「ア、そういや稀咲」
「何だ……」
「仲直りしたン? アイツと」
花垣と松野と別れてしばらく。発作的な気まぐれを起こした半間のバイクでツーリングに連れ出された先で、思い出したようにそう聞かれた。
よりにもよって、流す先が日も落ちかけた冬の海だなんて。冷寒な空気を一身に浴びつつ、気分屋極まれりな様子にうんざりとしながらも、明らかにオレの返答を求めている言葉の意味を咀嚼した。
『アイツ』とは──言うまでもなく、久方ぶりに顔を見た左衛門のことだろう。
カラオケでは実に一ヶ月と少しぶりの再会にも関わらず、想像以上にそれまで通り、オレの力量を最大限買っていることを前提とした煽りをお見舞いされた。だから元鞘に戻ったのかと、そう見えても仕方がないのだと思う。
その実、左衛門とは十月末の抗争以来、連絡すらも取っていなかったのが現状だ。顔を見ていなかったどころの話ではない。つまるところ、今進めている計画も、予備として考えている計画も──果ては先の抗争を終えての話し合いだって、何もしていないというわけで。
「どちらか、あるいは双方の謝罪をもって仲直りだとするなら……多分、していない」
「ふーん」
「ただ、そもそも当初の計画から逸れていない以上、左衛門からの謝罪は必要ない。オレから謝るようなこともしていない。つまり仲直り自体必要ない」
「……ふーん?」
猫の様な目をゆるりと細め、それから、いつの間にか火をつけていたらしい煙草の煙をゆっくりと吐く。「その割には避けてたじゃん?」と言う半間は──相変わらず、どんな言葉を求めているのかが全く分からなかった。
そもそも、オレから左衛門へと連絡を入れていなかったのは、一度冷静になって
左衛門からの連絡がなかったのは──おそらく、アイツ自身が個人的に忙しくしていたのだろう。元より、オレが関わる以前から既に便利な情報屋として知られていた人間だ。頭に入っている情報も膨大で、取り引き相手の数も少なくない。アイツにとっての適切なタイミングで適切な情報を回し、安全地帯から混乱する場を見下ろし、己の
つまり、今まで通りにそちらをじっくりと熟していただけの話だ。おそらく。
──いや、本当にそうなのか?
「……なあ、」
「ン?」
「アイツが今、どこで何をしてるか聞いたか?」
「具体的には聞いてねえなァ」
「想像でもいい。アイツのマブならなんとか捻り出せ」
「あー……ンなら、兄貴の相手じゃねえの。今そっち居るっつってたぞ」
──なるほど、舎兄の相手もしているのか。それは確かに、こちらへの連絡が滞っていても不思議ではない。
それでも、もしも半間の言った通りであるとしたら。オレが諸々の整理をしている間に、舎兄と良好な関係に
左衛門ならば、怒涛の舎兄語りが始まるところではないだろうか。『聞いてもらえるのであれば壁でも観葉植物でもいい』とは左衛門自身がいつかに言っていたことではあるが、オレのところに語りに来ないというのは、オレがその、壁や観葉植物足り得る存在の選択肢から外れたとも取れるわけで。つまりそれは──
「まさか……」
「お?」
「見限られた……?」
──左衛門を引き込んだ当初からの懸念点が現実になってしまったと。そういうことにならないか。
「ばはっ♡ 稀咲って結構バカ?」
「馬鹿とは何だ……!」
そう達した結論は、ことさら愉快そうな顔をした半間の笑い声で爆散した。どうも半間から見れば違うらしい。
「ソレはねーよ。早いうちに稀咲連れてこっち来いつってたし、オレと稀咲が居た方が楽しいっつってたし」
「だったら何でオレに連絡がない!?」
「だりぃ〜……本人に聞けば?」
好奇心で聞いてはみたものの、想像以上に怠かったとでも言いたげな顔で。「流石に稀咲は着拒しねーだろ」と言われた言葉には、どうも含みが込められているような気もした。
「……オマエはされたのか?」
「オレじゃねーよ。マイキーとドラケンが着拒されたーって騒いでたってだけ」
「はァ……!? 何ッで、アイツはマイキーまで着拒してンだ……!!」
「あと多分一虎も? アイツは元々捨てアドっぽかったけど」
「何でだ……!!」
駄目だ、一々反応していては話が逸れる。情報屋がどうして、わざわざ
マイキーからは、一人だけ東卍に合流しなかったとして連絡も行っていたはずで。左衛門自身は基本的に、
つまりドラケンはマイキーに付随して、羽宮は──何処かで左衛門の気に障ることでもしたのだろう。容易に想像ができる。そんな中でも半間曰く、オレは着拒されていないと。
しかしやはり、それならばどうして、とも思うのだ。「じゃあ何で」と小さく漏れた声に、何処か気まずそうな半間の声が返されて──思わず、頭を抱えてしまった。
「アイツのこと刺すかもって計画、内緒にしてたじゃん?」
「……まさか、」
「そのまさか。アレ、全部知られてンぞ」
「どう考えてもソレじゃねえか!!!!!!!」
「ひゃは♡ 声でけー」
「クソ!!!!!!!」
「冬の海って結構声響くンだなー?」
感情を全て表に出した叫びは、裏声で言われた「でも、『もうそこまで気にしなくていいですよ』つってたぞ」との声で萎んで行った。そのあんまりなクオリティの声真似に、毒気を丸々抜かれてしまったのだ。
「半間」
「あ?」
「一応聞くが、今のは左衛門の真似か?」
「お、正解〜♡ 似てたろ?」
「全然似てない。本当に親友なのか?」
「ばはっ! ひっでえ言い様」
溜め息を吐きながらも言った「左衛門の声はそんな裏返ってないだろ」の感想には、少し間を置いて「……そうだっけ?」と首を傾げられる。何度でも言うが、本当に親友なのか? どうせやるなら真面目にやれ。
「……稀咲ぃ」
「今度は何だ……」
「まだ分かんねえの?」
「何がだ……!!!」
「……いや?」
スウ、と一度紫煙を吸い込み、それから、三分の一程度の長さになった煙草を足で踏み消した。そんな半間は目元を細めるだけ細め、じっと此方を見据え──おい、何だその顔は。
「……ま、分かんねえなら今はそれでいーワ」
「だから何の話だ……!!!!!」
「だりぃ……いーって」
「良くねえ!!!」
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そうして。何が何だか分からないままに「寒ぃしそろそろ帰ろーぜ」と言った半間に背中を押され、バイクの後ろに乗って。東名高速で戻る途中──小さく、半間が何かを言った気がした。
「何か言ったか!?」
「ひゃは♡ 何でもねーよ!」
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