#03オレンジビーンズ B
「ん〜〜まいうーなのです!」
「美味しいよね、ここのオレンジビーンズのケーキ」
ケーキを食べながら2人が仲睦まじく話す様子を、チェリーは面白くなさそうに見ていた。
「(折角のデートだったのに…)」
ふと昨日のシグナルの言葉を思い出した。
『綺麗な青だよ。空みたいな』
“ソラ”と名乗った少女を、先程とは違う目で見てみる。髪は空色と一致している。が、雰囲気が青というのはやはり分からない。
明るそうなその性格からして、黄色やオレンジを連想させた。
「キミはどうしてここに?観光地でもないのに…」
「黄の国へ向かう途中なのです!でも最近、あの国ちょっと怖いので不安なのです…」
「えっ…そうかな」
「あの国出身の犯罪者とか結構多いじゃないですか。史上最年少のテロリストも黄の国出身だし…ほら、3年前の黄の国機密情報流出事件の!名前は確か…」
「ハニー・プルミルですわ」
シグナルはチェリーが口を挟んだ事に驚いた。あのプライドの高い彼女が、気に入らない人間と話すなんて珍しい。
「おや、ご存知でしたか」
「元黄の国情報部のトップだった女ですもの。知ってるに決まってますわ」
「行方不明と聞いたのですが…」
「…そうですわ。でも、行方不明と言うには少し違和感がありますの」
──黄の国情報部局長ハニー・プルミルによって、意図的に流された国の機密情報と国民の個人情報、そしてネットワークを害する悪質なウイルス。重罪ではあるが、黄の国では大変珍しい死刑と異例の判決を下されていた。
事件後、彼女は自らの罪を認めた…はずだった。
「………はずだった?」
シアンは詳しく話すチェリーに聞き返す。シグナルは、真剣に聞くシアンの意図が分からないでいた。何故、犯罪者の彼女がそんな話を聞くのか。
…まさか、とあまり良くない可能性が浮かぶ。
「彼女は、処刑当日…突然行方を眩ませたのですわ」
「…!」
「彼女自身、罪は認めていたんですの。けれど嘘だった…ってことですわね」
罪を認めた人間が、わざわざ処刑当日に消える理由。シアンの脳裏には、いくつかの考えが過った。
「ワタクシが詳しく知っているのは、ここまでですわ」
「ほ〜よくご存知なのですねぇ。あまりニュースとか見ないんで勉強になったのです!」
「…まあ、これはニュースや新聞でもちょこっとしか公開されていない小さな情報ですし、知らなかったり、覚えていない人がいてもおかしくありませんわ」
メディアが大々的に公開したのは、彼女の犯した罪と、処刑が確定されたという事だけ。既に情報が漏れて大混乱だった黄の国は、更なる混乱を生むのを防ぐため、彼女が処刑当日行方を眩ませた事を伏せたのだ。
情報の修復等を優先して発信する事で国民を安心させ、罪人のその後の情報を公開する隙を与えない…赤の国では考えられないやり方だ。
しかし“世界最凶”の名を持つシアンが、黄の国の重罪人の詳細を知らないとは思わなかった。
「シグナルくん、ケーキご馳走様なのです!ありがとうございます2人とも〜」
「いや、あの時のお詫びなんだし、当然の事をしたまでだよ」
オレンジビーンズで飾られたケーキを食べ終えたシアンは、フォークを置きシグナルとチェリーに礼を言った。
「でもすみませんねぇ…お二人のデートを邪魔しちゃって」
「えっ、いやデートじゃな
「そうですわよ!!折角久しぶりのオフだったのに!!アナタのせいで台無しですわ!!!」
チェリーはシグナルの腕に強く絡みついてシアンに威嚇する。さっきまでの態度との違いに、シグナルは苦笑した。
「それじゃ、友人も待っているので、もうそろそろ行くのです。ありがとでした、シグナルくん」
シアンはそのまま席を立ち、その場から離れ去っていく。“絶対会える”日は、おそらく偶然会ってしまった今日ではない。ならば、その日はいつ来るのか。シグナルは店を出て行くシアンの背中を見て、おもむろに立ち上がった。
「………シグナル?」
チェリーはシグナルの行動に首を傾げる。そのままシアンの方へ向かい足を進める彼を見て、ふと思い出した。
『好きかどうかはわからないけど』
「(…………まさか)」
嫌な予感がして、こっそりシグナルの後をついていった。
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