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「東京……ナントカ……」
「東京卍會ね」
「本当に暴走族だ……」
「マキは来なくて良かったのに」
「ノキさん一人で族の中に突撃させるわけには行かないでしょ……」

 夜の武蔵神社、ここに来る人に用事があると言ったノキさんに着いて、恐る恐る顔を出した。すごい、どんどん厳つい音のバイクが集まってくる。当然の如く全員がヘルメットをしていない。事故を起こしたら大変なことになるのに。その辺りのことは分かっているのだろうか。分かっていなさそう。

「本当に特攻服だ……」
「あれ、知ってた?」
「……流石に見たことくらいはあるよ」
「意外〜」

 隣に立つ私の腰を抱いてしばらく周囲を見回していたノキさんは、途中で「あ、」と声を出した。お目当ての人でも見付けたのだろうか。ノキさんの視線を追いつつもそんなことをぼんやりと考えていたら、視界に特攻服を着た男が割り込んで来た。

「オウオウ、ここはオンナが来るとこじゃねーぞ!」
「……お前、どこの隊? 隊長呼びなよ。自分は女に絡んだダサい不良ですって」
「テメェ……!」
「ノキさん……!?」

 元々つよつよギャルだとは思っていたけれど、まさかここまでだとは思っていなかった。分かりやすい不良だ……! なんて感動している場合ではない。いや、感動できる場合なら素直に感動したいのだけれども。
 咄嗟にノキさんを背に庇う。しばらくそのまま、私越しに二人は睨み合って。しかしその不良の奥にチラりと視線を向けたノキさんは「エマ!!」と声を張り上げた。エマ君? エマちゃん? ともかく、その人がノキさんがここに来た目的の人なのだろうか。

「ノキ!? どうしたの?」

 驚いた様子で走ってきた人は、なんともまあ可愛らしいギャルの女の子だった。可愛い。金髪なのに髪は特に傷んでいなさそう。黒髪からあれくらいの色に抜こうとするとかなりギシギシに痛むはずなのだけれど、パッと見ではそれほどの印象は受けない。であれば、地毛であの色なのだろうか。素直に羨ましいな。

「この子見ておいてくれない?」
「友達?」
「うん。必要なら場地か松野の名前出していいよ」
「りょーかい」
「あと春のこと呼んでもらって良い?」
「春……? 三途?」
「や、林田。林田春樹。従兄弟なんだけどさ、ママにお使い頼まれちゃって」
「ああ、オッケー」

 「着いてきて!」と言った女の子──エマさんは、眩しい笑顔で私達二人の手を引いた。可愛い。眩しい。バイクのヘッドライトでキラキラ光るブロンドの御髪が素敵。でも今向かってるのってどう見ても何か、一際厳つい集団ではないでしょうか。私今からあそこに連れて行かれるの? 本当に?

「パー!」
「ア? ンだよエマ……ア!?!? 何でノキがこんなトコ居んだ!?!?」
「ママがアンタに持ってけって」
「あー……お!? 前に欲しいって言ってたヤツじゃねーか!! ざーーーーっす!!!!」
「うるさっ、声落とせ」

 従兄弟なのに苗字から取ったあだ名で呼ぶんだ……とは思ったものの。チラりとこちらを見たノキさんからは「初対面のときに冗談でミヤ・ノキですって自己紹介したら信じ込んじゃってそのまま呼ばれてんだよね。バカだから」なんて辛辣な声が聞こえてきた。そんなことある? どうもあるらしい。世界は広いな……。

「……あの、エマ、さん?」
「ん? なにー?」
「私牧野です、はじめまして、よろしくお願いします」
「……ノキ、この子ちょっと可愛すぎない?」
「私が囲ってんだ。アンタまで手出さないでね」
「やだ〜」

 ずっと気になっていたことをそろそろ聞きたくて、でもそれならば、先に自己紹介をしておくべきで。そう思って自己紹介をすれば、「可愛い〜!」と言われてぎゅうっと抱きしめられた。あのあのあの、あなたの方が余程可愛いと思います。恥ずかしい。照れちゃう。

「エマ、マキが窒息する」
「え? ……わあ、顔真っ赤じゃん。可愛い」
「追い討ちかけんな」

 女の子相手だし、変に格好つけない方がいい気もするし。そんなこんなで素でぺしょぺしょに照れ散らかしている中でも、エマさんは体を離してくれそうな気配はなくて。もうこのままで良いかと、声を掛けた本題を聞くことにした。どうにもならないことは開き直って諦めるに限るのだから。

「あの! ヘアケアって何使ってますか!」

 意を決してそう聞けば、エマさんは少しきょとんとした後で快く教えてくれた。ドライヤーは元々家にあったちょっと良いやつ、シャンプー類はドラスト系の中でもちょっと良い銘柄をライン使い。ヘアアイロンはノキさんに教えてもらった、今もノキさんが使っているやつ──ということは、私がノキさんに教えたやつだ──で、櫛だけはちょっとお高い静電気を抑えられるやつ。正直、だよねえ!? と思ったのだ。やはり努力の上に成り立つ髪質だ。
 「少し触っても良いですか!」と確認をすれば、快く「いいよ〜」と言ってくれて。当然、ニッコニコで触らせてもらったのだ。すごい、うるうるのぷるぷるだ。ちょっと細めでふわふわしている辺りも可愛い。

「撫で方優しすぎない? しかもこんなに可愛い顔して撫でられたらエマの方が照れそうなんだけど」
「いつものことだよ。諦めな」
「あの、あと、あと!」
「うんうん、ゆっくりで良いよ〜」
「三途さん? にも、同じこと聞きたくて!」

 かつて場地の髪質に目を付けたらしい幼馴染の男の子の名前が聞こえてきてから、実はずっと気になっていたのだ。ヘアケアガチ勢の男子とか希少種すぎる。そしてきっと最高の努力が元にある綺麗な髪をしているはず。
 そう思って緩みきった表情を戻さないままに名前を挙げれば、好き勝手髪を触らせてくれていたエマさんや、私達のやり取りをどこかほんわかとした雰囲気で見守っていた不良の皆様方からは「え゙っ」なんて声が聞こえてきた。少し離れたところからは噎せこんだ様な音も聞こえた気がする。
 ひとつだけ様子が違っていた音を追って視線を向ければ、真っ直ぐに伸ばされた薄いブロンドの髪が綺麗な人が、噎せこんだ後みたいな体勢のまま、信じられないものを見る様な顔でこちらを凝視していて。きっとあの人だ! と目を輝かせた。

「あの人ですね!? ちょっと行ってきます!」
「待って待って待って」
「何で!?」
「一回落ち着こうねマキ。可哀想な場地を二人も作り出さないで」
「……む」

 ノキさんが何を言いたいかはいまいち分からなくとも、なんとなく、今のエマさんにしている様な距離感とテンションで突撃するかもしれないことを心配されているのだとは思う。確かにこちらは一方的に名前を知っているとはいえ、相手は間違いなく初対面の不良男子だ。
 いくら場地と松野で大概慣れてしまっているとしても、全員が全員場地の様な信念を持っているとも限らない。それは幼馴染だとかいう、一般にざっくりとした基礎となる価値観が作り出されやすい幼少期を共に過ごした友人だからといって、本当に同じだとも言い切れない。

 少しシュンとして「ハイ……」と言えば、周囲にはあからさまにホッとした様な空気が広がった。そんなにヤバい人なのだろうか。三途さん。それとも私がヤバい人を認識されているとかある? ありそう。殺してほしいな。普段はもっとちゃんと格好つけているので、こんな感じではないんです。多分。きっと。そうだと信じたい。

「……オイ」
「……? あ! 三途さん!?」
「おー、隊長に行ってこいって言われたから来てやったけどよ……何だコイツ」
「エマの可愛い子」
「ハ? 私が囲ってる子だっつの」
「……」

 三途さんが顔を出してから、瞬きの間にノキさんエマさんの二人がかりで後ろから抱きしめられた。シレッと腕も押さえられている以上、変に動くなという言外の圧だった。分かります。正直助かります。手が伸びない自信がないので。
 そんなギャル二人の分かりやすい牽制に、綺麗な髪をした不機嫌そうな男の子は、面倒そうに眉を顰めた。『隊長』に言われたから渋々来たものの、さっさと話を終わらせて一刻も早くこの場を離れたい、なんて感情が手に取る様に分かる。かなり分かりやすいタイプの人だ。

「ヘアケアガチ勢って聞いたんですけど、普段何使ってますか!」
「……ナノケアの5441、クレイツイオン、シャントリとかヘアミルク系は模索してっけどとりあえずフィーノ、あとケントの櫛」
「なるほど! ありがとうございます!」

 基本的に良いものを使っているらしい。それでこの、おそらくブリーチを繰り返している中でも指通りの良さそうな髪質であるらしい。努力の賜物だ。
 やはり牛乳石鹸かつノーケアの場地がおかしいんだよな、と納得していれば、「テメェ人に聞いておいて自分は言わねえつもりか」なんてことを言われて凄まれたので、今使っているものを一通り言っておいた。ドライヤーを型番しか言わなかった以上、なんとなく伝わりそうだなと思ってこちらも型番だけを伝えたのだけれど、やはり普通に伝わったらしい。要所で「フーン……」に混ざって「だよな……?」なんて相槌が聞こえたからには、場地にヘアケアを聞いた幼馴染の三途さんとは彼のことで間違いないだろう。やはり牛乳石鹸洗髪であの髪質がおかしいだけなのだ。

 そのまま少し話して、満足したのか来たときよりも機嫌良く、ホクホクとした雰囲気で戻って行った三途さんの後ろ姿を見送る。こちらも満足です。お付き合いいただきありがとうございました。

「ねえノキ、可哀想な場地を二人も、って何?」
「マキ、エマにやったのと同じ感じで場地に色々聞いてんのよ」
「……もしかして場地の成績がちょっと上がるくらい勉強を教えてくれたクラスメイトって」
「多分マキだね」
「もう二度とやらないと誓いました」

 背中側から聞こえる会話であの地獄の勉強会のことを思い出してしまい、思わず遠い目をしてしまった。絶対もうしないから。少しの間そうしていれば、こちらを遠巻きに見ていた金髪の男の子が「えっ」と声を上げて近付いてきた。そして何故かその人に続いてわらわらと集まってくる。すごい……不良男子がいっぱい来た……!

「マジ? あの牧野さん?」
「どのでしょう……」

 しばらく場地の勉強を見た感謝を口々に伝えられ、一際厳つい見た目をした人からは、明らかにその苦労を知っていそうな声で「大変だっただろ」みたいな労いもされて。ひとつひとつに「いえ」とか「今はもうほとんど松野の功績で……」とか「ハイ」みたいな返事を返しつつ、相変わらず口々にされた自己紹介に「牧野です、はじめまして」と返し続けて。
 不良男子のエネルギーってすごいな……! と謎の感動を覚えていれば──人垣の向こうから、聞き慣れた低い声で「ア゙!?!?」なんて声が聞こえた。

「何でオマエがこんなとこ居ンだ!!」
「ノキさんの付き添いです」
「オンナが夜に出歩くな。危ねえだろ」
「ノキさんを一人で出歩かせる方が危ない」
「……つーかそもそもそのノキサンは何でこんなとこに来るンだよ」
「従兄弟に用事」
「従兄弟だァ?」
「林田春樹」
「ほーん」

 最初の勢いが嘘だったかのように徐々にいつも通りの空気へと戻った場地は、エマさんに「終わるまで見とけ」と言ってから、一度私の頭に手を置いて。いつかの様に目を細め、いつも通りにゆるりとひと撫でしてから、そのまま神社の中へと入っていった。どうも集会が始まるギリギリに着いたらしい。
 場地の後ろを小走りで着いて行った松野には謎にサムズアップをされた。何だあいつ。そもそも居たんだ。

「……えっ、もしかして場地、マキちゃんにはいつもあんな感じだったりする?」
「だいたいいつもあんな感じ。教室で声掛けてくるときはだいたいマキの頭に肘置いてるし」
「キモ……」
「ははは、エマさんすごい言う」

 ノキさんの用事も終わったことだし、と「そろそろ帰る?」と聞けば、エマさんとノキさんに揃って「何で!?」なんてことを言われてしまって。何でが、何でなんですけれども……。

「多分場地、帰り送るつもりでしょ」
「? バイクって三人乗りもできるの?」
「は?」
「や、だってノキさんも居るし……」
「私は春に遅らせるから気にしないで」

 聞けば、場地は基本的に松野と二人乗りをしてここまで来ているらしい。それなら松野は帰りどうするのだろうか。しばらくそう考えていれば、エマさんにもノキさんにも「アイツはどうにでもできるでしょ」と言われてしまう。どうもそういうことらしい。なんにも分からない。私だってどうにでもできますけど?
 それから。しばらくエマさんに質問攻めをされ、なんとなく良くない流れだなと思ったから、シレッとエマさんの方に話題を移動させて。さっきに散々礼を言われたドラケンさんとの話をふんふんと聞いて。そうして時間を潰していれば、いつもの如く頭の上に肘が乗った。正面に居たエマさんが一瞬ですごい顔になったところから察するに、肘の主はいつも通りに場地なのだろう。いつの間にか集会は終わっていたらしい。

「重いよ、場地」
「……絶対ェ帰ってると思った」
「そのつもりだったんだけどね。止められちゃって」
「エマか……ノキサン?」
「どっちも」
「悪ィな二人とも、助かったワ」
「キモ……」
「ア? うるせえよエマ」

 案の定「送る」と言った場地に「松野は?」と聞けば、場地の陰から「はァ!?」なんて声が聞こえてきて。そのまま、「オマエちょっとこっち来い」と言った松野に着いて、少し離れたところまで連れていかれた。

「あのなあ、場地さんが送るって言ってんだよ。大人しく送られとけって」
「松野と二人乗りしてるって聞いたけど」
「オレは一人でも帰れンだよ」
「私だって一人で帰れる」
「馬鹿がよ……信じらんねえマジで……」
「どう考えても松野よりはマシじゃん」
「ハイハイ天才天才。その国語力を日常生活でも使え」
「アレはたまたま」
「たまたまで全教科満点はねえから」

 そうして、話は終わりだとでも言いたげな雰囲気で三人が居る場所まで戻って行って。それから、少し遠くの方に停められていたバイクまで連行された。

「乗れ」
「ヘルメットは……」
「ねえよそんなモン」
「無事故無違反安全運転でお願いしまあす!!!」
「ハ? 当たり前だろ」

 正直ヘルメットがない時点で道交法には違反しているよなとか、多分普通に無免許だよなとか。思うところはたくさんあったけれど、この際もう考えないことにした。どうか事故を起こさず、補導もされませんように。
 場地に言われた通りに乗り込んで、言われたところに足を置いて。バイクの後ろに乗ったことなんてないから、何処に掴まれば良いのか分からなくて。しばらく手をウロウロとさせていたら、腕を持たれ、無言で場地の腹に回された。──何か普通に抱きついてませんか、これ。

「……コレ本当に合ってる?」
「合ってる合ってる」
「正気?」
「……正気」
「言ったね? 信じるからね?」
「おー、オレを信じろ」
「適当!?」

 そろそろ面倒になったのか「そろそろ出すぞ」との宣言通りに、バイクは滑り出した。──なるほど。こんな感じなのか。これは確かに、運転手に抱きついていないと上手くバランスを取れない、気もする。
 ええい女は度胸! 信じるからね! 後で文句言われても知らないから! と場地の背中に抱き着き直せば、次第に風圧もそれなりに受け流せる様になってきて。これはこれでちょっと楽しいかもしれない、とまで思えたのだ。安心できるぽっかぽかな背中にくっついていると、風の気持ち良さまで穏やかな気持ちで感じられる。

「場地!」
「……あァ!?」
「海! 海行きたい!! 連れてって!!!」
「はァ!?!? 今からか!?!?」
「今から!! 絶対楽しい!!」
「…………わーったよ!!」

 思わず、車検が通るはずもない爆音排気音に負けないくらいの大声が出た。だって、本当に楽しいのだ。こんなに楽しいのに、それほど遠くもない家に真っ直ぐ帰されるのはかなり寂しいものがある。また乗せてもらう機会なんてそうそうないだろうし。多分、次こそは事故への恐怖の方が勝ってしまう気がする。──であれば、今を最大限に楽しみたい。

「……着いたぞ」
「ひゃ〜〜〜〜!!!! すごかった!!!!!」
「そーかよ」
「夜の海って綺麗なんだね……!!」
「そうかあ? 朝の方がいーだろ」
「朝……早朝? 初日の出暴走みたいな?」
「オウ。アガるぞ」

 楽しそうに「水面がキラキラしてて良いんだよ」と喋る場地の話をふんふんと聞く。無理を言ってしまったかとも思ったけれど、場地も楽しそうだし、まあいいか、と思えたのだ。

「その時間に起きれるならそのまま学校来なよ」
「正月はガッコーねえだろ」
「……もしかして頑張って起きてる感じ? お友達? と初日の出見るために」
「ア? 悪ィか」
「いいや? 全然。楽しいんでしょ?」
「……そりゃあ、な」
「ふふ、そう。場地が楽しいなら良いんじゃない?」

 確かに毎日早起きをするのと、この日と決めた日だけ早起きをするのでは体力も意味合いも変わってくる。学校は楽しくなかったらしい場地が、お揃いの特攻服を着るほどに仲の良い、一緒に居て楽しいと思える友達と予定を合わせた挙句、頑張って早起きまでして遊ぶのだ。そりゃあ楽しいだろう。
 場地にもそれほど仲の良い友達が居るのだな、と思うとかなり感慨深い。誰目線かな? とも思うけれども。そこはほら、友達曰く私は『一匹狼の化けの皮剥がし隊 特攻隊長』であるらしいから。特攻隊長目線だということにしておこう。

 くふくふと笑って、そういえばここまで連れてきてくれたお礼を言っていなかったな、と思って。「場地!」と隣でバイクにもたれる場地の顔を見上げれば、何の動作も挟まずに目が合った。もしかしてずっと見られていたのだろうか。一人で笑っていたところも含めて? だとしたらかなり恥ずかしいのでは? ──なんて、そんなことは思っても、正直、場地がガン見してくるのはいつものことだしなとも思えて。気にせず言いたいことを言うことにした。

「ありがとう、連れてきてくれて」
「おー。満足したか」
「うん。夜の海とか初めて来たんだよね。バイクの後ろに乗ったのも初めてだし。初めてが場地と一緒で嬉しいよ」
「………………オマエな」

 たくさんの不良と会って、来たこともない夜の海に来て。ここまで連れてきてくれたのは、見慣れた制服ではなく、見慣れないながらも好きで着ていることが分かる特攻服を着たクラスメイトで。乗ったこともないバイクの後ろに乗って、運転はそのクラスメイトがしてくれた。
 しかも分かりやすく事故を怖がっていた私に配慮してか、要求通りの安全運転だった。不良の運転はもっと飛ばすか、もっとトロトロ走るものだと相場が決まっているのに。

 ある種の非日常極まりない今の状況に、変に振り切ったテンションをしている自覚はある。それでも、わざわざここまでしてくれた場地には、この感動をそのまま伝えたいと思ったから。いつもみたいに格好付けた反応では失礼だとすら思ったから。

「ねえ場地」
「おー」
「今ね、最っ高に楽しい!」

 取り繕わない笑顔でもう一度「ありがとう!」と笑う。そうすれば場地は真顔でピタリと動きを止めてしまったけれど、正直、これももう慣れたもので。場地が再起動するまでのんびりと観察することにした。
 あれだけの風圧をノーヘルで浴びたとて、場地の髪は全くボサボサになっていない。それどころか綺麗に纏まっていて。やっぱり羨ましいなあ、なんてことを思ったのだ。普通は多少なりとも絡まるというのに。羨ましさもそのままに、好き勝手にその髪を触ることにした。中々再起動しない場地が悪いよ。

「──は、」
「あ、おかえり」
「……あー、オウ。そろそろ帰んぞ」
「ふふ、ありがとう」

 帰りはまた、場地の温かい背中に抱きついて帰った。心做しか海に行くまでよりも更に安全運転にも思えるスピードには少し笑ってしまったけれど、吹っ切れた女の子は強いのだ。何も言わず、ただただその心地好い空間と風を楽しむことにした。