04

「我々の“窓”が受胎を確認したのが三時間程前、避難誘導9割の時点で現場の判断により施設を閉鎖──」

補助監督の伊地知さん曰く、今回の任務で現れる呪霊は特級に変わる可能性があるとのことだ。
本来今日のような任務に当たるはずの五条先生は出張中で、人手不足の結果わたしたちに回ってきたらしい。
特級呪霊に遭遇したことのないわたしには想像のつかない状況。だけどわたしよりはるかに知識と経験のある野薔薇ちゃんや伏黒くんが息を飲むのを見て、事の重大さを肌で感じた。

「自分の恐怖には素直に従ってください。君達の任務はあくまで生存者の確認と救出であることを忘れずに」
「あの、あの!」

話の途中で聞き覚えのない声が聞こえてくる。声の方に目をやると一般の女性のようだった。

「正は…息子は大丈夫なんでしょうか!?」

面会に来ていた保護者の方だそうで、他の補助監督の方に止められるのにも構わず必死にこちらに訴えかけている。
彼女の息子さんの安否は、わたしたちに掛かっているかもしれない。わたしの術式を上手く使わなければ。
その事実と責任が、この前払拭したはずの影をまた呼び寄せていた。

「伏黒、釘崎、苗字、助けるぞ」
「当然!」
「も、もちろんだよ」
「……」

虎杖くんの声は強い意志を持っていた。まるで迷いや不安なんてないように。今のわたしに必要なのは虎杖くんみたいな真っ直ぐさなのかな。どうやったらわたしも虎杖くんみたいになれるかな。任務の後にきいてみよう。そのためにも頑張ろう。
わたしは大きく息を吸った。

「お気をつけて」

伊地知さんが帳を下ろすと同時に伏黒くんが彼の術式で“玉犬”を出した。

「呪いが近づいたらコイツが教えてくれる」
「あっ、わたしも…!みんな、もし一回使っちゃったら忘れずに言ってね。すぐにかけ直すから」

わたしも術式を発動させ、三人に触れる。
この術式がどうか彼らを守りますように、そう願いながら。

「行くぞ」

扉が開かれた。
しかし、わたしたちの目の前に広がっていたのは少年院の寮などではなく気味の悪い建物の外壁。天井もなくまるで屋外だ。
わたしたちのいる場所は二階建ての屋内のはずなのに。

「扉は!?」

伏黒くんが弾かれたようにこちらに振り向き、それにつられるようにわたしたちも後ろを見た。
あろうことか、ついさっきくぐったはずの扉が初めからなかったかのように忽然と消えていた。

「ドアが無くなってる!!」
「なんで!?今ここから入ってきたわよね!?」

わけがわからない。どうしよう。虎杖くんと野薔薇ちゃんに至っては踊り始めるし……わたしもこれといって何か策も道具もない。
そんな空気を伏黒くんの凛とした声が破った。

「大丈夫だ。コイツが出入口の匂いを覚えてる」

コイツ、と言われた玉犬はもちろんですとでも言いたげにお行儀良く座っていた。
か、かしこい……かわいい……!!
野薔薇ちゃんと虎杖くんにおとなしく撫でられている玉犬……わたしも撫でていいかな……

「やっぱ頼りになるな伏黒は!オマエのおかげで人が助かるし、俺も助けられる!」

そっか。虎杖くんは高専に来る前に伏黒くんに会ってるんだっけ。
この前あれだけ活躍した虎杖くんに「頼りになる」と言われる伏黒くんの力はきっとこの玉犬だけじゃない。

──じゃあ、わたしは?

この状況の恐ろしさとはまた別にじわじわと迫り上がる焦燥感を振り切るように、わたしはこの異空間の奥へと足を踏み出した。

「進もう」