカートまで履いて。微妙な空気のリビングに現れたは背筋を伸ばし、開き直った様に──とろりと、蠱惑的に笑った。

「灰谷蓮、そこで伸びている彼らのです。扱いと呼び方は変えなくて大丈夫ですけど、私を女と見た勇気のある殿方から何か・・をされたら普通に返り討ちにするので、よろしくお願いします」

 そうして、タワーマンションの一室が阿鼻叫喚の地獄絵図と化したことは言うまでもないだろう。

「あ、面倒なので一応他言無用で。他言したら全力タイマンに付き合ってもらいます」
「いやそれほぼサンドバッグ宣言だから!」
「……? しゃす!」
「他にもっと言うことあンだろ! この用件人間がよ……!!」

「マブい天使からサブローの声が聞こえる……蘭、悪ィけど水貰えるか? だいぶ酔いが回ってるらしい」
「酔った末の幻聴でも幻覚でもねえよ。つーか見る目あンじゃん? モッチーにウチの妹はやらねえけど」
「獅音センパイの方がよっぽど現実見えてンな……」
「……鶴蝶と大将生きてるー? ……ダメだ、どっちも息してねえワ」

「兄貴ー、私もう寝て良いー?」
「待て、待て待て待て!!! そんな格好でここで寝るな部屋行け!!!! 頼むから兄ちゃんの言うこと聞いて!!!!!」
「蓮ー、寝るならせめて化粧落とせー?」

 ──どうも、想像以上に諸々を隠されていたらしい。
 あまりにもカオスな状況がおかしすぎて──つまりは笑いが止まらないせいで息ができない中で。どうにか酸素を求めつつ、そんなことを考えた。


top小説top