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「よお」

 週明けの始業前。持ち寄った雑誌のスイーツ特集ページを開きながら友達二人と喋っていれば、頭にそれなりの重みが乗って。それから、既に声変わりを終えている低い声が降ってきた。この硬い骨張った感触は肘だろうか。

「おはよう場地。今日は来たんだ? しかも朝から。珍しいね」
「おー、この前はよくも逃げてくれたな」
「供給過多なの、加減して」
「きょうきゅうかた」
「用法用量を守って正しくお使いください」
「……薬?」
「そうなんだけどね。お勉強しようね」
「……つーかオマエ足速すぎだろ。チーターかよ」
「えっ、コレあだ名チーターになる流れ? 嘘でしょ?」
「速すぎてバイクかと思ったワ」
「あだ名がバイクになる世界線もあるの? 正気?」

 ようやく頭から退けられた肘の重みに首を回し、座ったままで場地を見上げて首を傾げる。分かりやすく話を逸らされたな、とは思ったものの。友達二日目で相変わらずよく知っているわけでもない人が、丁寧にも態度でそれ以上突っ込むなと示してくれたのだ。であれば、それ以上踏み込むのは無粋だろう。
 視線を机の上の雑誌に戻しながら「どっちも可愛くないからやめてね」とだけ言えば、場地はハッと笑って自分の席へと向かって行った。どうも私は、友達二日目な不良のラインを見極めることに成功したらしい──は? 今鼻で笑われたか? おいそれは話が変わってくる。
 喧嘩なら買うけど!? と反射で椅子を後ろに蹴り飛ばしかけたものの。秒で負ける未来が見えたので大人しく座り直した。いくら女は度胸だとはいえ、私だって命は惜しい。

「……え、マキちゃん知り合いだったの?」
「や、元々クラスメイトじゃん」
「いやいやいやいや、にしてもよ。あれ? 観察対象じゃなかったの?」
「はは、流石に失礼でしょ」
「自覚あったんだ!?」

 一連の流れを正面からぽかんとした顔で見ていた友達からは、当たり前のように質問攻めに遭った。確かに私も誰かがこんな状況になっていたら気になるし、多分普通に聞くよな、なんてことを考えつつも、ざっくりと先週末の放課後に成り行きで少し会話したことを話した。
 そうすれば、しばらく黙っていた方の友達から「そういえば去年も成り行きとか言って松野に突貫してたっけ」なんて、懐かしい話を持ち出される。そういえばそんなこともあったか。

「あの後しばらく松野と話してたのは何だったの?」
「少女漫画布教してた」
「何で? 本当に何も分かんないんだけど何? 何がどうなったらそうなるの? 何で私去年違うクラスだったの??」
「怖いもの知らずもここまで来ると末恐ろしいよね」
「そう? 松野、もう私よりハマってるよ」
「何で???」
「さあ、好みだったんじゃない?」

 質問攻めにしてきた方の友達は手で胃の辺りを押さえて「いつか好奇心で死なないでね」なんてことを言ってくる。黙って雑誌のファッション特集を読み込んでいた方の友達は、誌面から目を離さずに「いざとなったら玉蹴り飛ばしてでも自慢の脚で逃げなよ」とだけ言った。なるほど、わざわざ教卓をブン投げずともその手があったか。やはりモテモテ硬派ギャルなノキ宮軒さんは強いな。

「本当に大丈夫だったの……?」

 胃を押さえ、とうとう顔色をうっすら青白くした友達にはそんなことも聞かれたけれども。別に、想像以上に大丈夫だった、としか言いようがなく。

「喋ると結構普通の人だったよ」
「先生に凄む不良が……普通……?」
「あと割と可愛い」
「不良が……可愛い……?」
「しかもよりにもよって相手はあの場地圭介っていうね……正気?」
「ふふ、この目をご覧よ」

 にっこり笑って「正気じゃない様に見える?」と言えば、揃ってしばらく目元を覗き込んでいた二人は仲良く肩を竦めた。

「いつも通りだね」
「何考えてるかさっぱり分かんない」
「ええー、遺憾の意」
「今は何考えてんの?」
「今? 今は……ノキさんの爪ってどうなってんのかなって考えてる。それ自爪? 折れないの? そもそも重くない?」
「え、気になる? やってあげようか」
「どっかに引っ掛けてぶっ壊したら泣いちゃうからいいや」
「だと思った。やる気になったらまた言って」
「ウーン、愛」

 ──そこから、件のクラスメイトとは少しずつ話すようになった。そもそも留年している癖に毎日学校に来るわけでもないから、話す機会自体は他のクラスメイト程多くはないのだけれども。

「あれ、場地だ。おはよう。珍しいね」
「おー……オマエそれ毎回言うな……」
「明日は雪でも降るのかな」
「聞いてねえし……降るとしても雨だろ。もう四月だぞ」
「場地に日付感覚とかあったんだ……!?」
「ハ? あるに決まってるだろ。オレのこと何だと思ってんだよ」
「? 場地」
「……合ってるな」
「四月に降る雨なら桜流しかな。風流だね」
「……あ? 何の話だ」
「雨の呼び方。降る時期によってそれぞれ呼び方があるんだよ」
「へー」

 それでも、顔を合わせたら挨拶くらいする。その後は一言二言話す。何だかんだで次の授業までずっと喋っていることもあった。よっ友というか、何かそんな感じのものにはなれたんじゃないかな、と思う。
 顔を出す度に私と普通に話す姿を見ているからか、他のクラスメイトも場地に話しかけに行くようになった。最初はおっかなびっくり。そのうちに割と普通に話せる人だな? と気付く人も増え、今や腫れ物扱いは綺麗さっぱり消滅した。去年も同じクラスに不良がいた人もそれなりに居ることもあってか、皆踏み込んではいけないラインを見極めるのは上手いのだ。授業中に当てられたときの場地は相変わらずキレているけれど、それを「今日も元気だな〜」とか「絶好調じゃ〜ん」みたいなノリで軽く流せるようになったのだ。

「なーんか去年も見た光景な気がする。ミキは違うクラスだったけど」
「……もしかして松野千冬って人?」
「そう。マキ、松野のときもやってたよね。一匹狼の化けの皮剥がし隊 特攻隊長」
「ちょっ……と待って。ノキさんもしかしてそれ私のこと?」
「一年のクラスが違ったとてマキちゃん以外に居ないだろうなってことは分かるよ」
「遺憾の意!!」

 とはいえ。相変わらず毎日顔を合わせるほどではなくとも、場地が学校に顔を出す頻度自体は増えてきた。少しでも学校が楽しく思えてきたのであれば、それは良いことなのではないだろうか。
 ただでさえ留年していてそれまでの顔見知りは皆居ないというのに、誰だって自分を腫れ物扱いしてくるクラスに進んで顔を出したいとは思わないだろう。──ウン、やはり良い傾向なのではなかろうか。

「よお」

 また別の日。放課後の教室で友達と雑誌を広げ、各々が行きたいカフェを黙々とピックアップしていれば、窓枠に肘をついて声をかけてくる去年のクラスメイトが居た。高い位置まで刈り上げた金髪を不思議な髪型に整えている、場地よりも先に知り合っていた不良男子だった。

「げえ、松野」
「は? オマエ今『げえ』つったか宮軒」
「聞こえてるなら帰りな」
「はァ? 何でだよ」

 去年に聞いたところによれば、不思議な髪型はリーゼントの亜種らしい。「ニワトリのトサカっぽいね」と言えば、「オマエそれはバカにしてんだろ」と凄まれた後で、呆れた様に「だいたいそんな感じ」と言われた。どうも説明が面倒になったらしい。
 元々松野はあまり面倒見がいい方ではない。少なくとも対私での優しさで言えば場地に軍配が上がるだろう。場地は年が上だからそれほどおかしくないとも思えるけれども。

「どしたの。NANAの最新話ならまだ読んでないから何も言わないでね」
「はァ!? 早く読め。そんで感想戦させろ」
「早くしたいなら他当たって。ネタバレしたらキレるから」

 相変わらず雑誌に書き込んだ付箋を貼りながら「今はスイーツ巡りの計画立てで忙しいの」と言えば、不機嫌を全面に出した爆竹みたいな音量の舌打ちをお見舞いされた。そんなに語りたいなら自分で布教すればいいのに。──あれ?

「……えっ、今爆竹鳴った?」
「マキ、気持ちは分かるけどね。ただの松野の舌打ちだからね」
「だよね? びっくりした。とうとう口に爆竹搭載し始めたのかと……」
「はァ? ンなわけねえだろ人のこと勝手にビックリ人間にすんじゃねえよ。そもそもオマエらテキトーに喋りすぎ」
「えーごめん。というか松野さあ」
「ンだよ」
「無意味な不良仕草、やめてね。ミキさんが怯える」
「アー……それは、悪い」

 存外素直に謝った松野を横目に「ごめんねミキさん」と言えば、当のミキさんは「そう思うなら話振らないでね」と胃の辺りを押さえて言った。確かにミキさんは去年は違うクラスだったし、私が知る限りでは松野と話したこともないはずで。普通に怖いのだろう。つよつよギャルなノキさんと仲がいいからといって、全員が全員ノキさんの様な肝の座り方をしているわけではない。例えば──

「つか別に本題それじゃねえし」
「ナンパなら帰りな。私がマキミキ囲ってんの見て分かんないの? 野郎が無遠慮に近寄るな」
「テメェ宮軒……! この……!! 誰が……!!!」

 ──こういうところだ。正直なところ、松野とは私よりノキさんの方が仲が良さそうまである。お互いに言ったら死ぬほど嫌な顔をしそうなものではあるけれど、きっと喧嘩ップルというものだろう。少女漫画で読んだことがある。

「で? 本題って何さ」
「あー……場地圭介ってどいつだ」
「お呼びだよマキ」
「何で私……呼べばいいの?」
「や、そこまではいい。どいつかだけ教えてくれたら」

 そういうことらしいので、まだチラホラと人も残る教室に視線を向けた。席替えで真ん中辺りの位置になった場地を見ながら「あの長めの髪が綺麗な人。眼鏡の」と言えば、友達二人からはギョッとした視線を頂戴したのだけれども。少し考える様な間を開けた松野から「端の方に寄ってろよ」なんてやけに静かな声が聞こえたからには、それどころではなくなったらしい。
 ノキさんは綺麗な形をした眉をこれでもかという程に顰め、ミキさんに至っては一瞬で机の下に潜り込んだ。──速かったな。巨大地震が来ても建物が基礎ごと崩れない限りは生還できそうなスピード感だった。

「……なあ松野」
「あ? ンだよ宮軒」
「喧嘩するなら私らが居ないところ行ってやれよ」
「相変わらずうるせー……どうなるかなんて分かんねえだろ」
「あ、お話ししに行くの? ならヘアケア用品だけ聞いてきて。トゥルトゥル美髪の極意知りたい」
「牧野はどれだけあの髪好きなんだよ……!!」
「髪切ったらカツラ作って貰いたいくらい?」
「怖ェよ……!」

 なんだかんだで聞きそびれているんだよな、と思考を飛ばしていれば、しばらく頭を抱えていた松野からは「自分で聞け!!」なんて有り難いお言葉を頂戴した。そのままずんずんと場地の方まで向かって行って、場地の手元を覗き込んで──

「……何か、大丈夫そう?」
「だね。ミキさーん、出てきて良さそうだよ」
「大丈夫、私しばらくここに住むから」
「そう。気が向いたら出ておいでね」

 そうしてそのまま、不良同士の教室大乱闘は起こらなさそうだな、なんてことを思いつつ。相変わらず机の下から出る気がなさそうなミキさんに合わせて、ノキさんと私も机の下に潜った。──なるほど、狭い空間は案外落ち着くものだ。
 この間で教室に残っていた生徒はいつの間にか全員消えている。消えたというか、皆即行で荷物を纏めて帰って行った。それはそう。いくら片方が大概慣れてきた珍獣とはいえ、松野まで参戦したらそれこそ『どうなるかなんて分かんねえ』のだ。少なくとも片方は顔すら知らなかった不良がはじめましてをする場面とか、どう考えても普通に怖いし。私とノキさんが慣れすぎているだけである。

「この店どう?」
「都庁前……?」
「電車乗ればすぐじゃん」
「そうだけどさー……あ、こっちは? 道玄坂の方」
「え、ここいいね」

 今のところ普通に穏やかな話をしているらしい不良二人はひとまず意識の外に出すとして。ああでもないこうでもないと言い合いながら、机の下でスイーツ巡りの予定を立てていく。それぞれの予定とお店の定休日、それから、雑誌に書いてある情報と立地から混み合いそうな時間帯を考えつつもルートを考える。

「ここ行って、次ここ?」
「だね」
「で、ここで、その次ここか。や、その前にこっち行った方が効率良いかも……?」

 ノリノリのウッキウキで分刻みの予定を立てていれば、突然、今まではポンポンと返してくれていたはずのレスポンスが消えた。不思議に思って床に置いた雑誌に落としていた視線を上げれば、二人は揃って私の後ろを凝視している。軽く息を吸えば、至近距離からオイルと青のシーブリーズの香りがする。なーんか嫌な予感がする、気がするな。そう思った刹那──耳元で「その店、」なんて、声変わりをとうに終えた低い声が聞こえた。

「その時間結構混むぞ」
「どわーっっ!?!?!?!?」
「ハ?」

 ──マズい、驚きすぎた。コレは机の裏に頭を打つ。絶対痛い上にその後で絶対にすっ転ぶ。ええい、ままよ! 女は度胸……!! 後で絶対ミキさんとノキさんにヨシヨシしてもらうんだから……!!!
 そう思って、もうどうしようもなさそうな痛みに耐えるためにぎゅっと目を閉じる。そのうちに肩を軽く下方向に押さえ込まれる感覚と共に、机の裏にしては柔らかい何かに軽く頭をぶつけた。想像していた程の痛みは、ない。ないけれども。

「ッッぶね……!!」
「……! ……!!」
「……悪ィ、ビビらせたな」

 ──し、心臓が口から出るかと思った。

「……場地君」
「あ?」
「一回マキちゃんのこと離してあげてね」
「……あー」

 ほとんど私を抱え込んでいた場地の腕がそっと離れて行く。未だに衝撃で暴れ回る心臓を押さえつつ「ありがとう助かった……」と呟けば、気まずそうに「こっちこそ。悪かったな」なんて声が聞こえてくる。そのままあまり移動せずに頭に手が乗ったからには、おそらく私が頭をぶつけた机の裏よりも柔らかい何かは場地の手だったのだろう。──いや、デカいな、手。私の頭くらいなら本当に片手で鷲掴みできそうだ。
 多分場地はできてもやらないだろうな、なんて前提の元に、このまま頭を鷲掴みにされて胴体ごと振り回されたらジェットコースターみたいになるのかな、なんてことを考える。首は確実に死ぬだろうけれど、それでもちょっと楽しそうだ。──いけない、脳内の場地がとんでもないムキムキになりそうだ。しかも今、確実に二メートルはあった。

 そのままぼんやりとしていれば綺麗な黒髪が視界に入った。どうも今は髪を解いているらしい。
 珍しいな、なんてことを考えつつも手を伸ばして、そのさらさらとした手触りを堪能した。見たまま水分が足りていないわけではなさそうなのに、特にベタついている感触もない。太すぎず細すぎず、絡まりもごわつきもしていない。緩くウェーブがかった毛先ですら水分がたっぷり含まれていて、けれどやはり、柔らかく指の間を滑って行く。──すごい、今って絹糸触ってたっけ。

 少し遅れて「……マジで大丈夫か?」なんて声と心配そうな顔が視界にフレームインしたからには、ずっと黙っていることを心配されたらしい。ふむ? 机の裏から守ってくれた既にお礼は伝えたし、驚かせたことへの謝罪だってもらった。今更特にわざわざ口に出すべきことも──あるな。この際だ、今聞いてしまおう。

「場地さあ、」
「……オウ」
「シャンプー何使ってんの」
「………………石鹸?」
「は? 正気?」

 場地の顔の向こう側からは「いや、そのまま普通に喋り出す方が正気疑うから」「マキちゃんの場地君の髪への執念何なの?」「宮軒と意見が合うことになるとは思わなかった。ミキさん? はともかく」「ウワ、合わせてくるなよキモ」「ア゙?」「三木だよ。よろしくね、松野千冬君」「フルネームこわ」「不良に凄まれる方が怖いからやめてね〜」「……ッス」なんて声も聞こえてくるけれど、特に気にしないことにした。いつメンの中で、なんだかんだで吹っ切れたら一番強いのはミキさんだ。そもそも普通に気も強い。基本は誰彼構わず全方位を威嚇している松野ですら、秒で敬語らしきものを使う程の静かな圧がある。
 机に片手を掛けたヤンキー座りで机の下を覗き込んでいる癖に、爆速で不良でもギャルでもないミキさんに気圧されている情けない不良の松野は、まあ。とりあえずどうでもいいとして。

 ともかく、石鹸を使っているということはつまり、髪にも使えるこだわりの石鹸なるものが存在しているのだろうか。お高いサロンの専売品まで考え始めると、流石にないと言い切ることはできない。
 場地がお高いサロンに行って、しかも専売品を買うタイプなのだろうかと考えれば、正直首を傾げざるを得ないのだけれども。行かない……よな……? 全く想像ができない。行っているのであればそれはそれで面白いのでヨシ。是非とも教えてほしい。ついでに紹介してほしい。

 とはいえ、本当にただの石鹸を使っているのかもしれない。体を洗う石鹸でそのまま髪まで洗うのであれば多少ギョッとはするものの、サロンに通って専売品を買う場地の姿よりは遥かに想像しやすい気もする。そうなるとシンプルに場地がとんでもない美髪遺伝子の持ち主だということになるのだけれど、はてさて。

 もしも後者なのだとしたら──したら、どうだろうか。発狂する自信しかないな。授業中の場地みたいにキレ散らかすかもしれない。私にあそこまでの迫力は出るだろうか。きっと難しいだろう。

「どのメーカー?」
「どの……? フツーのやつ」
「実は石鹸っていっぱいあるんだよね。パッケージデザインってどんなのだったか覚えてる?」
「……牛が居た、気がする」
「……は? 赤い箱のやつ?」
「それ」
「うっそ牛乳石鹸でこの髪!?!? ありえなくない!?!?」

 思わず、指先で遊んでいた艶やかな黒髪を掴んで軽く引き寄せてしまった。場地からは「ハ!?」なんて声が聞こえてきたけれど、生憎私は切れてしまった感触がひとつもなかった事実に慄くことで忙しいのだ。
 そのまま「ドライヤーは!?!?」「ヘアミルクは!?!?」「櫛は!?!?」なんて聞いていれば、びっくりした顔のまま「使ってねえ……」「ヘアミルク? って何だ……?」「クシは適当な……アー、プラスチックのヤツ? 多分百均の」なんて答えが返ってきた。──ありえない。牛乳石鹸で自然乾燥かつヘアミルクを使わずこの纏まりと艶と手触り? しかも百均のプラスチック櫛だって? つまり最強の美髪遺伝子ってこと? 人生は不公平だ!!

「……そんなに気になるか? 三途にも聞かれたけど」
「はァ!?!? 誰よその女!!!! 絶対綺麗な髪してるじゃん!!!!! 紹介してください!!!!!」
「ハ? オンナじゃねーよ。幼馴染の野郎だっつの」
「ヘアケアガチ勢の……男子……?」
「そーだよ」
「……やっぱり本気で紹介してくれない?」
「絶ッッッ対ェ嫌」
「何で!!!!!!」
「オレが嫌」
「だから何で!?!?!?」
「なんでもいーだろ」

 ──まあ、場地が嫌だと言うのであれば今は諦めよう。そのうち気が向いたときに紹介してくれることを祈るしかない。この分だと気が向くこともなさそうだけれども。ヘアケアガチ勢の男子とか貴重すぎる。きっと綺麗な髪をしているのだろう。想像だけでもう羨ましい。お友達になってケア全般を全部聞き出したい。

「ねえー……私ら何見せられてんの? もうアレほぼバックハグからの壁ドンだろ」
「そろそろ場地が可哀想になってきたな……」
「壁ドンっつか椅子ドンだろ。つーかされてる側が頭撫でるとか強すぎねえ? シチュエーションとして」
「ぶっちゃけ髪触ってるだけなんだけどね」
「最早髪しか眼中にないと見た」
「しかも他の男紹介したくねえってそういうことか……?」
「うわ〜……場地君かわいそ〜……」
「アンタらは少女漫画脳すぎ」