碧落ラストコネクション


「ど……どこだ、ここ!?」


知らない部屋、知らないベッド…ここは一体どこだ!?
目を覚ましたソレイユは1人、脳内の記憶と格闘していた。ベッドから降りて、白いカーテンを開き、窓の外を見る。

広がるのは、沢山の一軒家。新築のものから古い建物まで、数多くの家が並んでいる。住宅地と言うのが一番しっくりくるその風景に、もう一度心中に問う。
…マジでココどこ?

恐る恐る部屋の扉を開けると、やっぱり知らない廊下が続く。この部屋の隣や向かいにも扉がある事に気付き、ソレイユは片っ端から部屋の中を覗いた。
そのほとんどが使われていない空き部屋で、1つだけ誰かが住んでそうな部屋があった。生活感溢れる、普通の部屋。黒と黄色を基調とした色合いと、必要最低限の物しか置かれていないシンプルな部屋に、住民は男であると予想した。


「(普通の家っぽい….ってことは、僕は何処かで倒れていて、誰かに助けられた…ってことか?)」


自分がS級ランクの犯罪者である事を知らないのだろうか。と疑問もあったが、部屋を散策している内に下に降りる階段を見つけて、意を決して階段を降りる。どうやら自分がいたのは3階のようで、あの部屋数からかなり広い家である事を実感した。

下へ降りるにつれ見えてくるリビングらしき部屋を恐る恐る覗きながら降りる。大きな薄型液晶テレビにショートテーブル、廊下と同じ木のフローリングには白いカーペットが敷かれている。テレビ前に置かれたベージュ色のソファには、見知らぬ人間が2人座っていた。

ピンク色の長い髪の女と、金髪の男。後ろ姿だけでは誰だかは分からないが、会った事がない事だけは分かった。


「ちょっとサルファー!何よこのケープ、血取れないんだけど!?」

「オレに言うなや。本人に言え」

「あのアホも何で毎回こんなんで帰ってくんのよ腹立つ!!!私はクリーニング屋じゃないっての!!!」


女の方は何か怒っている。その理由は分からないが、今話しかけてもいいのだろうか。出るタイミングを伺っていると、そんなソレイユに気がついたのか、金髪の男が振り返った。


「おお、何やお前もう起きたんか」

「えっ、あ、はい…」

「ちょおこっち来い」


手招きされ、そちらへ近付く。すると後ろを向かされ、後頭部を撫でられた。


「たんこぶは出来てへんみたいやなぁ…もう頭は痛くないか?」

「えっ…あ、はい大丈夫っす」

「そうか。なら良かったわ」


やはり、自分を助けてくれたんだとソレイユは感動する。後頭部と言えば、あの“紅の修羅”に最後殴られた場所だ。思い出せば思い出すほど、恐怖が蘇る。
あの目、あの速さ…あれが本当の、“紅の修羅”なんだ。全く歯がたたなかった。完全に舐めていた。自分はまだまだなんだと、思い知らされる。

ソレイユは運良く良い人に助けられたのだと思い、金髪の男に向き直る。するとかなりのイケメンで驚いた。


「た、助けてくれたんすよね!ありがとうございます!!」

「え、オレ別に何もしてへんで」

「えっ…?」


なら隣の女だろうかと思いそちらに目を向けると、彼女が持っていた血だらけの紺色のケープに目を見開いた。

待って、僕、それ知ってる…

すると金髪イケメンの後ろの扉がバンッ!と開き、一番会いたくなかった人物が現れた。


「いやぁ〜スッキリスッキリ!一仕事終わった後のお風呂は最高なのです!……おや、ソレイユくん起きたんですか」


目も口も開きっぱなしで、塞がらない。
何故自分を気絶させた張本人がここにいるのか。どうしてそんなにニコニコしているのか…。


「なっ…なっ…なっ…!!!」

「菜?」

「何でッ!!おおおお前が…!?てかココどこだよ!?つーかお前ら誰!?」


ソレイユはパニックのあまりソファでくつろぐ2人を指差す。その態度が気に食わなかったのか、女は顔をしかめた。


「何なのアンタ。ガキの癖に年上を指差すんじゃないわよ」

「うるせえよオバサン!!」

「オバ…!?」


ソレイユの言葉に今にもブチ切れそうになるのを、金髪の男が宥める。ソレイユは完全にシアンに怯えてしまったのか、下手に動こうとはしなかった。


「そういや、自己紹介がまだやったなぁ…オレはサルファー・オーカー。んで、お前の言うオバサンが、マゼンタ・ラヴローフ」

「……私まだ18よ」


不貞腐れながら言うマゼンタに、サルファーは苦笑する。
対するソレイユは、2人の正体に驚いていた。2人共S級犯罪者で、ソレイユ同様ビンゴブックにも載る有名人だが、知名度では自分より彼らの方が上だ。

さらに罪人史上最凶の“紅の修羅”…シアン・ミルラーシュまでいる。どうして犯罪者同士が、こんな何の変哲も無い一軒家にいるのか。


「お、お前ら何なんだよ…こんなとこに僕を連れて、何しようとしてたんだよ!てかココどこ!?」


叫ぶソレイユに、マゼンタは鬱陶しそうに片耳を人差し指で塞いだ。そんな彼の言葉に同感とでも言いたげなサルファーはシアンに目を向ける。
その言葉を待っていました、とでも言わんばかりに、シアンは満面の笑みを見せた。


「シアンたちは“へき”という組織の者で、ココはそのアジトなのです!!」

「へ、へき…?」


ドヤァと効果音が鳴りそうな顔で言い放つシアンに、ソレイユは面喰らう。世界中には数多くの組織が存在しているが、そんな名前の組織は聞いた事がない。首を傾げるソレイユに、サルファーが口を開いた。


「ま、知らんくて当然や。結成したのは去年やし、行動もそんなにしてへんし」

「な、なるほど…ってちょっと待て!さっき何て言った!?アジト!?」

「そうや」


先程のシアンの言葉を思い出したソレイユはツッコミどころの多すぎるこの組織に驚き呆れていた。
何故S級犯罪者の組織のアジトが一軒家なのか。ルームシェアとか仲良すぎかよ。勝手に強い組織は仲が悪いイメージを持っていたソレイユは拍子抜けしていた。


「て、ていうか何で僕がこんなとこにいるんだよ!?」

「誘拐しました」

「はァ!?!?」


11歳にもなって、しかも女に誘拐されたことにソレイユはショックを受けた。そもそもどうしてあの時、自分を殺さなかったのか…不思議で仕方がない。
するとシアンはソレイユの考えてる事がわかったのか、微笑を浮かべた。


「キミにはまだ未来がある。まだ死ぬには早すぎなのです」

「犯罪者が何ゆーとんねん…」


ごもっともである。
ソレイユは疑わしげな視線を向けるが、本人は全く気にしておらず、終始ニコニコしたままだった。


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