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「夏油くん夏油くん!」

人懐こくぱたぱたとこちらに駆けてくるのは同期の苗字名前だ。私と悟と硝子の後から高専に入ってきた女の子。彼女は本当に呪術師なのかと不思議になるくらい“普通”でお人好し、いかにも性善説を信じてますといわんばかりに警戒心に欠けている。
そう、今だって私が彼女に抱いている想いになんか気づきもせずに彼女の方から尻尾を振って寄ってくるのだから。

「任務お疲れ様!これあげるね!」

私が任務帰りだと知っていたようで、赤いパッケージのよく見るチョコレート菓子の箱を差し出してきた。

「さて夏油くんに問題です。今日は何の日でしょう!」

私の誕生日にはまだ早いしハロウィンだってこの間だった。彼女の誕生日、というわけでもない。

「はい時間切れ!正解は、ポッキーの日でした!」
「ああ、もうそんな時期か」

この菓子はいつものお人好しからくる気遣いか何かかと思っていたが合点がいった。確かに名前ならこういったイベントごとも好きそうだ。
コンビニに寄ったら最後の一箱だったとか、ガタイの大きな私がちまちま食べているのを見たかっただとか楽しそうに話す名前を見て悪知恵がはたらく。警戒心の足りない子には、少しお灸を据えてあげないとね。

「ただ食べるのもなんだし、ポッキーゲームしてみようか」
「えっ、ポッキーゲームってどういう遊びか知ってて言ってる?」
「ああ。度胸試しに丁度いいだろ?」

ばりばりとパッケージを開け中の小袋から一本取り出してみせると、断りづらいのか「…じゃあ、一回だけね」と眉をハの字にして了承してくれた。
その顔が私を嗜虐心に火をつけているとも知らずに。

「名前はどっちがいい?選んでいいよ」
「ええと…チョコの方で。」

取り出した一本を差し出し、名前はチョコのついた方を、私はプレッツェル生地の部分を咥える。
想像していたよりはるかにお互いの顔が近くにあって、心臓が早鐘を打つのがわかる。だが、私以上に目の前の彼女の方が露骨に顔を赤らめ、緊張しているのがおもしろい。こんなにわかりやすくては普段の任務にも支障が出そうなものだが。

こえ、ろのたいみんうではじめうのこれ どのタイミングではじめるの

早くこの状況から解放されたいのか、オブラートに包んだ催促が入る。きっと彼女は私の戯れに少し付き合った後わざと折って自分の負けということで済ませるつもりだろう。
そんなこと、させるものか。

いつでもどうぞ、と目配せすると控えめにぽり、と少しだけ進んで「次は夏油くんの番だよ」と言いたげな視線を寄越した。
彼女に倣って、私も少しずつ食べ進める。
プレッツェル生地だけの部分からチョコの掛かった部分まで差し掛かったところで大きく口を開け一気に距離を詰め、無防備な唇に私のそれを重ねた。

「っ、ん!」

驚いた拍子に彼女が折ってしまったので仕方なく体を離し口内に残った長い菓子の塊を咀嚼する。
唇を舐めると甘ったるいチョコレート味。
真っ赤になって目を丸くしたまま動かない名前を前に、私は自然と口角が上がった。
君が少なからず私に好意を抱いていることなんてとっくに知っていた。私は、それを決定的にしただけ。

「私の勝ち」

ほら、警戒しないからこうなるんだ。


夏油傑とポッキー

企業戦略上等、存分に利用させてもらおう。