79:我が道を行くとてマブはマブ

「何か食べたいものとかあるんです?」
「アー……鳥食いてえかも」
「なら確か上に焼き鳥屋が……は? 待て、鳥の話したから?」
「そゆこと♡」

 やけにあっさりカラオケルームを出てきた半間と並び立ち、部屋の外に控えていた黒龍を通り過ぎて。半間の希望通りの鳥が食べられる一番近い店として、カラオケが入るビルの上階にある焼き鳥屋へと入る。昼時も過ぎた頃だからか客も少なく、注文が出てくるのも早かった。

「そういやさァ」
「ン」
「ポム〇樹食ったンっていつ?」
「ン……?」

 ねぎまを食べ終わり、軟骨も食べ終わって。口に入っていたぼんじりを飲み込んで、もも塩に手を伸ばしつつ「何で?」と首を傾げた。

「や、フツーに食ってるから」
「食い意地とか食欲の話してます?」
「半分正解♡ そっちは食えてンならいーよ」
「ハッ、親かよ」
「こんなデケえガキ産んだ覚えはねえな」
「しかも産む側の自認……?」

 砂肝をつまみながら、それっきり黙々と食べ進める半間をぼんやりと眺める。『半分正解』と言ったからには、半分は不正解だということになるのだが。──コイツ、ももタレしか食べてないな。

「……食べたのはさっきですね」
「具体的には?」
「昼過ぎに……九井と合流する前?」
「ア、やっぱり?」
「何が?」
「や、オマエ人と飯食えたっけって思って」
「今食べてるだろ……」

 とはいえ、そういうことが言いたいのではないのだろうな、ということはなんとなく分かった。今のは万年ぼっち飯云々の煽りではなく『九井の前で顔を晒したのか』という確認だろう。

 いくら化粧をしていないとはいえ、私の顔面自体は半間も認める天使面だ。とうに性別云々を誤魔化す必要のない半間の前以外では煙草を吸うことすら控えているのに、人──この場合は九井──には顔を晒せるのか。敢えて邪推をするならば、九井は知っている側なのか、という確認も含まれているのかもしれない。
 まァ、だとしても。半間も一応聞いただけという空気感であったし。『九井と一緒に食べたわけではない』みたいなことを言った以上、それ以上は言う必要性を感じなかったために普通に流したが。

「……え、だからわざわざ連れ出したんですか? その確認のために?」
「や、流石にソレはついで。昼食い忘れてたンも急に腹減ってきたのもマジ」
「そ」
「つーか全部違うの食うじゃん。制覇する気か?」
「流石にそこまでは食べるつもりないけど……むしろももタレばっかで飽きないの」
「飽きねえなァ」

 ダラダラと適当な話をしながら追加注文も含めて一通り食べ終わり、会計をして。結局ももタレばかりをひたすら食べていたな、なんてことを思いつつも「びっくりした……何かあンのかと思った……」と言えば、窓から外を見ていた半間は「ま、ねえこともねえけどな」と呟いた。

「何です?」
「今はいーよ」
「ハ?」
「つーかさァ、マジで兄貴と仲直りしたんだな」
「露骨に話変えたな」
「分かってンなら乗れよー?」
「はいはい」

 面と向かって要求されたからには、それ以上突っ込んで聞く気もない。話題変更に乗って「半間には分かりますか」と笑えば、無言のままにトン、と半間自身の鼻根を軽く指で叩いて示される。つまり、兄貴とお揃いの形に戻したフレームで察したのだろう。
 我ながら分かりやすくしている自覚もあるが、キッチリ気付いてくる辺りは流石のマブだと言う他ないだろう。半間は案外、人のことをよく見ている。

「で? 今どこに居ンの?」
「内緒♡」
「ひゃは♡ 久々に会ったのにつれねえなァ?」
「気になるなら探ってみては?」
「や、そこまでの興味はねえ」
「でしょうね。……でもまァ、そのうち稀咲連れて来てくださいね。楽しいところなんで」
「……噛んでるとこ?」
「ですね。明確に聞かされたわけではありませんが、おそらくは」

 脚を動かしながら、キッチリつけ直したマスクの中で口角を上げる。「今も充分楽しいンですけど、半間と稀咲が居たらもっと楽しそうじゃないですか」と言えば──当の半間は、一瞬面食らった様な顔をして。それから、へにゃりと相好を崩した。どうも、本心からの言葉であると正しく受け取って貰えたらしい。

「ならオレらと一緒に動かねえ? 絶対ェ金魚のフンしてるより楽しいって」
「怠いし嫌」
「ばはっ♡ 即答かよ。しかもマジのトーンじゃん」
「いやー、こればっかりはどうも……輪を乱さないような団体行動とかぶっちゃけ向いてないンで……」
「……ま、オマエはそうだろうな」
「ふぅん、断られる前提でした?」
「まァなー? 兄貴が居ンのにコッチには来れねえだろ」
「そうですね」

 途中途中でカマを掛けられていることは察した上で、特に否定の言葉は返さなかった。わざわざカマを掛けてくるときの半間は、既にある程度の確信を持っていることが多いのだ。誤魔化しを重ねても無駄である。

「つーかお前ら・・・さあ」

 エレベーター待ちの間に話題を変えがてら、そういえばコレはどうなのかと──抗争の計画段階から今まで、ずっと知らされていなかったことを口に出した。静かなフロアに高いベルの音が響く。

「人のこと何だと思ってンの?」
「は?」
「あ、コレは『情報屋ナメてンじゃねーよ』って話な」
「……あ゙?」

 エレベーターの扉が閉まり、油断していたらしい半間の胸ぐらを掴み下げて。「抗争計画、知らなかったワケないだろ」と耳元で低く言えば、ギョッとした顔でパチパチと瞬きをして──それから、無言で視線を逸らされた。どうも半間は、先の抗争で私を刺す計画について、私に知られていることを知らなかったらしい。

「だってさァ……」
「ウン」
「ガチの堕天使と殺れるかもじゃん……!?」
「まァ、半間に限って言えばどうせそんなことだろうと思いましたけど」
「……怒ってねえの」
「ええ、半間元々そうですから。今更です」
「やめろやめろ含ませンな」
「はは、まァ、もうそこまで気にしなくていいですよ……と、お伝え下さい」
「だりぃ〜……テメェで言えよ……」

 溜め息混じりにも「稀咲の気が向いたらそっち行くワ」なんて言った半間に苦笑しつつ、掴んだせいで皺になった胸元の布地を伸ばしながら「待ってますね」とだけ返して。そのまま、相変わらず部屋の外に控える黒龍を探してカラオケへと戻ったのだ。

「……部屋覚える必要ないの、楽だな」
「ばはっ♡ 目印扱いすンのなんてオマエくらいだろ」
「は? 特服は普通に目立つ目印だろ。そもそも目立たせるために着てンだから」
「そこまで考えて着てねえと思うぞ」
「与太理屈にマジレスやめてねー」


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