「起きたか」
家入さんの声…ということはここは医務室なのだろう。なんだかんだここを使うのは初めてな気がする。初めて高専の校舎を案内されたときに場所を教えてもらったきりだったから。
それにしても、どうやったここまで来たんだっけ。少しずきずきする頭を無理やり回転させ、記憶を辿る。
確か野薔薇ちゃんと暗いとこに飲まれて、呪霊に取り囲まれて……わたしが囮になって野薔薇ちゃんがあの闇を消してくれたのは覚えているが、倒れてしまってそれからの記憶はあまりない。でも、伏黒くんの声が聞こえた気がしたから、多分助けに来てくれたのは伏黒くんだ。
「っそうだ、みんなは…!」
「無理に起き上がらない。
勢いよく頭を起こそうとして家入さんに制される。すみません…ともう一度枕に頭を預けると家入さんはやれやれといった風に首を軽く振り、口を開いた。
「伏黒と釘崎は私が治療したから無事。二人ともさっき自分の部屋に戻ったところ」
「よかった……」
野薔薇ちゃんがいなかったらわたしはあの場所で死んでいただろうし、伏黒くんがいなかったらきっとわたしはここに戻って来れていなかっただろうからあの二人が元気になったことを聞いてほっと胸を撫で下ろした。
「あの、虎杖くんは…?」
「あー……虎杖は……死んだよ」
「え?」
しんだ?しんだって、どういうことだ。死んだ?あの虎杖くんが?怖いものなどなにもないような顔で元気に笑って見せるあの虎杖くんが?
集中治療とか、そういうのじゃなくて、死んだ…?
あんなに強かったじゃないか。フィジカルで言ったらわたしたちの中で一番じゃないかってくらい強かったじゃないか。
「初めてだろうから難しいかもしれないけど、あまり気に病まなくていい。“そういうレベルの相手”に遭遇したんだよ、お前たちは。」
家入さんが声をかけてくれたけれど、わたしはまだ現実を受け入れられていなかった。
知っていたはずだ。高専はそういう場所だってことは。だけど、わたしはわかっていなかったんだ。呪霊を祓う仕事というものの現実を。
一緒に過ごした期間はたった二週間。されど二週間。それでも情が移るには充分すぎる期間だった。ちょっと憧れてたのに。虎杖くんにどうしてそんなに真っ直ぐ居られるのか聞こうと思ってたのに。その虎杖くんと話すことはもう二度とできないのだ。
「…あの、家入さん……一つきいていいですか」
「ん。」
「……虎杖くんの……その、遺体には……会えないんでしょうか」
「……見ない方がいい」
「そう、ですか……」
家入さんの言葉に、少年院の遺体を思い出した。彼も、ああなってしまったのだろうか。
わたしがもっと強ければ。わたしがもっと早く二人の口論を止めていれば。わたしの術式がもっと役に立つものだったなら。今更考えてもどうしようもないことばかり頭に浮かんでくる。
わたしたちは、これからああいう状況にたくさん立つことになって、これから仲間の死も何度も経験することになるのか?
かたかたと体が震える。わたしは甘かった。ずっとぬるま湯の中に浸かって、覚悟ができた気で居ただけだ。
「名前、起きた?」
「ノックくらいしろ」
がらがらと扉を開けて入ってきたのは五条先生だ。
先生はわたしのベッドの横まで来ると近くにあった椅子を引っ掴んで座った。
「調子は?大丈夫そう?」
「体は…家入さんが治療してくださいました。けど……」
「その様子だと、悠二のことは聞いてるみたいだね」
「……はい」
「辛かったね」
五条先生の言葉で、先程まで出て来なかった涙が堰を切ったように溢れてこぼれ落ちる。泣いたってもうどうにもならないことはわかっている。だけど、一度溢れた涙は止まらない。
嗚咽混じりに泣き続けている間、五条先生は布団の上から優しく身体をさすってくれていた。
「……せん、せい」
「なあに?」
「わたし……高専、やめたいです」