「や、話は終わりました?」
話が終わった丁度そのタイミング、軽い調子で扉から顔を覗かせたのは、少し前に部屋を出たばかりのサブロー君だった。その頭の上から顔を覗かせた半間は「急に止まんな。邪魔」と言ってサブロー君のふくらはぎ辺りを蹴っている。
「イテッ」
「え、当たンの?」
「今のは避ける方が難しくないです?」
「アー……オイ、やっぱ避けれンじゃん。ワザと当たっただろ」
「部分的にそう」
「だりぃ〜……カスのア〇ネイターやめろや……」
「あなたが思い浮かべているのは彼の魔人ですね?」
「バツ。目の前のテメェのゲロ顔」
「最悪今ここで未消化の鶏肉吐かせるぞ」
「やれるモンならやってみろよ」
「よし来た表出な」
「ハ? ここじゃねえの?」
「ただの迷惑だろ頭使え。これだから鳥頭は……」
「鳥頭はオマエな???」
──本当に仲良いなこの二人。しかも喋りながらほぼ同じ体勢で繰り出された半間の二発目三発目を、サブロー君は本当に避けていた。何だこの人。しかもアキネ〇ターも外してるし。マジで何だこの人。
「──アレ? そういえば何か食べてくるって話じゃ……」
「え? 食べてきましたよ? 焼き鳥三十本」
「……今の短時間で?」
「ピーク過ぎてたからかガラガラだったんですよね。上の階の店なんですけど、美味しかったのでおすすめです」
ルーム内にある時計を確認したとて、長く見積もったとて十五分経っているかいないか、といったところだ。空いてたどころじゃなくないか?
稀咲ですら「早食いにも程があるだろう……」と呆れ返り、千冬に至っては「しかもさっきポムの〇食ったっつってなかったか……?」とドン引きしている。ここに関しては稀咲にすら全面同意である。
「? ええ、昼はもう食べてあるので、間食になりますね」
「サブロー君……冗談はもっと分かりやすく言った方がいいかと……」
「ハ? 別に冗談では……」
「間食で焼き鳥三十本食う奴があるか」
「食べましたけど……?」
可笑しそうに笑っている九井と半間以外が微塵も信じていない状況に、サブロー君は分かりやすく訝しげな顔──サングラスとマスクでほぼ見えないのは相変わらずなのだけれども──をしている。確かに冗談を言っている雰囲気には見えない。見えないけれども。
この人一応女子校通ってるんだよね? と千冬に視線を向ければ、同じ顔をした千冬と目が合った。だよなあ!?
「……アレッ、もしかしてマジで信じてもらえてないやつです? 食べましたよ?? ……エッ、食べましたよね???」
そう言ったサブロー君は振り返って「夢ですか? コレ」と、壁を伝ってしゃがみ込んでいる半間の胸ぐらを掴み上げている。──いや、半間は笑いすぎだろ。
「食べてましたよね!? ねぎま軟骨ぼんじりもも砂肝ささみ胸皮おたふくハツつくね!! それぞれ塩とタレ!! あとはひざ軟骨十本!!」
「呪文?」
「お前はももタレ十五本!!」
「ばはっ♡ よく覚えてンじゃん?」
「横でひたすら同じ串食べられたら早々忘れられないでしょう、流石に」
一頻り爆笑した半間は、サブロー君の手を雑に振りほどいて。そのまま「オレの倍食ってたのはマジ」と、尚も信じていなさそうな稀咲に向けて口を開いた。
「マ、
「どんな早食いだ……」
「や、左衛門はマジで早食いだから。稀咲の前じゃ割とずっとカッコつけてっけど」
「おい、なあ、人が取り繕ってることあっさり暴露しないで貰えます?」
「嫌♡」
「嫌か〜……なら何暴露しましょうかね……エロ本の趣味? 確か黒ギャルでしたっけ。巨乳の」
「オマエは黒髪美人だっけ? 清楚系のギャルの」
「やめましょうか、この話」
「つか清楚系ギャルって何だよ」
「やめましょう、この話」
千冬とまた視線を合わせ、どうもマジっぽいな……とドン引きしている間にも、サブロー君は自分の記憶を疑うこと──と、エロ本の趣味の話──をやめたらしい。比較的知っているいつも通りの雰囲気で「……はは、まさか食べたことすら信じてもらえないとは思いませんでした。そんなことあるんですね」なんて言いつつ苦笑している。
そんな姿を見て、そうそう、サブロー君ってこんな感じだよなと思った。
多少困って見せたとしても、すぐに持ち直す余裕があって。動揺するところなんて場地君関連以外では滅多に見ないような。飄々としていて、親しみやすさはある割に掴みどころがなくて。怒った顔も困った顔もポーズでしかなくて、本当のところは何を考えているかすらイマイチ分からなくて。
良くも悪くも人を惹きつけるカリスマ性が──なんてことを考えていれば、半間から「日頃の行いでしかねえだろ」と突っ込まれ「ウーワ、こんなに言い返せないことあります?」と撃沈していた。マジで仲良いなこの二人。しかも半間、容赦なく掴みに行くじゃん。
「……まァ、良いンですよ、そんな話は。それより話は終わりました? まだなら邪魔そうですし帰りますが」
「露骨に話変えようとしてンなー?」
「乗ってくださいね、いたたまれないので」
「おー」と言いながらもニヤニヤしながら揶揄う様に肩を組みに行った半間の腕を当然の如く躱しつつ、曰く、いたたまれないから露骨に話を変えようとしているらしいサブロー君は「それで?」と九井に視線を向けた。既に話を変えることは確定事項らしい。こういうところ、すごく『サブロー君』って感じがする。上手く言えないけれども。
「終わった終わった。丁度絶好調お喋り野郎共が戻って来たくらいにな」
「ふむ、東卍の方の認識は?」
「………………だいたい、同じ認識です」
「そう、良かったです」
──何で稀咲は反応しねえの!? 今のサブロー君、最初は明らかに稀咲に聞いてたじゃん!?
当の稀咲が俯いて黙り込んでいることから返事が返ってきそうにないことを察してか、すぐに視線はオレの方に向いたけれども。効率主義すぎない? それともマジで誰でも良くて、とりあえず稀咲に聞いただけとかある? ありそう。
それから、「サブローは残んの?」と聞いた九井と「眠いンで帰ります」と返したサブロー君は連れ立って帰って行った。思わずといった雰囲気で「ハ? 帰んの?」と聞いた半間を見て「あ……そういえば黒もよく似合いますね。流石は死神、そこにシビれる憧れ……は、しませんね。では」とだけ言い残して。
「──何を! しに来たんだ!! アイツは……!!!」
「……ハ? あの人喋るだけ喋って帰ったか?」
「焼き鳥も食べてたらしいけど……どうしよう、半間とすごい喋ってた記憶しかない……」
稀咲と千冬とオレが『何だったんだ今のは』と頭を抱える中で、ひたすら喋ってしっかり焼き鳥も食べてきたらしい半間は「ハァ?」と声を上げた。サブロー君が居なくなった途端にやる気が消え失せたのは何なんだ。
「ンなモン……フツーに紹介だろ。九井の」
「それが分かるのはマブパワーってヤツか……?」
「そういうこと♡」
ちなみに半間は件のマブパワーでサブロー君を引き込もうとしたが、すげなく断られたらしい。全然ダメじゃん。しかも断られたにしてはちょっと機嫌良さそうなのは何?
それからしばらく、半間にもうやだコイツ意味分かんない、とげんなりしていたら──千冬が「あー……」と呻いた。それも死ぬほど気まずそうに。嫌な予感しかしない。
「……半間。ひとつ聞いていいか?」
「ア? オレ?」
「……オマエ、っつかオマエ
──オレも稀咲も聞かないようにしてたことを……!!
「何でって……芭流覇羅で回ってたやつ見てたから?」
「……一緒に?」
「じゃねえとンなこと知ってるワケねえだろ」
「何やってんの!?!?」
「一虎も居たけど?」
「マジで何やってんの!?!?」
──半間ってサブロー君の性別知ってるんだよな!?!?
稀咲が九井と取り引きをしたあの場に居なかった半間に「念の為に聞くが、情報の共有は必要か?」と聞いて「興味ねえ」とアッサリ返されている声を聞きつつ、流石に色々疑うレベルの距離感と開けっ広げさに戦々恐々として。気のせいでなければ二人とも当然の様に言っていなかったか? なんて千冬と信じられない顔を向け合って。
しばらくそうしていれば、稀咲との話が終わったらしい半間が「……ア?」とオレたちの方を向いた。そういや居たなとでも言わんばかりの反応だ。この野郎……。
「そういやオマエら、学校凸ったンだっけ? ゲロったのってやっぱ一虎?」
「……おい、何の話だ」
「稀咲ィ、来年は予定空けとけよー?」
「だから何の話だ……!!」
「学祭行くぞ学祭」
「何でだよ! しかも何処のだよ……!!」
「来年こそはおもしれーモン見れるはずだからなー」
top|小説top