碧落ラストコネクション


「ん〜〜まいうーなのです!」

「美味しいよね、ここのオレンジビーンズのケーキ」

ケーキを食べながら2人が仲睦まじく話す様子を、チェリーは面白くなさそうに見ていた。

「(折角のデートだったのに…)」

ふと昨日のシグナルの言葉を思い出した。


『綺麗な青だよ。空みたいな』


“ソラ”と名乗った少女を、先程とは違う目で見てみる。髪は空色と一致している。が、雰囲気が青というのはやはり分からない。
明るそうなその性格からして、黄色やオレンジを連想させた。

「キミはどうしてここに?観光地でもないのに…」

「黄の国へ向かう途中なのです!でも最近、あの国ちょっと怖いので不安なのです…」

「えっ…そうかな」

「あの国出身の犯罪者とか結構多いじゃないですか。史上最年少のテロリストも黄の国出身だし…ほら、3年前の黄の国機密情報流出事件の!名前は確か…」


「ハニー・プルミルですわ」


シグナルはチェリーが口を挟んだ事に驚いた。あのプライドの高い彼女が、気に入らない人間と話すなんて珍しい。

「おや、ご存知でしたか」

「元黄の国情報部のトップだった女ですもの。知ってるに決まってますわ」

「行方不明と聞いたのですが…」

「…そうですわ。でも、行方不明と言うには少し違和感がありますの」


──黄の国情報部局長ハニー・プルミルによって、意図的に流された国の機密情報と国民の個人情報、そしてネットワークを害する悪質なウイルス。重罪ではあるが、黄の国では大変珍しい死刑と異例の判決を下されていた。
事件後、彼女は自らの罪を認めた…はずだった。


「………はずだった?」

シアンは詳しく話すチェリーに聞き返す。シグナルは、真剣に聞くシアンの意図が分からないでいた。何故、犯罪者の彼女がそんな話を聞くのか。
…まさか、とあまり良くない可能性が浮かぶ。

「彼女は、処刑当日…突然行方を眩ませたのですわ」

「…!」

「彼女自身、罪は認めていたんですの。けれど嘘だった…ってことですわね」

罪を認めた人間が、わざわざ処刑当日に消える理由。シアンの脳裏には、いくつかの考えが過った。

「ワタクシが詳しく知っているのは、ここまでですわ」

「ほ〜よくご存知なのですねぇ。あまりニュースとか見ないんで勉強になったのです!」

「…まあ、これはニュースや新聞でもちょこっとしか公開されていない小さな情報ですし、知らなかったり、覚えていない人がいてもおかしくありませんわ」


メディアが大々的に公開したのは、彼女の犯した罪と、処刑が確定されたという事だけ。既に情報が漏れて大混乱だった黄の国は、更なる混乱を生むのを防ぐため、彼女が処刑当日行方を眩ませた事を伏せたのだ。

情報の修復等を優先して発信する事で国民を安心させ、罪人のその後の情報を公開する隙を与えない…赤の国では考えられないやり方だ。

しかし“世界最凶”の名を持つシアンが、黄の国の重罪人の詳細を知らないとは思わなかった。


「シグナルくん、ケーキご馳走様なのです!ありがとうございます2人とも〜」

「いや、あの時のお詫びなんだし、当然の事をしたまでだよ」

オレンジビーンズで飾られたケーキを食べ終えたシアンは、フォークを置きシグナルとチェリーに礼を言った。

「でもすみませんねぇ…お二人のデートを邪魔しちゃって」

「えっ、いやデートじゃな
「そうですわよ!!折角久しぶりのオフだったのに!!アナタのせいで台無しですわ!!!」

チェリーはシグナルの腕に強く絡みついてシアンに威嚇する。さっきまでの態度との違いに、シグナルは苦笑した。

「それじゃ、友人も待っているので、もうそろそろ行くのです。ありがとでした、シグナルくん」

シアンはそのまま席を立ち、その場から離れ去っていく。“絶対会える”日は、おそらく偶然会ってしまった今日ではない。ならば、その日はいつ来るのか。シグナルは店を出て行くシアンの背中を見て、おもむろに立ち上がった。

「………シグナル?」

チェリーはシグナルの行動に首を傾げる。そのままシアンの方へ向かい足を進める彼を見て、ふと思い出した。


『好きかどうかはわからないけど』


「(…………まさか)」

嫌な予感がして、こっそりシグナルの後をついていった。



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