碧落ラストコネクション


思わず慌てて紙切れを隠す。中に入ってきたのは、2つ年上の同僚だった。


「シグナル、何してるんですの?もう帰っていい時間ですわよ」

ローズピンクの長いストレートヘアを揺らし、コツコツとピンヒールの音を鳴らしながらこちらに近づいてくる。黒いファー付きのコートを着て、頭に黒いティアラの髪飾りをするその姿は、女王を思い浮かばせた。

「……キミこそこんな時間に何の用だい?チェリー…」

「あら、アナタはいつもここにいると分かって来たんですのよ?特に用はないけれど…もう、分かっているでしょう?」

チェリーと呼ばれた女はさらにシグナルに近づき、その腕を絡めた。猫撫で声で話す彼女に、シグナルは苦笑する。


「ねぇ、シグナル…ワタクシの気持ちも、気付いているのでしょう?」

「………」

「…もう、昨日からずっと上の空ですわよ?どうしたんですの?………もしかして、好きな子でもできましたの?」


チェリーの言葉に、脳内に現れたのはあの少女だった。彼女が最後に言った、“絶対に会える”という言葉がローテーションする。あれからずっと彼女の事しか考えていない事に改めて気付いた。


「…好きかどうかは分からないけど、気になる子ならいるよ」

「………それ、ワタクシの前で言っちゃうんですの?」

「聞いてきたのはキミだろう?」


ふわっと微笑むシグナルに、チェリーの頬は無意識に赤く染まる。整った顔立ち、透き通るような声、性格も良く四天王No. 1と強さまでも合わせ持つ彼は、言わずもがなモテる。
チェリー自身も女王と異名がつくほどに綺麗な顔立ちをしているが、彼女がどんなにアタックしても、彼は振り向かない。

そんな彼の、気になる子。


「……どんな子…なんですの?」


聞きたくないけど、気になる。
知りたくないけど、知っておきたい。


「特徴ってこと?」

「…まあ、そうですわね」


チェリーは恐る恐る聞いてみて、頭の中で想像し始めた。可愛らしい子なんだろうか。自分よりも美人で、スタイルも良くて………どのくらい、強いのだろうか。
しかしシグナルが口を開いて出た言葉は、予想もしていないものだった。


「…綺麗な青だよ。空みたいな」

「……え?」


何が、と主語の抜けた文章にチェリーは拍子抜けする。青…という事は、青の国の人間なんだろうか。けれど、昨日彼が任務で行ったのは、青の国と黄の国を繋ぐ街…エメラルドストリートだ。観光客か何かだろうか。


「……何が、青いんですの?」

「んー…髪……いや、雰囲気かな」

「……………」

髪ならまだしも雰囲気が青いってどういうことだ。それって具合悪いんじゃないのか。
彼の少し天然なところが可愛くて、少し笑ってしまった。

「…まあ、この話はまた今度にしておきますわ。ワタクシそろそろ帰りますわね」

「ああ。また明日」

チェリーは再びヒールを鳴らして部屋から去って行った。閑散とした空間が戻り、シグナルはもう一度窓の外を見る。
視界に映る黒い空と、脳内を支配する青い空が混ざり合う。

何故か無性に彼女に会いたくなっていた。



#02 赤の迷走
──空は迷路を誘い込む。   


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